60章Side:BA 迷子のスラン
シチゴウセンの一人、ディアスは通路を歩き、間もなく始まるゴウ=カイのために大広間に向かっていた。
「今回の戦いはかなりの痛手だった…。怪我人も多く出て、ダジーラクの両腕も治ったばかりだと言うのに…。すぐにゴウ=カイをやらずとも良いだろうにな…。」
ダジーラクのせっかちさに疑問を抱きながらもディアスは大広間へと歩を進めていた。途中、窓ガラスから地球を眺めているスランと会った。
「何をしている、スラン?ゴウ=カイが間もなく始まるぞ?」
「あ、ディアス…。」
スランはディアスを一回見た後、また視線を地球に戻す。ディアスがあまりゴウ=カイに乗り気じゃないのはスランの件もある。
「わたし、いきたくないな…。いったら、まちがいなくおこられるよ…。」
「だろうな。ダジーラクが出陣する作戦で敵前逃亡したんだ、間違いなくその件で問われるだろう。」
スランはディアスに反論せず、地球をずっと見ている。ディアスは溜め息をつく。
「…そんなに気に入ったのか?チキュウが…。」
ディアスが地球の事を聞くとスランは元気を取り戻す。
「…! うん!ちきゅうのうみ、きれい!さかなもたのしそうにおどってた!わたし、またあのことあそびたい!それとね、それとね…!」
「わかった、わかった!…確かに綺麗な青い星だ。だが、今まで私が見てきた星は全て宇宙から見たら美しいものだった…。だが、実際に降りてみるとゴミは散乱し、生き物は争い合い、あらゆる物を消耗しながら生き物は生きている…。外見との差異に驚くものだ。」
「あ、うん…。」
はしゃいでいたスランはディアスの話を聞いて静まり返る。
「…すまない、言い過ぎたな。私の悪い癖だ。すぐ否定から入ってしまう…。ほら、私も可能な限りお前を弁護してやる。だから、行くぞ。」
「でも…。」
「…わかった、ゴウ=カイが終わったらチキュウの話をまた聞いてやる。お前の好きをぶつけて私のさっきの見解が間違っていると証明してみせろ。」
「…! ほんと?わかった、いく!」
「ふっ、やれやれ…。」
ディアスはスランを連れ、大広間に向かう。その後は誰とも会わず、扉を開けて大広間に辿り着いた。
「遅いぞ、ディアス、スラン。」
ダジーラクは玉座に座っていて地面に剣の刀身をつけて、両手を剣の柄に置いていた。隣にはいつものようにマーシャルが控えている。
「すまない、ダジーラク。始めてくれ。」
「うむ、それでは、早速ゴウ=カイを始める。集え。今ここにありし、ヴァエンペラのシチゴウセン達よ。」
ダジーラクが右手を前に出すとシチゴウセンが集う。まだ道人とジークヴァルとの闘いのダメージが癒えていないからか、立ち上がらなかった。
「ライガ、いるぜ?」
「シユーザー、見ざぁ〜ん。」
「レイドルク、推参。」
「ラクベス、イル!」
「ヴァエンペラの元へ集いしシチゴウセンたちよ、よくぞ参った。よき、頭を外すがよい。」
ライガたちは頭を外し、それぞれ自分の専用の柱に背をもたれかかる。
「まずはダーバラの件からだ。惜しい闘士を失くしたものだ…。」
「あぁ、一人欠けただけでこうも違うとはな。寂しいもんだぜ…。」
ライガはダーバラのいつも背もたれにしていた柱を見る。
「えぇ、全く。誰かさんが敵前逃亡しなければ、もしかしたら結果は違ったかもしれませんからねぇ…。」
「うっ…。」
スランが早速シユーザーに嫌味を言われ、表情が曇った。
「シユーザー、お前の発案したカプセルロボットを使った催しとやらもうまく行ったとは言えない。あまりスランばかりを責めるな。」
「おやおやぁっ?私の作戦にケチをつけますかぁ〜っ、ディアス?そういえば、あなた、この作戦が初めから気に入らないようでしたからねぇ〜っ?」
ディアスとシユーザーは睨み合う。
「よせ、二人共。わしも腕試しと言いながら、無様に敗北を喫したのだ。全てはわしに責任がある。」
「そうだぜ。俺も戦わずに観戦しかしてねぇし、レイドルクの爺さんも単独行動でしかもカプセルロボットを闘いの邪魔だからって壊しやがったからな。あまりスランの事は責められねぇよ。」
「おっと、流れ弾か。確かにそうじゃな。わしもつい好敵手との闘いに熱が入ってしまった。すまんな、シユーザー。」
「チッ…!」
ライガとレイドルクも自分が好き勝手やった事を自覚していて、スランを責める気はないようだ。
「ダーバラの追悼はまた別の機会にするとしよう。ダーバラが抜けた穴も何とかせねばならんしな…。」
「その件ですが、ダジーラク様。もう既に私とシユーザー様で補充メンバーの手配は考えております。」
「ほう?」
ダジーラクの隣にいたマーシャルが進言する。
「えぇ、三名程予定しております故、しばしお待ち頂ければ…。」
「誠か。わかった、新たな闘士との出会いを楽しみにしておこう。次の話だ。チキュウの件だ。」
マーシャルがモニターにチキュウを映す。
「わしが直に行った事でわかった…。あのチキュウという惑星、今まで侵攻してきた惑星の中でもかなりの異質な惑星だ…。危険なのはディサイド・デュラハンだけではない。あの星は謎な事が多すぎる…。」
マーシャルが他のシチゴウセンたちにわかりやすいようにモニターに十糸姫の糸やハーライムなどを映す。
「十糸姫、道人の原因不明の突然変異、傀魔怪堕、キャルベン…。調べた所、あの星には数多くの伝説が存在し、もしかしたらまだこの惑星には秘密が隠されている可能性があるかと…。」
「ふむ、わしらもこの星の事を更に詳しく調べてみる必要がある…。特に十糸姫の糸とやら…。放置するにはあまりにも危険すぎる…。」
ダジーラクはハイドラグーン・ジークヴァルクとの闘いを思い出す。
「して、今後はラックシルベだけではない!十糸姫の糸も捜索の対象にする事を今この場で決定する!確か、奴らは既に四本持っているという話だったな。残りの六本が奴らの手に渡る前にこちらで回収してしまうのだ!」
「ははっ!我らの意思はダジーラクと共に!」
スラン以外のシチゴウセンの五人は声を合わせてダジーラクに答えた。
「では、次はスラン、お前の件だ。」
「…! はい…。」
スランはビクッとなった後、下を向いた。
「お前は今回の作戦でわしの意思に背き、敵前逃亡を行った。だが、お前をその気にできなかったわしの指揮能力にも問題がある。あまり責めるつもりはない。」
「…ほんと?」
「だが、わしはお前に試練を与える事にした!お前はまだ自分の手を汚していない!よって、命じる!スラン、お前は自分で考えた作戦で自らの手で何でもいい、チキュウの生命を刈り取ってわしに見せるのだ!シチゴウセンの一人として闘士の自覚を得よ!」
「…え?」
スランはダジーラクの命令を聞いて唖然とする。
「さもなくば、スラン。お前はシチゴウセンの資格を失い、故あれば…殺す。」
「…!?」
「ダジーラク、それは…!?」
「ソレデハ、スランガ、カワイソウデハナイカ!」
ディアスとラクベスはダジーラクに意を唱える。
「何を取り乱しているのです、ディアス、ラクベス?何も難しい事じゃない。スランが手を汚せばいいだけの事ではありませんか。」
「くっ…!」「クッ…!」
「ま、確かにスランはまだまだ甘ちゃんだ。覚悟を決めさせてもいいんじゃねぇか?」
「スラン、お主は生まれたばかりでシミュレーションで好成績を出し、能力を認められてシチゴウセンになった猛者の一人。このままでは引き下がれまい。」
「でも…!」
「スランよ、お主が頼もしき闘士へと目覚める時を楽しみに待っているぞ。以上。これにてゴウ=カイを終了とする。」
ライガ、レイドルクは退室する。スランも悲しげに退室し、ラクベスが追いかけた。
「ダジーラク、スランへのあの対応はあまりにも非情ではないかっ!?」
ディアスはマーシャルと共に退室しようとするダジーラクを呼び止める。
「何を言う、ディアス。スランの甘さ、あれは放置していると周りは愚か、自らも破滅に誘う事になる。」
「しかし…!」
「シチゴウセンに優しさなど無用!必要なのは他の星を採掘星に変える事に何の躊躇もない非情な闘士のみよ!」
「…やはり、変わってしまったな、君は…。昔はこんな事をする奴ではなかった…。」
「…変わらない闘士などいない。」
ダジーラクはそう言うと去っていった。
「ダジーラク、君はやはり、ヴァエンペラに与えられたヘッドの影響を…。くっ…!」
ディアスはスランが気になり、大広間から急ぎ足で退室する。
「いやぁっ、ダジーラクにあんなに噛み付く貴方を見られるとは珍しい!貴重なものを見させてもらいましたよ!」
シユーザーがディアスを待っていて拍手をする。ディアスは無視して通り過ぎようとする。
「何だ、もう行っちゃうんですか?残念…。…あぁ、そうだ。実は気になる事がありまして。」
「…何だ?」
ディアスは後ろを振り向かずにシユーザーの話を聞く。
「今回の作戦、どうやら事前に外に漏れてたみたいなんですよ。デュラハン・ガードナーはこちらの戦島をダジーラクの演説の前に察知していたみたいで…。不思議ですねぇ〜っ!そして、私、思ったんですよ。ここに内通者がいるんじゃないかって。」
シユーザーは目をギラつかせてディアスを見る。
「…そうか。それは由々しき事態だな。」
ディアスはそう言うと去っていった。
「…怪しいんだよ、ドクロ野郎が。」
ディアスはスランがいそうな場所を手当たり次第捜したが見つからなかった。諦めずに格納庫に行くとラクベスが立っていた。
「ディアス、タイヘンダ!スランハドウヤラ、ソトニデタミタイダ!」
「何?外に…?なるほど、小型飛行船が一つなくなっているな…。だとすると、チキュウに行った可能性が高いな。わかった、私が行ってみよう。」
「オレモイク!スランニ、ハナシタイコトガアルンダ!」
「…わかった。一緒に捜そう。」
「ディアス、オマエ、イガイトイイヤツ!」
「意外とは余計だ。」
ディアスはラクベスと共に隠してある小型飛行船に乗り込む。ディアスのジャマー能力を活かす事ができる特注の小型飛行船。マーシャルのワープ能力に頼りたくない時はこれに乗って地球に向かっている。
ディアスはジャマー能力を発揮し、ダジーラクたちに気づかれないように宇宙要塞の外に出た。スランが乗った飛行船の反応を追って、大体三十五分程で地球の御頭街付近に到着した。
スランが乗ってきた小型飛行船を発見し、近くの森の中に着地してラクベスと共に外に出た。もう辺りは夜となっていて暗い。
「スランはこの近くにいるのは間違いないだろう。」
「マッテロ、スラン!イマイクゾ!」
ラクベスは大急ぎで走っていく。
「お、おい!勝手に!」
ディアスの言葉は届かず、ラクベスはもう姿を消していた。仕方なく、ディアスも空を飛んで辺りを捜し回った。
「こう暗いと捜しようがないな…。…ん?」
デュラハン・パーク会社エリアの近くを飛んでいると見覚えのある男が屋上で茶を飲んでいた。ディアスは屋上へと近づく。
「…また会ったな。また休憩か、卒間?」
「…ここにいれば、また君に会える気がしていた。」
「来るかどうかわからない私をずっと待っていたと言うのか?変わった男だ。」
「ふっ、全くだ…。」
二人は静かに笑い合った。
「悪いが急用があるのでな。今日は話せない。」
「そうか…。私はその急用とやらの内容を気にしなければならない立場なのだがな。」
「ふっ、違いない…。安心しろ、その手の急用じゃない。ただの迷子捜しだよ。」
「迷子…?」
「…変な話をするが、もしその迷子が道を迷っていたら君たちが…いや、何を言っているんだ、私は…。失礼した。また会おう、卒間。」
ディアスはそう言うとデュラハン・パークを後にした。
「…何故、私は『またな』、と言ったのか…?」
自分の咄嗟に出た言葉に疑問に思いつつもディアスは気にせずにスランの捜索を続けた。




