60章 多元分岐・転生英雄
突然司令室に現れた謎のドラゴン。道人たちは念のため警戒は解かず、会話を試みる。
「えっと…名無しのドラゴンさん?試練って何の事?それにディサイド・デュラハンの前世って…?」
「恐らく、既に何人かの方は心当たりがあるのではないか?何かのきっかけでパートナーと同調し、過去のビジョンを見た方が…。」
「…! …あの、あたし…。」
愛歌は言い掛けようとするが、一回デバイスに映るトワマリーを見た。トワマリーは頷く。
「…あたし、今回のダーバラとの闘いの最中に見た。トワマリーの過去らしきものを…。誰かに恋をしてて、女王としての振る舞いを求められている女性の姿を…。」
「マジかよ…。」
愛歌の発言に思わず深也は静かに驚く。
「僕も見たよ、ダジーラクとの闘いの時に…。一人の竜殺しに恋をした女性、リムルトの姿を…。」
道人もデバイスに映るジークヴァルを見た。
「…リムルト?もしかして、ダジーラクに必殺を放とうとした時に出てきた女性の幻影は…。」
「あぁ、その通りだ。まだ断片的にしか思い出せないが、彼女はリムルト…。私の大事な人だ…。」
潤奈の疑問にジークヴァルは答えた。
「…僕、前から気になってたんだ。レイドルクとの闘いの時、カサエルは起動したばかりで前から戦いは苦手って言ってたんだ。」
「あぁ、確かに言っておったの、カサエル。」
「無意識だったけど、そう言ったのは覚えているさぁ。間違いないさぁ。」
「それにジークヴァルたちは生まれたばかりにしては人格が整い過ぎていないか、って…。」
道人の発言を聞いて司令室のみんなは考え込んだ。
「…皆さん、申し訳ないが、私がこうしていられるのには時間制限がある。ほとんど一方的に話す形になるがよろしいか?」
「あぁ、すまない。続けてくれ。いいかな、みんな?」
司令がドラゴンに返事をし、司令に異論はなく、道人たちは頷いた。
「まずは心構えの話からです。この世界の秘密…。それを話すにはまだ早い…。あなた方が試練を無事突破できた時、全てを語りましょう。」
「何だよ、随分勿体ぶるんだな。」
深也は両手を後頭部に当ててドラゴンに言う。
「…この事を話したらあなた方は自分の存在に疑問を持ち、精神にダメージを受ける可能性がある…。ですから、何時か聞くその時のために心の準備をしてもらいたいのです。」
「そ、それ程の事なのかね?」
司令は動揺しながら返事をした。ドラゴンの真剣な表情を見て嘘はついていないように見えた。
「今から部分的に語ってみるが、それでも心を傷つけてしまうかもしれない…。それ程の事なのだ。」
「わかった。みんな、そういう事だ。何を聞いても動じないように予め、心構えをしておくんだ。常に最悪な事態を想定しておけば、取り乱さずに済む。」
「わかりました。」
道人たちは司令の指示に頷いた。
「ありがとう、感謝する。早速だが、試練について話そう。君たちには私たち、ビーストヘッドがいる遺跡を自分たちの手で探して欲しい。」
「場所は教えてくれない訳なの?」
愛歌がみんなの疑問を真っ先に聞いてくれた。
「実を言うと、私も他のビーストヘッドがどこにいるのかわからないのだ。自分のいる場所はわかるが、探すのも試練の一環なのだ。そこはご了承願いたい。」
「試練とは一体何なのだ?どんな事をする?」
「何、そんなに難しくはない。遺跡を発見した後、その遺跡に対応した多元分岐・転生英雄の記憶をディサイド・デュラハンとパートナーに知ってもらい、成長する事。成長をビーストヘッドが認めれば試練は達成だ。」
「た、多元?何?」
ドラゴンがよくわからない専門用語を使ってきて道人たちは困惑する。
「あぁ、失礼。説明しよう。さっき、道人が言っていたな。ジークヴァルたちは生まれたばかりにしては人格が整っていると。それもそのはずだ。彼らは過去の英雄の魂を宿している。彼らは過去の英雄の生まれ変わりなのだ。」
道人たちはドラゴンの言う事を聞いて固まった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!ジークヴァルたちが過去の英雄…?」
「でも、あたしたち、ジークヴァルとか、トワマリーって名前の英雄、聞いた事ないよ?みんなもそうでしょ?」
愛歌と同じく、みんな知らないと答える。
「それもそのはずだ。彼らはこの世界では名が知られる前に非業の最期を遂げてしまう本来とは違う分岐を辿ってしまった別存在…。その高貴なる魂を惜しいと思い、地球の意思は彼らを何時でも守護者としてディサイド・デュラハンに転生できるように地球の記憶に補完しているのだ。転生の際、その代償として一旦記憶を喪失してしまうのだがな。」
「…ちょっと待って!」
潤奈と博士が椅子から立ち上がる。
「ディサイド・デュラハンの設計図は父が思いつき、設計したものだよ!?あなたの口ぶりだと、大昔からディサイド・デュラハンはあった事になるよ!」
「潤奈君の言う通りじゃ!わしは自分のセンスでジークヴァルたちに名を考えて与えたんじゃ!なのに何故、わしが考えた名と英雄の名前が完全一致しておるんじゃ!?」
「…わかった、まずは式地の疑問に答えよう。式地、君はディサイド・デュラハンに名付ける際に地球の記憶にアクセスし、そう名付けさせるように運命が確定、誘導するようにしてあったのだ。」
「何…じゃと…?そんな事、が…?」
博士は自分の両手を見る。
「残酷かもしれないが、君のその類稀なる化学の才能…。それも地球の意思がお与えになったもの…。君はディサイド・デュラハンをこの世界に誕生させやすくするために才能を宛がえられた天才の一人なのだ。ただ、あくまでディサイド・デュラハンを造りやすくできる程度のもので、0号機のように失敗は全くしないという訳ではないがね。」
「そ、そんな…馬鹿な…事が…。」
博士はその場で座り込む。心配して大神が博士の元に駆け寄った。
「宛がえられた一人って…?それって博士以外にもディサイド・デュラハンを造れる存在がいるって事になるよね…?」
「そういう事になるな。ただ、あくまできっかけがないと用意された才能は開花しない。君たちで言うときっかけがあれば才能に目覚める導火線が用意されている、という感じか。」
愛歌はドラゴンに聞いた後、言葉を失った。
「潤奈、君の疑問に関してだが、申し訳ない。私にはわからない…。君は何か地球に縁があったりするのか?」
「…お父さんが、一回地球に来た事がある…。そして、地球生まれのお母さんと結ばれて…。」
「そうか、君の母親がもし科学者なのなら、今言った開花の導火線を持っていたのかもしれないな。」
「…私の、お母さんが…?」
潤奈もドラゴンの話を聞いて呆然とする。
「おい、待てよ!ランドレイクはどうなる?ランドレイクは初めはデストロイ・デュラハンだったんだぜ?」
「そうよ!私のルレンデスも同じく!しかもルレンデスは最初から意思があったんだから!」
「…待って。もし、お母さんが才能の導火線を持っていたと仮定して…。もしかしたら、その娘であり、私の妹のマーシャルにも導火線があったとしたら…。造れても不思議じゃない…。」
「なっ…!?マーシャルが…!?」
「アンビリーバボー…。」
潤奈の仮説を聞き、深也とグルーナは理解した。
「なるほど、それは考えられる…。今現在、ランドレイクとルレンデスには対応するビーストヘッドが存在しません…。この二人はこの世界に出でる予定がなかった完全なるイレギュラー…。あなた方の起こした奇跡だ。そのマーシャルという科学者も気づかない内に地球の記憶にアクセスし、多元分岐・転生英雄の名を名付けたのだろう。」
ドラゴンは自分の浮かんでいる地面を見る。
「地球の意思も何でもできる完璧で無敵な存在という訳ではない…。『ディサイド』には地球の意思でさえも完全に扱う事ができない、無限の可能性が秘められている…。力そのものには善も悪もない。それを扱う者次第…。この試練はそれを見極めるためのものなのだ。」
そう言うと、ドラゴンの身体が消えかける。
「…ここまでのようだ。すまない、どうやら部分的に語っても心を傷つけてしまった…。我ながら不甲斐ない…。」
「これで部分的って…。」
「真実を全部聞いちゃったらどうなるのよ…?」
道人と愛歌はお互い不安な表情で顔を合わせた。
「それではここまでだ。遺跡でまた会おう。待っているぞ。」
そう言うとドラゴンは消え、周りは静まり返った。
「…くっ、くっくっくっ、かっかっかっ…!」
博士が急に笑い出し、立ち上がった。
「は、博士…?」
「…大丈夫?」
道人と潤奈が心配で声を掛けた。
「なぁ〜にが地球の意思に宛がえられた才能じゃ!!地球にわしの才能の何がわかる!?見ておれよぉ〜っ、地球!お前さんの思惑を外せるような物をわしは絶対に開発し続けてやるわい!がっはっはっ…!」
博士は両手を腰に当てて身体を後ろに反って大笑いする。道人たちは博士の元気な姿を見て笑みを浮かべた。
「そうじゃい!それでこそ、博士じゃい!」
「同じ芸術家としてその姿はビューティフル!そのアイアンハート、尊敬するわ、Dr.式地!」
大樹とグルーナも博士を激励する。
「よし、みんな!博士を見習って元気を出すんだ!例え今後どんな困難が待ち受けようとこのメンバーなら、絶対太刀打ちできるはずだ!みんなで自信を持つぞ!」
司令の言葉を聞いて司令室にいるメンバーは全員明るさを取り戻した。みんなそれぞれ個性は違えど、強い芯を持っている。このメンバーなら、三大勢力だって、試練だって絶対に乗り越えられる。道人はそう信じた。
ドラゴンが消えた後、司令や博士に緊急の用事が入り、今日の会議はここまでとなった。愛歌たちも家で用事があるから帰るという。潤奈は引き続き、道人の世話をするために車椅子のグリップを握った。
「…あ、そうだ。虎城…さん。」
「はい、何ですか?深也君?」
「稲穂に伝えておいてくれねぇか?最高の効き目があるぬいぐるみだったって。」
深也はスマホについているストラップを虎城に見せる。虎城はそれを見て笑みを浮かべる。
「…はい。必ず伝えます!稲穂も喜びますよ、きっと!」
照れ臭かったのか、そう言った後、深也は両手をポケットに入れてそそくさと退室した。その様子を見ていた道人と潤奈は二人で微笑んだ。
道人と潤奈は司令室を出た後、会社エリアの近くにある広場に来た。広い海を二人で眺めている。
「うーん、いきなり暇になったね…。まだ三時かぁ〜っ…。どっかに行こうにも車椅子だしなぁ〜っ…!」
「…病室に戻るしかないかな。私もやる事ないから、遊び相手になってあげよっか。」
「いいね。あっ、または父さんの宇宙飛行士仲間の人達と面会できるのかな?色々聞きたい事あるし。」
「…私も付き合うよ。私も話したい事たくさんあるから。」
潤奈は優しい風に髪を揺らしながら道人を見た。
「…ねぇ、道人。私、考えてみたら地球でのお母さんの事、何も知らなかった…。」
「あ、うん…。」
「…私、調べてみたくなったんだ、お母さんの事。博士に以前調べてもらった事があって、その時は結局わからなかったけど…。それでも、私は知りたい!お母さんの事が何かわかったら、掴めるものがあるかもしれないから…。」
「そっか、そうだね…。わかった!僕も手伝うよ!僕だけじゃない、みんな喜んで潤奈を手伝ってくれると思う!みんなで調べよう、潤奈のお母さんの事!」
「…うん!ありがとう!」
潤奈は頬を染めて道人に微笑み掛けた。
「よ、よし!善は急げだ!まだ時間あるし!行こう!」
潤奈が車椅子を押すと道人の前にブーメランが落ちた。年季の入った透明な石のついた懐かしさを感じるブーメラン。
「えっ?」
「あ、ごめん。それ、俺のブーメランなんだ。」
三つ編みをした緑髪の少年が歩いて近づいてきた。潤奈は道人の代わりにブーメランを拾い、少年に渡した。
「…はい。」
「ありがとう。大事な物だったんだ、このブーメラン。」
「君、ブーメラン好きなの?」
「うん、そうさ。ひょっとして、君もかい?」
「うん、すごい偶然だなぁ〜っ。ブーメランが趣味の人に会えるなんて。」
「そうなんだ。じゃあ、君も?」
少年は潤奈を見て話しかける。
「…うん、私も好きだよ、ブーメラン。」
「そうか。じゃあ、見せてあげるよ。俺のブーメランを!」
少年はブーメランを思いっ切り投げた。ブーメランは物凄い勢いで風を切って進み、少年の手元に戻ってきた。
「へへん、すごいっしょ?」
少年は道人と潤奈に右手でピースする。
「うん、かなり力強く飛んだね!」
「…うん、うん!」
「君、ここに入院してるのかい?」
「あ、いや…。今日だけなんだ、ここにいるのは…。」
「そっか。…また君とは近々会えそうな気がする…。」
「う、うん…。そうだね…。」
道人は自分でもわからなかったが、この明るい少年に何故か言い知れない寒気を感じてしまった。
「潤奈、そろそろ行こうか。」
「…うん、そうだね。」
「何だ、もう言っちゃうのか。縁があったらまた会おうぜ。」
「うん、その時はよろしく。」
潤奈は車椅子を押して去ろうとする。
「…あ、そうだ。ブーメランってさ。投げたら戻って来るから冒険家とかには縁起がいいものなんだ。俺はブーメランが大好きでね。」
「えっ…!?」
道人は急いで振り返ったが、あの少年は居なくなっていた。
「…ど、どうしたの、道人…?」
「今の男の子、もういなくなってる…。」
「…ホントだね。足、速いんだね。」
あの少年が父と同じ台詞を喋ったのが気になった。道人が小さかった時に遊んだ父と同じ台詞を。少しすると自分の気にし過ぎか、と道人は考えて潤奈と一緒に会社エリアのビル内に入った。




