47章 根強いファン
シユーザーの不気味さに周囲は静まり返っていた。
「…こほん。さて、喋るデストロイ・デュラハンに関してでしたね。あれは…。」
ダブルトライデントジークヴァルとランスハーライムはすぐ起き上がって飛び蹴りを喰らわす。
「ごげっ!?」
シユーザーは地面に倒れる。
「私たちには制限時間がある。悪いな。」
ハーライムは倒れたシユーザーに言い放つ。シユーザーはゆらりと立ち上がる。
「…さっき言った事、聞いてなかったか?人の話はちゃんと聞けえぇっ!!」
シユーザーは両手に持った妙な形の剣を合体させ、巨大なハサミにした。
「何っ!?」
「私の自慢を邪魔する奴はぁっ、チョッキンしてやらぁっ!!」
シユーザーが巨大ハサミを持って前進、勢いよくハサミでジークヴァルとハーライムを挟もうとするが、交わされる。
「…やれやれ。いいでしょう。私が話してあげますよ、姉さん。そして、深也。」
マーシャルは潤奈と深也を見下ろし、腕を組んで話す。
「私とシユーザー様はデトネイトランドレイク、ディフェンスダイヤトウ、ディフィカルトクラーケンの開発を経て、意思を持つデストロイ・デュラハンの開発に成功しました。その一号がピエロのデストロイ・デュラハン「シャクヤス」。彼は少々特別なデストロイ・デュラハンでしてね。それは後のお楽しみ…。」
マーシャルは人差し指を自分の口に当てて今は話す気がないというポーズを取る。
「二号がダビングルレンデスです。何故デストロイ・デュラハンに意思を持たせたのか?まず一つは深也、お前のせいです。」
「おぉ、お前に嫌われるとは光栄だねぇっ!」
深也は目をぎらつかせてマーシャルを睨む。
「あなたはデストロイ・デュラハンをディサイド・デュラハンに変えてしまった…。その再発防止の一環として、初めから意思を持たせる事にしたのです。次にあなたたちに対する精神攻撃に有効だから…。」
「どういう事?」
愛歌がマーシャルに問う。
「グルーナを見ればわかるでしょう?ねぇっ、グルーナ?」
グルーナはマーシャルの発言に頷き、潤奈たちを見た。
「さっきも言ったでしょう?芸術は生物…。私自身もそう。私は小さい頃からファッションデザイナーとして活躍してきて神童として扱われてきた…。でも、神童も二十歳過ぎたらただの人…。段々と私のファンは減っていき、私の今まで必死に考えたファッションたちは流行から遠ざかってばかり…。だから、私は永久保存に拘るようになった…。」
寂しげなグルーナの右手にダビングルレンデスは手を重ねる。
「でも、人間まで永久保存したいだなんて考える私は立派な犯罪者…。誰にも打ち明けられなかった私の願いを聞いてくれたのがシユーザーとマーシャルだった…。」
グルーナはダビングルレンデスの頭を優しく撫でる。
「シユーザーとマーシャルは私にこの子を与えてくれた…。私を決して裏切らない最高の理解者、ルレンデスを…。あなたたちがこの子を消すというのなら、私はどんな手を使ってでもこの子を守る…!もう才能が枯れ果てた私の身体なんて、何も惜しくないから…!」
「…グルーナさん、あなたは…。」
「ハァーッハッハッハッハッ…!」
遠くでジークヴァルとハーライムの相手をしながらシユーザーは話し出す。
「素晴らしい…!生き物というのは大変興味深い…!彼女とルレンデスが何時出会ったと思います?二日前ですよぉっ!」
シユーザーは巨大ハサミを宙に投げた後、両腕のロケットパンチでジークヴァルとハーライムを壁に激突させる。
「がっ…!?」
「ジークヴァル、すまな…。」
「ジークヴァル!ハーライム!」
道人が叫んだ後、ハーライムは時間切れで消える。
「ふぅっ、これでゆっくり自慢話ができる…!そう、彼女とルレンデスが会ったのは二日前!ですが、生き物の関係が深まるのは長い時間はもちろんですが、短い期間で得られた積み重ねの重さで深まる事もある!いやぁっ、面白い!最高の研究素材だ!」
シユーザーは天を見上げて拍手する。
「あなたたち、こんなグルーナさんの姿を見て攻撃できますか?できませんとも!そう、私は生き物の愛着を持つ心!それを利用しようと考えたのですよ!同情するでしょう?躊躇うでしょう?可哀想と思うでしょう?これだから生き物は面白い!」
「…何だ、こいつ…?」
深也はシユーザーの発言が理解できず、口に出た。道人たちもシユーザーに怒りの眼差しを向ける。ジークヴァルは起き上がろうとするが、ダブルトライデントが時間切れになってしまう。
「最高!最高でぇーす!ふっははっ!」
「そうか、なら…沈めっ!!」
「ごぎゃっ!?」
シユーザーの背後に現れたサスケフォンフェルが後ろから後頭部を掴み、地面に押し付けた。そのまま炎の手裏剣を六つ投げてシユーザーを燃やす。
「あち、あっち!…おのれぇっ、忍者ぁっ!」
シユーザーは燃えながら巨大ハサミを分離し、二つの剣にしてサスケフォンフェルの日本刀と鍔迫り合いをする。
「加勢するぞ、フォンフェル…!」
ジークヴァルも立ち上がり、シユーザーに立ち向かう。
「…ねぇ、グルーナさん。聞いて欲しいの。」
「潤奈?」
道人たちはシユーザーへの怒りを一旦忘れ、潤奈を見る。
「…私は豪って男の人に少女漫画を見せてもらって、本の面白さを知ったの。私も自分で面白い本を見つけたい…。そう思って見つけた本が月刊イケてるファッション。」
潤奈は今も持ち歩いている月刊イケてるファッション6月号を見せた。それを悲しげに見るグルーナ。
「…表紙に映っていたグルーナさんが気になって、私は少ないお金から何とか買って読んだの。そこには色んなグルーナさんの考えたファッションが載っていて、この女の子たちはどうしてこんなに輝いているんだろう?何て楽しそうなんだろう?私も着てみたいと思うようになったの。私はその時からあなたのファンになった…。」
潤奈は自分の右手を胸に当てる。
「あなたは自分が才能が枯れたと言ってるけど、そんな事はないよ!私はずっとあなたのファンでいるつもりだよ?」
「そんな気休め…!」
「俺たちもそうだぜ、グルーナさん!」
スタッフ三人と参加者の女性たちが立ち上がり、グルーナを見る。
「…! 皆さん…?」
「ありがとうな、嬢ちゃん!」
「君のおかげで勇気が出たよ!」
「俺たちより小さな子たちが頑張ってるのに大人の俺たちがただ見てるだけってにはいかないな!」
「何ですか、これは…?」
マーシャルは邪魔をしたかったが、何故か静観する自分に戸惑っていた。
「グルーナさん、俺たちもあんたのファンなんだぜ?あんたはすごいよ!そりゃ、口差がない連中からは色々言われるだろうけどさ!それでもあんたは諦めずに今日までやって来れたんじゃないか!」
「そうだよ!そりゃっ、グルーナさん、思いつきで急にイベント内容変えたりして俺らを困らせるけどさ!それに見合う程の内容のあるイベントをあんたは魅せてくれるんだよ!」
「私もグルーナさんのファッションが好き!未だに雑誌の切り抜き集めてるもの!」
「私も今日グルーナさんにイベント出ないかって言われたら飛び跳ねるくらい嬉しかった…!」
「…そんな…!あなたたち…!」
グルーナの目元に涙が溜まる。
「グルーナさん、頼むよ!もうこれ以上罪を重ねないでくれよ!自分を捨てないでくれよぉっ!」
「ねぇ、グルーナ…。おかしいね…。何で、あの人たちは泣きながらグルーナを必死で止めてくれるの…?わからなくて、胸が苦しいよ…。」
「…! ルレンデス…。私は…。」
グルーナは下を向き、何も言えなくなった。
「…な…何なんですか、これは…!?姉さんが、よくわからない話をし出したかと思ったら、急にニンゲンが高揚感を増して…何が…?」
マーシャルも気がついたら涙を流していた。
「…!? 何だ、これは…!?ありえない…!涙なんて、ありえないからぁっ…!」
マーシャルは必死で両目を擦って流れる涙を否定する。
「…何ですか、今のは?私は生き物は面白いとは言いましたが、今のはつまらない…!特にジュンナァッ!あなたは絶望の女神でいるべきだ!君に希望は似合わない!」
「貴様が主の在り方を決めるな!」
もうサスケヘッドが消えていたフォンフェルとジークヴァルは必死でシユーザーを喰い止めていた。
「そうだ、シユーザー!さっきも言ったろう?もう潤奈はお前たちの知ってるジュンナじゃないって!絶望してる潤奈が似合うだって?そんなのごめんだ!自分の素直な気持ちを伝えられて、他の人を勇気付けられる!潤奈はそんな強い子だ!お前が思っているような弱い子なんかじゃ決してない!!」
「…道人…!」
道人は右手で握り拳を作って強くシユーザーを否定する。左手に装着しているスマホが光り出す。
「…うん!シユーザー、あなたが私の事をどう思っているかはわからない!でも、私はあなたの思っているような私には絶対にならない!道人たちと一緒にいたら、そんな事はあり得ないのだから!」
潤奈は道人の左手を握り、道人のスマホが更に輝きを増す。
「な、何なんだ、あの光は…!?どこか、不愉快な…この光はぁっ…!?」
シユーザーは左腕で頭の顔を、右腕で胸の顔を閃光防御する。
「ジークヴァル!」
「おう!」
「「吹っ飛べ!!」」
「ぐぎゃっ!?」
ジークヴァルとフォンフェルはダブルキックでシユーザーを蹴り飛ばし、壁にぶつけた。
「…ねぇ、ルレンデス…。おかしいね…。私、儚いのが嫌いなのに…永久じゃないのが嫌なのに…。あの子たちの一瞬の煌めきが…美しいって思っちゃった…。」
その時、グルーナのポケットから白い糸が飛び出し、道人たちの元へ飛ぶ。糸が十糸姫の姿になり、道人と潤奈の後ろに来る。
「あれって、十糸姫…!?」
「…おい、愛歌。グルーナは有名なコレクターだから豪華賞品は十糸姫の糸か、デュラハン・ハートかもしれないって言ってたよな?お前、預言者になれるぜ…!大当たりだ…!」
深也は楽しくなってきた、と笑みを浮かべる。
「十糸姫…。何で…?」
道人と潤奈は手を繋いで一緒に十糸姫を見る。十糸姫が微笑みかけ、消えた後、道人のスマホの緑のストラップに白い差し色が追加される。スマホから出た光が人型になり、ジークヴァルとフォンフェルの前に立った。
『Second cange』
道人のスマホにそう表示される。そこに現れたのは龍の意匠が施された新たな鎧を見に纏った道人とジークヴァルの友の姿であった。
「貴様、何者だっ!?」
立ち上がったシユーザーは新たに現れた戦士に問う。
「さっきお前が言っていたじゃないか。調子に乗った部外者だよ。」
ハーライムはシユーザーに皮肉を返した。




