64章 キクラゲとカブトガニ
海音とシーラがグゲンダルと戦う中、道人たちもマーメイドデュラハン軍団との激闘を繰り広げていた。ヘッドチェンジはディフィカルトクラーケンMk-2とラクベスと戦うまで温存する考えだったが、軍団の数はなかなか減らず、このままでは持久戦を強いられてしまう。
「一体何人いるんだ、こいつら…?」
道人は周りを見渡すが、敵の数が減った気がしなかった。
「俺が御頭公園で闘った時もそうだった…!こいつら、後からどんどん増えやがったんだ…!」
深也は道人の隣に移動し、話し掛けた。
「皆さん!そいつらには一体のオリジナルがいて、他は分身体に過ぎません!キャルベンはそうやって兵士を増やしているんです!オリジナルはこの場にはいません!」
遠くで海音がグゲンダルと戦ってる最中に教えてくれた。
「なるほど、ミジンコみてぇな奴らだな…!しかも、元の奴はこの場にはいないときた…!」
「そんなの、どうやって倒せば…!?」
深也と道人は戦場やデバイスを見て打開策を考える。
「…よし、決めた!あたしとトワマリーがあいつらを足止めするから、道人と深也、スランは木倉下とラクベスの相手をしてきて!」
「あ、愛歌?」
愛歌が無茶な作戦を提案してきて道人と深也は後ろの愛歌を見た。
「しょうがないでしょ、そうしないと!大丈夫!兵士たちは引きつけてみせるから!その代わり、あたしとトワマリーがへとへとになる前に決着つけてよね?」
「私も愛歌ちゃんのサポートするわ!」
大神が愛歌の後ろまで走ってきた。愛歌は後ろを振り向いてノートパソコンを持った大神を見る。
「私があいつらの分析をしてみる!分身体って言っても無限に作り出してる訳ないもの!絶対に限りはあるはずだし、必ず何か弱点があるはず…!」
「頼りにしてますよ、大神さん!さぁ、行って!道人、深也!」
道人と深也は愛歌と大神の真剣な眼差しを信じる事にし、互いに目を合わせて頷いた。
「…よし!頼んだぜ、愛歌!」
「帰ったら駄菓子三千円分奢るよ!」
「誠かっ!?俄然やる気が湧いてきたぁっ!」
道人はガントレットの剛力でブーメランを投げ、兵士たちを吹っ飛ばして作った道を深也と共に走る。
「ジークヴァル、ランドレイク、スラン、そういう事だかラ、言っテ!」
「わかった、気をつけるんだぞ!」
「ちゃっちゃと終わらせて来るかんなぁっ!」
「ありがとう、トワマリー!」
ジークヴァルとランドレイクも道人と深也と合流し、二人の前に来て兵士を蹴散らして進む。
「絨毯爆撃かますから、早く離れてよぉっ、道人たち!行くよ、トワマリー!」
「何時でもどうゾ、愛歌!」
愛歌はブルームウィッチのヘッドカードを実体化する。
「ヘッドチェンジ!ブルームウィッチ!」
『あなたは魔法を信じますか?』
「無論。」
『承認。』
トワマリーはブルームウィッチの姿となり、箒に跨って空を飛んだ。愛歌も神殿近くまで下がる。
「ほらほラ、三分間だけの特別サービスだヨ!受け取りなさイ!」
BWトワマリーは鞄の中から星形、パンプキン、キャンディーの形をした爆弾を投下し、マーメイドデュラハンたちを次々と爆撃していった。
「すごいな、愛歌のレアヘッド…。」
道人は後ろを振り向いてBWトワマリーの暴れぶりを見て驚く。
「道人、余所見してんな!ほら、お出ましだぜ?」
深也が立ち止まったので道人も合わせて立ち止まった。目の前の砂浜にはディフィカルトクラーケンMk-2とラクベスが立ち塞がる。
「ケケッ、来やがったか!キャルベンの兵士たち相手に随分手こずってたなぁっ!このまま手こずってくれたら楽できたのによぉっ!」
木倉下も姿を見せる。
「そうかよ!だったら、大人しくキクラゲでも食ってろ!」
「貴様、俺の名字をネタにしたな…?許さん!俺を馬鹿にするのはいい!だが、キクラゲを馬鹿にする事は俺が許さん!」
「いや、キクラゲは馬鹿にしてねぇよ!」
深也と木倉下のよくわからない煽り合いがヒートアップする。
「ラクベス、まってて!すぐにもとにもどしてあげるからね!」
ラクベスにスランの言葉は届かず、静かに佇んでいた。
「ラクベス…。」
「よし、まずはラクベスからあのヘッドを外して正気に戻す!その後、みんなでディフィカルトクラーケンMk-2を倒す!いいね?」
「異論なしだ、道人!」
「ジークヴァルと同じく!」
道人の指示をジークヴァルとランドレイクは聞き入れた。
「行くよ、深也!」
「おう!」
二人はカードを実体化し、デバイスに読み込ませる。
「ヘッドチェンジ!斬撃強化ヘッド!」
『あなたが一刀の元、断ち斬りたいものは何ですか?』
「…? えっと…人は駄目!怨念!」
『承認。』
ジークヴァルは白い西洋騎士甲冑のような頭がつき、白の胸当て、両肩、両足の装甲が追加され、青いマントがつけられる。ヴァルムンクの刀身が青く輝く。元々、青と白の首無し騎士だったジークヴァルにはよく似合った姿となる。
「ヘッドチェンジ!ライトニングフィスト!」
『あなたは怪我した腕でも許せない相手になら拳を振れますか?』
「余裕!」
『承認。』
ランドレイクはLFランドレイクに姿を変え、巨大な右拳を前に出す。道人はガントレットを、深也はスマホを持った右手を前に出し、光の玉をスマホから出す。
「行くよ、ハーライム!」
「飛ばすぜ、オルカダイバー!」
二人のデュエル・デュラハンが実体化。二人は即座にスマホを操作し、ハーライムにランスヘッド、オルカダイバーにバブルランチャーヘッドを装着する。
「…いや、おい!待てよ!ニ対五じゃねぇかっ!?さっき撤退した意味!こっちはカブトガニさん増えただけじゃねぇか!キャルベンの人たちは!?」
キャルベンの兵士たちは未だにBWトワマリーの爆撃に苦戦を強いられていて、木倉下の応援には駆けつけられそうになかった。
「ちなみに僕も戦えるから、正しくはニ対六だ!行くぞ、みんな!」
「おう!」「うん!」
ジークヴァルとランスハーライム、スラン、道人はラクベスの元へと向かう。LFランドレイクがディフィカルトクラーケンMk-2と相対した。BLオルカダイバーは近くの海に入った。
「俺の相手は死にたがりのナイトさんかい!」
「今度はその目障りな触手を全部切り落としてやるぜ!」
「ケケッ!Mk-2、舐めんなよぉっ?」
ディフィカルトクラーケンMk-2は全触手をLFランドレイクに向かって伸ばす。
「ランドレイクには触手一本触れさせないよぉっ!」
BLオルカダイバーは両手に持ったバブルランチャーから無数の泡を発射し、触手の周りに泡を浮遊させる。
「何だぁっ?シャボン玉遊びかぁっ?」
「そうだな、それがただのシャボン玉なら良かったな!」
硫酸の泡に当たった多くの触手から煙が出始める。
「なっ!?これはあれか!何でも溶かす液みたいな、あれかっ!?」
「さぁな!」
「は、離れろ、ディフィカルトクラーケンMk-2!あ、あの鯱から先に処理するんだ!」
ディフィカルトクラーケンMk-2は海までジャンプし、触手の吸盤から赤い無数のレーザーを発射する。
「わわっ!?そんな飛び道具持ってるの!?」
BLオルカダイバーは急いで海中に潜り、無数のレーザーを回避した。ディフィカルトクラーケンMk-2は浅瀬に着地し、水飛沫を浴びながらレーザーを放ちまくる。
「オラオラ!大人しく刺身になれよ、鯱さんよぉっ!」
「じゃあ、俺は船長にクラーケンのたこ焼きでもご馳走しようかぁっ!」
LFランドレイクはディフィカルトクラーケンMk-2の触手の一本を掴み、傍に挟んだ。
「やっぱり海に逃げやがったな!こっちの思う壺だぜ!やれ、LFランドレイク!」
「痺れろぉっ!」
LFランドレイクは十秒間の電撃をディフィカルトクラーケンMk-2に浴びせた。ディフィカルトクラーケンMk-2は苦しみ出す。
「馬鹿なっ!?お前だって濡れてるんだ!一緒に感電するぞっ!?」
「何で自分の発生させた電流で自分も痺れないといけねぇんだよ?そうならねぇように追加パーツで効かねぇようになってんだ!」
「なるほど、便利!?」
LFランドレイクは両手で触手を掴む。
「へぇっ、確かに千切れにくくなってらぁっ!だが、問題はねぇっ!ほんの少し、力が必要になった、だ、け、だ!!ぬぅん!!」
LFランドレイクは力を込めて触手を一つ引きちぎる事に成功した。
「おいおい、何がMk-2だ?どこが変わったんだよ?」
「てんめぇっ…!泣かす!」
ディフィカルトクラーケンMk-2はLFランドレイクが手を離した隙に離れ、距離を取った。
「道人、ジークヴァル、みどりのひと、おねがい!ラクベスをとりおさえて!そのすきに、わたしがあのあたまをはずすから!」
「わかったよ!」「心得た!」「私はハーライムと言います!」
ジークヴァルは右へ、ランスハーライムは左へ跳ぶ。ラクベスは何度も左右に首を動かす。
「はぁっ!」
ラクベスは両肩と背中の甲羅を大きくし、左右から襲い掛かるジークヴァルのヴァルムンクとランスハーライムの槍を防いだ。
「くっ、固いな…!」
ラクベスは二本の針をびゅんびゅんと振って形を変え、左右のジークヴァルとランスハーライムに針を急激に伸ばす。
「なっ!?」
ジークヴァルは後ろに仰け反って避け、ランスハーライムは咄嗟にランスを回転させて針を弾いて後ろに下がる。ラクベスは両肩の甲羅を変形させた後、外して両手につける。
「何っ!?甲羅を攻撃に転用したっ!?」
バランスを崩しているジークヴァルにラクベスの本来のパワーのナックルが炸裂。ジークヴァルは何とかヴァルムンクの刀身で受け止めたが、吹っ飛んで木にぶつかった。木がへし折れ、地面に倒れる。
「ジークヴァル!スラン、ごめん…!ラクベスを取り押さえるのは骨が折れそうだ…!」
「だいじょうぶ!みんなできょうりょくすれば、きっと…!ごめんね、ラクベス…。いたいの、がまんしてね…。」
スランは本来は向けたくない薙刀をラクベスに向けた。




