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黄泉送りタクシー、鹿沼の出勤簿④ 【全4話完結】〜きさらぎ駅へようこそ〜  作者: 鬼喜怪快


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きさらぎ駅へようこそ②


 生ぬるい風が、

 2人の頬を撫でる。



 きさらぎ駅——


 都市伝説として有名になった怪異の駅。


 迷い込んだ人間は、

 実世界と連絡は取れるものの、

 2度と帰って来ることができない場所。



「マジできさらぎ駅なの?」


「駅名に書いてありますからねぇ。

 まさか偽物看板を貼り出すような

 愉快なことは誰もしないと思いますよ」



 東雲はカメラを握りしめた。



「大スクープじゃん!

 これって!」


「……」


「ちょっと辺り見てくる。

 この祭囃子も気になるしさ」


「少々お待ちください。

 会社と連絡を取ります」



 鹿沼はスマホを取り出し、

 東日本第4支部に連絡を入れた。



「もしもし。

 こちらYOタクシー東日本第4支部の春畑。

 どうかされましたか、鹿沼ドライバー?」


「受付の春畑さんですね。

 あなたが当番でよかった」


「どうかされましたか?

 事故ですか?

 乗車客トラブルですか?」


「どちらかといえば事故でしょうか」


「かしこまりました。

 お客様はご乗車中ですよね?

 別のタクシーを手配いたします」


「ぜひお願い致します」


「正確な場所を教えていただけませんか?

 GPSの調子がおかしいのか、

 場所がどこかの海の上にいらっしゃる

 ことになっています」


「海ですか……

 実際はなかなか趣のある山の中にある

 駅なのですがねぇ」


「山の中にある駅!?」


「えぇ。

 きさらぎ駅にいるのですよ」


「……きっ、きさらぎ駅!」


「本ルートに戻るにも、

 道がわからず、ナビも誘導してくれません」


「冗談をおっしゃってるのですよね?」


「私……。

 冗談を言うタイプに見えますか?」


「……いえ。まったく」


「特に被害はないのですが、

 この辺りの地理関係が

 まったくわからないのです。

 よければ、トンネルの位置まで

 案内してもらえないでしょうか?」


「鹿沼ドライバー」


「はい?」


「落ち着いて聞いてください。

 もし本当にきさらぎ駅にいらっしゃると思って

 お話しします。

 まず、絶対にお客様を車外に出さないこと」


「了解です」


「それと、

 きさらぎ駅は当時、弊社の東日本第2支部と

 西日本第8支部が管轄しておりました」


「東と西の支部が共同管轄にしていたのですね。

 別に珍しくもない。

 よくある話ではありませんか」


「あくまで当時です。

 今は管轄外であり、

 立ち入り禁止地区になっています」


「おやおや。

 穏やかではありませんねぇ。

 どうして立ち入り禁止地区に

 なったのでしょう?」


「申し訳ありません。

 わたしもそこまでは……

 とにかく、今から第2支部と連絡を取り、

 地図ときさらぎ駅周辺の情報をもらいます。

 しばらくお待ちいただけますか?」


「わかりました。

 なるはやでお願いします。

 少々、わたしが言うのも何ですが、

 不気味な駅でしてねぇ……」


「わかりました。

 急ぎます」


「ところで……」


「!」


「先ほどから祭囃子が聞こえるのですが?

 これは何でしょう?」


「こんな時間に祭囃子?」


「えぇ。

 しかも……近づいてきているような」


「……鹿沼ドライバー。

 すぐにその祭囃子が聞こえない場所まで

 移動してください。

 昔、YO事務員の研修を受けた時に、

 追いかけてくる祭囃子との

 遭遇に関しての話があった記憶があります」


「……面白そうな研修内容ですねぇ。

 祭囃子と遭遇するとどうなるのでしょう?」


「20年以上も前のことですが、

 あるYOタクシードライバーが失踪し、

 タクシーだけが失踪後、5年以上も経って

 発見されました」


「……」


「車内に手帳があったらしいのですが、

 祭囃子が近づいてくる……

 祭囃子がすぐそこで聞こえるのに、

 何も見えない……

 怖い……。

 何かがすぐそばにいるのに、

 駅しか見えない……」


「おやおや……」


「そこで記載が終わっていたようです」


「興味深い怪談話ですねぇ。

 実際にその場所にいながら聞く怪談は、

 背筋が凍りますよ……」


「現場の写真を一度送ってください。

 第2支部に連絡を入れた時に相違がないか

 確認をとります。

 それと先ほども言いましたが、

 絶対に車外に出ないように!」



 そこで電話は切られた。


 鹿沼は飄々とした顔で、

 スマホの画面を眺めている。


 実はこう見えて、

 かなり怯えているようだ——



「東雲様。

 スクープ写真を撮りたいようですが、

 会社から絶対に車外に出ないよう

 指示がありました」



 鹿沼は後部座席に振り返り、

 念を押す。



「ですからここでしばらく——」


「!?」


 

 すでに東雲の姿はなかった。

 

 後部座席の扉が開いたままになっている。



「音も立てずに出て行きましたか。

 これは迂闊でしたねぇ……」



 祭囃子の音はまだ遠い——。



「これ……。

 何かあれば私の責任問題に

 なるのでしょうか?」



 スマホと財布をポケットに入れる。

 


「……いやですねぇ。

 始末書程度で済むならいいのですが……」



 鹿沼は、

 指示を受けている車内待機を破り、

 きさらぎ駅に足を下ろした。



「とりあえず、

 東雲様を探して撤退しましょうか」


「!?」


「おっといけない」



 ——カシャッ! カシャッ!


 受付の春畑から言われていた、

 周辺の写真を撮って送信——



「さて……。

 嫌ですが行きますか」



 ぽつりと呟き、

 鹿沼はきさらぎ駅を見上げた。


 


 

 

 

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