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黄泉送りタクシー、鹿沼の出勤簿④ 【全4話完結】〜きさらぎ駅へようこそ〜  作者: 鬼喜怪快


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きさらぎ駅へようこそ①


 

「盗撮はいけませんねぇ……」


「!」



 覗き込む望遠レンズ越しに、

 鹿沼のドアップの顔が見えた。



「きゃあぁーっ!」



 木の上から、

 料亭に向けてシャッターチャンスを狙っていた

 東雲翠《しののめすい》は驚きのあまり、

 落下していった。



「あっ、あんた!

 なんなのよ!

 仕事の邪魔しないで!」


「おやおや。

 お亡くなりになっても仕事をなさっている。

 見習うべきお方ですねぇ」


「勝手に見習うな!

 あんた、誰よ!」


「これはこれは申し訳ございません。

 私、YOタクシーの鹿沼と申します。

 逝く先がわからず、

 彷徨っていらっしゃるようですので

 お声掛けをいたしました」


「なんだ。

 案内人のひと……間に合ってます。

 お帰りください」


「……」



 東雲は浮遊霊に属する。


 しかし成仏を断るということは

 地縛霊案件になる可能性があった。


 浮遊霊は1ポイント、

 地縛霊は5ポイント、

 そう簡単には引き下がれない。



「スクープカメラマンの方ですか?」


「だったら何よ?」


「いえ。

 私程度にあっさり見つかるくらいですから、

 さぞかし大きな案件をいくつも世に出した

 方なのではと思いましてねぇ」


「何かしら……

 その妙にムカつく言い方は……」


「気に障りましたなら、謝罪いたします」


「ふん。

 河合議員の不倫……。

 あれ、私のスクープなんだけど」


「……それはそれは」


「あんた、ピンと来てないでしょ!」


「そもそも河合議員と言われましても……

 山ほどいそうな議員名ですからねぇ」


「誰よりも真面目に!

 誰よりも覚悟を持って!

 国民の皆様の暮らしを守るのは誰!?

 それは誰よりも可愛い議員!

 河合愛莉議員です!

 の河合議員じゃない!」


「なんということでしょう。

 ますますわからなくなりました」


「嘘でしょ?

 2010年の流行語大賞に

 ノミネートされたくらいよ」


「2010年……今から16年も前の話など、

 誰も覚えてませんよ……」


「16年前!?

 もうそんなに経つの?」

 

「!」



 鹿沼は16年前に反応した。



「あなた……。

 何年前にお亡くなりになったのでしょう?」


「河合議員のスクープの翌年だから2011年でしょ。

 だから、えーっと。

 15年前になるのかな?」


「15年前!」



 鹿沼の心が震えだす。


 死んでから5年以上経った魂は、

 訳あり魂と分類され、

 最低でも6ポイント以上が約束されている。


 鹿沼は表情を一切変えずに、



 ——チャンス到来!



 心の中で拳を強く握ってみせた。



「15年も彷徨ってらっしゃるなら、

 そろそろ成仏の頃合いでしょう。

 さあ、あの世に参りましょう」


「いやよ!

 とんでもないスクープを取らないと、

 成仏なんかできないわ!」


「15年張り込んで、

 ビッグスクープがないのですよね?

 何年頑張るのですか?」


「納得できる写真を撮るまでよ!」


「撮ったとて。

 誰に見せて、どこで発表するのです?」


「……あーぁ。

 それ言っちゃった」



 東雲のテンションは急激に落ちた。



「正論を言ったまでです。

 わからず屋の霊にははっきりと

 言って差し上げないと……」


「ロマンよ!

 スクープはロマンなのよ!」



 この手の幽霊はタチが悪い。

 

 フットワークが軽く、

 全国どこにでも動ける浮遊霊でありながら、

 絶対に成仏しようとしない地縛霊の属性を

 持つ亜種の幽霊。


 普段の地縛霊なら説得を

 いち早く切って次を探すのだが、

 今回は訳あり魂……。

 

 そう簡単に見捨てられない。



「あなた。

 スクープの落ちてそうな場所知らないの?

 教えてくれたら成仏してもいいかなって、

 思うんだけど」


「おやおや。

 取引ですね。

 これはこれは……死んでから年季の入った方は

 肝が据わってますねぇ」


「どうなの?

 わたしの行ったことのない場所、

 連れて行ってくれない?」


「行ったことのない場所ですかぁ」



 鹿沼はふと思った。


 とりあえずタクシーに乗せてしまえば

 こっちのもの。


 縁分駅まで行って、

 死者にしか見えない駅と伝えて

 写真でも撮らせればいい……。



 ——彼なりの妙案を思いついていた。



「わかりました。

 連れて行きましょう。

 とっておきがあります」


「よし!

 決まりね!」



 こうして鹿沼は東雲を見事タクシーに

 乗せることに成功した。

 


 ——————



 景色など何も見えない

 夜霧に包まれたトンネルを走る。


 目指すは縁分駅——。



「とっておきって、

 どんなところ?」


「それはですね。

 世にも珍しい死者にしか見えない駅。

 縁分駅というところにお連れいたします」


「……それって、

 あの世逝きの電車がある駅じゃん!」


「ぎくっ!」


「あんた、騙したわね!

 今まで散々幽霊してきたのよ!

 何度も案内人に連れて行かれそうになりながら

 躱してきたの!

 縁分駅くらい知っているわよ!」


「ふふふっ。

 でもあなたはこのタクシーに

 乗ってしまいましたねぇ。

 もう降りられません。

 このタクシーの到着場所は

 縁分駅なのですから」


「ふざけるな!

 この嘘つき! 詐欺師! ペテン師!

 ちょび髭!」


「髭生えてませんけど……」


「引き返しなさい!」


「わっ!

 ダメですよハンドルを勝手に触っては!」


「Uターンしてっ!」


「ちょっ!

 まずいですよ!

 夜霧の道を外れました!

 これは規定ルートを——」



 ——ガッシャーンッ!



「おやおやおやおやおやおやぁ!」


「きゃあぁあぁあぁーっ!」



 本来走るべきでない場所を走り、

 夜霧のトンネルを突き抜けた。


 突然、鹿沼たちの目の前には

 鬱蒼とした木々に囲まれた山道が広がった。



「カメラマンさん!

 あなた、とんでもないことをなさいますねぇ!

 前代未聞ですよ、こんなこと!」


「あっ、あなたが嘘ついて

 タクシーに乗せたからでしょ!」


「運転中にハンドルを後ろから

 握るだなんて……

 危うく死ぬところです!」


「わたしもう死んでんじゃん……」


「おやおや……」



 タクシーは山道をしばらく走ると、

 大きな道路に出た。


 

「どこよここ!?」


「夜霧のトンネルを突き破るだなんて

 やったことありませんからねぇ……

 私ども第4支部の管轄外ではないでしょうか!?」


「何よ、タクシー運転手なのに

 道も詳しくわかんないの?

 頼りないわね。

 あとで会社に電話して、鹿沼ってドライバー

 最悪だったってクレームを入れてやるわ!」


「どうぞご自由に……」



 東雲が後部座席から騒いでいる間に、

 鹿沼は駅を発見した。



「おや、駅が見えますねぇ」


「何よ!

 結局は縁分駅に着いちゃったの?

 わたし降りないから!」

 

「よかった。

 一瞬、彷徨ったかと思いましたが、

 縁分駅にいつもと違うルートで到着した

 だけでした」



 鹿沼はロータリーに入ったところで気がついた。



「おや?」


「ちょっと!

 勝手に駅に入るなって!

 本当に降りないからね!

 スクープ撮ってないんだもん!」



 鹿沼から返事がない。



「ちょっと聞いているの!」


「これはこれは厄介な……」


「……何よ?

 何が厄介なのよ?」


「縁分駅だと思って来たのですがねぇ」


「はぁ?

 厄介な駅に来たっていうの?」


「えぇ。まさにその通り……」


「駅に厄介もクソもないでしょ」


「ありますよ……

 聞いたことありませんかねぇ……」


「?」


「……きさらぎ駅」


「えっ?」



 深夜2時を過ぎているのに、

 どこからか聞こえる祭囃子——


 

 縁分駅を目指していたはずの

 鹿沼たち——


 しかしたどり着いた先は、

 予想だにしなかった、怪異の駅だった。

 

 


 


 

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