48章 生い茂るライムの葉龍
「き、貴様…!さっき消えたはずじゃ…!?」
「どうやら、気まぐれな姫が追加時間をくれたようだ。」
道人はスマホを確認すると画面には
『First style 0/3 minute』
『Second head「dragoon」3/3 minute』
と表示されていた。
「本当だ…。しかも、最初からハーライムにヘッドがついてる…。」
「…すごい…。」
「キザ野郎がぁっ!」
シユーザーは右手のロケットパンチを飛ばすが、ドラグーンハーライムは右腕で容易く弾いた。
「道人からスマホを借りた潤奈は今日一日、私のパートナーだった。潤奈は十糸姫に選ばれたとしても、デュエル・デュラハンを持っていない。だから、私が選ばれたのだ!現に今の私は潤奈とも強い繋がりを感じる…!」
「たった一日の付き合いでパートナー扱いだと?」
「おや?生き物の関係が深まるのは長い時間はもちろんだが、短い期間で得られた積み重ねの重さで深まる事もある、と言ってなかったか?」
「なら、貴様は生き物じゃないんだろうてぇっ!」
シユーザーは右腕が戻ってきた後、両手剣を巨大なハサミに合体させ、ドラグーンハーライムを挟もうとする。ドラグーンハーライムは両手剣を出現させ、挟みを阻止する。
「いいや、生き物さ!私は今、道人とジークヴァルたちに新たな助け方をする事ができて高揚し、喜び、生きている実感がある!これが生き物でなくて何という!?」
ドラグーンハーライムは胸についた龍の口から緑の炎を出し、シユーザーを焼いた。
「あち、あっち!?また炎か!ふざけやがって…!」
シユーザーはドラグーンハーライムから下がり、ダビングルレンデスとグルーナを見る。
「おい、ダビングルレンデス!何時まで寝てやがる!ダビングルレンデス、リミッター解除!」
シユーザーの発言をキーにしてグルーナのデバイスに『オーバーデストロイ』と表示される。
「えっ?何っ!?きゃあっ!?」
グルーナは目が虚になって無言になり、身体から邪悪なオーラが溢れて出る。オーラに守られ、グルーナにはもう迂闊には近寄れない。ダビングルレンデスが邪悪なオーラを発し、自我を失って咆哮し、形が変化していく。
「シユーザー様、勝手にリミッターを…!?」
マーシャルはシユーザーの勝手なリミッター解除に物申そうとしたが、強風から身を守るので精一杯だった。
「また暴走か…!」
道人は潤奈を抱いて暴風から守る。深也たちも道人と潤奈から一旦離れて、スタッフたちと一緒に安全な場所に移動した。
ダビングルレンデスの頭が一つ目のサイクロプスに変化し、両肩の望遠鏡が更に巨大化。両足に巨大なテープが追加される。暴風が止み、ダビングルレンデスはハーライム目掛けて突進するが、ドラグーンハーライムはウイングを展開し、空を飛んでジークヴァルとフォンフェルの元へ行く。
「おぉっ!空を飛べるようになったのか!ハーライム!」
「あぁ、この通りな!ジークヴァル、フォンフェル殿!奴らを倒すぞ!」
「私がシユーザーを相手します!あなたたちはダビングルレンデスを!」
「わかった!私に乗れ、ジークヴァル!チェンジ!ドラグーンモード!」
ハーライムは変形し、緑の機械龍になる。
「ハーライムが龍に…!?わかった、行くぞ、友よ!」
「おう!」
ジークヴァルはドラグーンハーライムに乗り、空高く飛ぶ。ダビングルレンデスはジークヴァルたちを目で追う。
「道人、ディサイドヘッドで行くぞ!」
「主、私もお願いします!」
「わかった!行くよ、潤奈!」
「…うん!道人!」
道人と潤奈は横に並び、共にディサイドヘッドのカードを実体化し、デバイスに読み込んだ。
「ヴァルクブレードヘッドォッ!」
「…【霧幻】!」
『『ディサイドヘッド、承認。この承認に問いかけは必要ありません。』』
ジークヴァルとフォンフェルにディサイドヘッドが頭着された。ダビングルレンデスは双眼鏡から熱光線を発射しようとする。
「それは撃たせん!うおぉぉぉぉぉーっ!!」
ドラグーンハーライムは両羽についている小型プロペラから緑の竜巻を発生させ、ダビングルレンデスの体勢を崩した。
「ナイスだ、ハーライム!そのまま上昇してくれ!私が…斬る!」
「あぁ!」
ドラグーンハーライムが天井ギリギリまで上昇した後、ジークヴァルクブレードは飛び降り、ヴァルクブレードでの一刀両断を試みる。
「チェストォォォォォーッ!!」
ジークヴァルクブレードが急降下し、ダビングルレンデスの右腕の望遠鏡を切断した。ダビングルレンデスはバランスを崩すが、左腕の望遠鏡を右腕で強引に動かし、ジークヴァルクブレードに照準を合わせる。
「撃たせんと言ったぁっ!」
ドラグーンハーライムは人型に変形し、落下して左腕の望遠鏡も両手剣で切断する。ダビングルレンデスは両足のテープを伸ばしてジークヴァルクブレードの左腕を、ドラグーンハーライムの右羽をテープで巻いて捕縛する。
「なるほど、そのテープはそういう使い方をするのか。」
「だが…!」
「「我らには通じない!」」
二人は剣でテープを切断し、そのままダビングルレンデスの身体を斬りつけた。
「まずい…!ルレンデスが…!?」
フォンフェル【霧幻】の分身攻撃と二つの巨大手裏剣、ビーム撒菱に翻弄されていたシユーザーはルレンデスを助けに行きたくても行けなかった。
「邪魔なんだよ、手裏剣がぁっ!」
「あなたの我が主への度重なる暴言に私は腹を立てている…!その身で償え!」
フェルフェル【霧幻】は腰の巻き物を開き、宙に浮かせて両手で印を結ぶ。
「勇・太・伝・特・察・金・司・王!はっ!」
フォンフェル【霧幻】が両手を前に出し、シユーザーを炎の竜巻に閉じ込める。
「あちちちっ!?私を何度も燃やすなぁっ!?」
シユーザーは炎の竜巻の中でも捕縛されず、足掻いていた。
「そろそろ決着をつけるぞ、ジークヴァル!」
「おう!」
ドラグーンハーライムは龍形態に変形し、ダビングルレンデスに向かって飛び、竜の口から緑の炎、両羽から緑の竜巻を出してダビングルレンデスに当てた後、人型形態に戻る。
「とっておきをくれてやる!道人、潤奈、私に力を!」
道人のスマホに『Lime blaster Charge』と表示される。
「わかった!行くよ、潤奈!」
「…任せて、道人!」
潤奈は道人が左手に持ったスマホを右手で一緒に持って勢いよく前に出す。
「行っけえぇぇぇぇぇーっ!!」
「…行ってぇぇぇぇぇーっ!!」
スマホから緑の光が放たれ、キャノン砲が出現し、ドラグーンハーライムがキャッチして構える。
「ライムブラスター!ターゲット、ロックオン!シュート!」
緑の巨大なビームが照射され、ダビングルレンデスに直撃。周りには無数の光のライムの葉が飛び散る。
「これでとどめだ!」
ジークヴァルクブレードが剣を横に構え、前方に跳び、駆ける。全身にオーラを纏い、ヴァルクブレードの刀身が光の刃に変わる。
「はあぁぁぁぁぁーっ!横!一閃!!」
ダビングルレンデスの腹をすれ違いざまに斬り、ヴァルクブレードを地面に刺す。ドラグーンハーライムもジークヴァルクブレードの右隣に浮遊する。
「我らの!!」
「勝利だ!!」
ジークヴァルクブレードは右手でガッツポーズを取ると後ろでダビングルレンデスが爆発する。
「くっ!?ルレンデスが…!?」
ルレンデスがやられたとわかったマーシャルはグルーナの護衛はもはや不用と考え、シユーザーの元へ飛び、フォンフェル【霧幻】に光弾を連射して後ろに下がらせる。シユーザーも全身からエネルギーを放出し、炎の竜巻を消したが、その場で膝を地面につけた。
「シユーザー様、これ以上は…!」
「くっ、デストロイ・デュラハンのリミッター解除には改善が必要なようだ…!」
シユーザーは道人と潤奈を見る。
「あの道人とかいう奴、あいつだ…!あいつがジュンナをおかしくする…! …ん?道人…?そうか、豪の息子…。なら…!ふっひっ、ふっふっ…!」
シユーザーは下を向いて笑い出す。
「また会いましょう、道人、ジュンナ…!そして、部外者野郎!貴様もな…!」
シユーザーはマーシャルと共に消えた。
「…どうやら、因縁を持たれたようだ。ここまでだな。また会おう、道人、潤奈、ジークヴァル。」
ドラグーンハーライムは小さな光になり、スマホに戻った。
「ありがとう、ハーライム…。」
道人と潤奈は一緒にスマホに映ったステータス画面のハーライムを見た。
「…? 私は…?」
グルーナのデバイスが粉になって消滅し、グルーナも身に纏っていた邪悪なオーラが消え、正気を取り戻した。周りを見るとボロボロになったルレンデスが目に入る。
「…! ルレンデス!ルレンデス、どうして!?しっかり…!」
「…グルー、ナ…。グルー…ナ…!そう、だ…!僕は…まだ、死ぬわけには…いかない…!」
ダビングルレンデスは起き上がろとするが、壊れてむき出しになった胸の中の擬似ラックシルベが割れる寸前で機能停止は目前であった。
「あいつ、まだ動けるのか…!?」
「…グルーナさん…!」
道人と潤奈はグルーナの方を見た。グルーナの元まで走る。
「グルーナさん!」
深也と愛歌、スタッフたちもグルーナに近寄ろうとしたが、まだルレンデスが動くようなので立ち止まった。
「グルーナ…!君は、この世界には永遠がないと…思っているんだろ…?なら、せめて…せめて、僕だけは…!僕だけは…この世界に永遠があるって事を、僕自身が生き続けて、証明しなくちゃいけないんだ…!…ぐあっ!?」
「ルレンデス…!」
その時、グルーナの右足に何が当たる。
「何、これ…?石…?」
グルーナは右手で石を取ると石が強く輝き出す。
「嘘っ…!?あれって…!?」
「デュラハン・ハート…!?」
深也と愛歌は共に驚く。
「綺麗…。これ、あなたの壊れかけてる石に似てるけど…?」
「グルーナ、早く…!早くそれを僕の胸に…!」
「わ、わかったわ、ルレンデス…!」
グルーナは擬似ラックシルベを外した後、すぐにデュラハン・ハートを装着する。その瞬間、ルレンデスが光り出し、変化を始める。胸にカメラのような顔に瞳がつき、両肩の双眼鏡は無くなって、大きな映画フィルムが新たにつく。グルーナの頭上にディサイドデバイスが出現し、両手でキャッチした。
「嘘でしょっ!?ディサイドしたの!?」
「俺の時と同じかよ…!?マーシャルの奴、何が再発防止の一環だよ。意味ねぇじゃねぇか。」
深也と愛歌はデストロイ・デュラハンがディサイド・デュラハンに変わったので再び驚く。
「ルレンデス…?」
「ありがとう、グルーナ!僕は生まれ変わったよ!これで君の永久保存の願いをまだ叶えられる!さぁっ、行こう!」
ルレンデスはグルーナを抱き抱え、デパートの天井まで高く飛ぶ。
「ルレンデス!?待って…!?潤奈さん、これ…!」
グルーナは遠藤花子の入ったフィルムケースを投げた。フォンフェル【霧幻】がキャッチし、フィルムケースを開けて遠藤花子を無事に外に出す。ジークヴァルとフォンフェルはこのタイミングでディサイドヘッドが消える。
「…グルーナさん、待って!」
潤奈はグルーナに叫ぶが、ルレンデスはデパートから出ていき、去っていった。
「…グルーナさん…。」
潤奈が下を向き、道人は潤奈の右肩に手を置いた。すると突然、入り口の瓦礫が吹っ飛び、土煙が舞った。道人たちは一斉に入り口を見た。
「よっしゃあ!待たせたな、船長!ランドレイク、推参!」
「待たせたな、道人君たち!敵はどこじゃっ!?」
博士とランドレイクを見て静まる道人たち。
「博士ぇっ、もう終わっちゃったわよ!」
「来てくれてありがてぇけど、おせぇよ、ランドレイク…。」
「えっ?もう片付いっちゃったんすか?マジか…。」
「落ち込んでおる場合か!まだお客さんの救助や、事後処理が残っとるわい!修理ロボ、デパートの修理開始じゃ!」
博士が指を差すと博士が連れてきた修理ロボたちがエスカレーターの修理を始める。安心した道人と潤奈はその場に座り込んだ。
「…グルーナさん、これからどうするんだろう?」
「うん、心配だね…。」
「大丈夫さ!グルーナさんはきっと俺たちの言った事を聞いてくれたはずだ!」
スタッフが道人の右肩、潤奈の左肩に手を置く。
「助けてくれてありがとうな、頼もしいヒーローたち!」
道人と潤奈にお礼を言うスタッフやイベント参加者たち。道人と潤奈は共に見つめ合った後、明るく笑い合った。




