49章 虎城家の食卓
博士の連れてきた修理ロボにより、デパートの損傷箇所はすぐに修復された。怪我人もおらず、道人たちと一緒にいたスタッフやファッションショーの参加者の人たちもディサイド・デュラハンの事は公言しないように約束してくれた。
グルーナに関してはルレンデスの事は伏せて名目上、器物損壊などの罪に問われ、指名手配となる事になった。グルーナの自宅を家宅捜査を行なったが、帰ってきた形跡はなく、人が入ったフィルムケースも見つからなかった。
司令への報告など、後の事は博士たちデュラハン・ガードナースタッフや警察に任せて道人たちは車で虎城の家に向かう事になった。虎城のマンションに着いた頃には時刻は八時を過ぎていた。
「今日は皆さん大変でしたね。狭いマンションですけど、上がって下さい。」
虎城に案内され、階段を上がり、マンションの三階の302号室に着いた。虎城は鍵を開け、道人たちを中へ招く。中に入ると綺麗に片付けられた部屋で結構広いリビングだった。
「わぁ〜っ…!綺麗…!素敵なマンションに住んでるんですね、虎城さん!」
「そうですか?気に入ってもらえたんなら、幸いです。」
愛歌は虎城の部屋に入って目を輝かせた。確かに結構広い部屋だった。熊や狸のぬいぐるみが置いてあり、登山の写真なども飾ってある。姉妹別々に部屋があり、風呂場、トイレ、書斎、タンスと暮らすには十分な部屋となっている。
「すぐに晩御飯作りますね。みんなで作るにはキッチンがそこまで広くないので、ニ、三人くらいで作りましょうか。」
「おっしゃ!俺が手伝いますぜ、虎城さん!虎城さんの手料理が食べられるなんて感激じゃ…!」
「良かったさぁっ、大樹!」
「はいはい、後でね…。」
右腕を目に当てて泣く大樹を愛歌は横から押してキッチンに向かわせた。
「あたしも手伝います!道人と潤奈、深也は稲穂ちゃんの相手してて!」
「そこのテーブルの椅子に座って待ってて下さい。」
そう言って愛歌もキッチンへ向かう。虎城からエプロンをもらい、つけた後に調理の準備をする。
「だとさ、俺たちは出来上がるのを待っとこうぜ。」
「そうだね。椅子に座ろ、潤奈。」
「…うん。」
道人、潤奈、深也、稲穂は椅子に座って料理が出来上がるのを待つ。
「ねぇ、潤奈お姉ちゃん。あの忍者さんは家に入らないの?」
潤奈はフォンフェルの事を聞かれて困っていた。そう言えば、フォンフェルを見てしまっていたな、この子と道人は思った。
「…フォンフェルはこの部屋に入るにはちょっと大きいかな…。」
「そっか。私忍者さん初めて見たよ。今度お話しさせてね。」
どうやらフォンフェルの事を本物の忍者だと思っているようだ。
「潤奈お姉ちゃんも忍者なの?」
「…うーん、道人は前に私の事を怪盗だって言ってたかな。」
「怪盗?」
「お前ら、どういう経緯でそんな話したんだよ…?」
深也は訝しんで道人を見た。違うんですよ、それには訳があるんですよ、深也さん!と道人は弁明する。稲穂はフォンフェルに興味津々みたいだが、深入りさせるのも面倒なので道人は無理矢理別の話に切り替える事にした。登山の写真について聞く事にする。
「お、お姉さん、色んな山に登ってるんだね!」
「うん、そうだよ。富士山、阿蘇山、高尾山、グランドキャニオンとか…。」
「海外の山も登ってんのか。すげぇんだな、稲穂の姉ちゃんは。」
「うん!お姉ちゃん、どんな山でも登っちゃうんだ。ああ見えて諦め悪いんだよ?」
「聞こえてるわよ、稲穂?稲穂の皿にだけ野菜多く入れちゃうから!」
「わぁっ!?ごめんなさい、お姉ちゃん!」
道人たちは慌てる稲穂を見て笑った。
「稲穂、野菜苦手か?俺の妹も野菜苦手でな。今の稲穂と似たような表情してたぜ。」
「深也お兄ちゃん、妹いるの?」
「あぁ、今は入院してるんだけどな。入院食も苦手な食べ物が出たら残すんだ。食べないと元気になれねぇぞ〜って言ってんだけどな。」
深也はここから見えるはずがない病院を考えて窓の外を見た。
「…妹さん、身体が悪いんだ…。うん、ちょっと待ってて!」
稲穂は自分の部屋まで走った後、何かを探していたようでしばらくすると戻ってきた。
「はい!これ、深也お兄ちゃんの妹さんに貸してあげる!」
稲穂は天使のぬいぐるみを深也に手渡した。
「これは?」
「前にお姉ちゃんが病気になった事があってね。その時、お姉ちゃん、病気がなかなか治らなくて…。それで私が頑張ってぬいぐるみを作ったの。ぬいぐるみの中にはよくわからなかったけど、健康祈願になりそうなお守りをこれでもかってくらい入れたの。そしたら、お姉ちゃん元気になったの!その後、お父さんやお母さんが体調崩した時も活躍してくれたすごいぬいぐるみなの!」
「そうか、すげぇぬいぐるみなんだな、こいつは。」
深也は右手に持った天使のぬいぐるみを色んな角度から見る。
「でも、いいのか?そんな大事な物、俺に貸して。」
「うん!絶対効果あるから!」
「…わかった。そういう事なら、ありがたく借りるぜ。」
深也は暖かい眼差しで人形を改めて見た。
「良かったじゃん、深也!」
「…うん、きっと妹さん元気になるよ。」
「あぁ、芽依の奴も喜ぶぜ!そうだ、稲穂。良かったら何時か芽依と会ってみるか?」
「ほんと?」
「あぁ。自慢じゃねぇが、俺の妹はコミュ力高くってよ!稲穂とならすぐに仲良くなれるぜ?」
深也は腕を組んでかなり機嫌よく妹を誉めた。
「わかった!何時か会わせてね!」
「おう!約束だ!」
深也は稲穂と指切りをし、約束した。
「…? 深也は指切りげんまん歌わないの?」
「いや、恥ずかしくって、俺は歌わねぇよ…。」
潤奈の問いかけに深也は照れ臭そうに窓に見た。そうこうしている内に虎城たちが晩御飯を運んできた。
「お姉ちゃん!私、今度深也お兄ちゃんの妹さんと会う事になったの!」
「あら、良かったわね、稲穂。お友達が増えて。」
「深也、意外と面倒見が良いよねぇ〜っ。」
「おい、愛歌。意外とは何だ、意外とは。ったく…。」
虎城たちはテーブルの上に料理を並べていく。ご飯、豆腐の味噌汁、お好み焼き、鮭、ヘルシーサラダが人数分置かれる。
「わっ、すごいな…。短時間でここまで作れるんだ…。」
道人は綺麗に仕上がっている料理を見て素直な感想が出た。
「うん、ほとんど虎城さんが作ったんだ。あたしと大樹君はご飯炊いたり、魚焼いたりで。」
「道人…!俺、つまみ食いしたが…かなりいけるぞい…!」
「ちょめ!つまみ食いしてたんかい!」
愛歌は大樹の頭に軽〜く優しく触れるくらいのチョップをした。
「足りるか心配でしたが、何とか人数分お皿が合って良かったです。」
「そっか、これだけあると洗い物が大変そうだ…。皿洗いは僕たち待機組でやろう。」
「そうだな。手伝えなかった分、そのくらいはな。」
「…うん、わかったよ。」
道人の提案に深也と潤奈は賛成した。道人たちは手を洗った後、席に座った。
「それでは皆さん、ご一緒に…。」
「「「いただきまーす!」」」
道人たちが食前の挨拶をし終わった後、一斉に潤奈を見てしまう。
「…な、何?どうしたの?みんなして私を見て…?」
「ご、ごめん、ごめん!何か驚かせちゃって…。」
道人たちは慌てて潤奈に謝った。
「私の作った料理、お口に合うかな、と気になってしまって…。」
「…大丈夫。普段岡島さんの家でご飯をご馳走になってるから。ほら、箸も使えるよ?」
潤奈は箸でご飯を口に運んで食べた。
「…ご飯も味噌汁も魚もサラダも食べた事あるよ。…これがお好み焼きなんだね。」
「うん、そうだよ!」
「父の味の再現…という訳にはいきませんでしたが、普通のお好み焼きにはできたかと。」
潤奈はお好み焼きの一部分を箸で切り、口に運んだ。
「…うん、美味しい!」
「ほんと?良かったぁ〜っ…!」
稲穂が喜びを口にした後、道人たちもほっと胸を撫で下ろした。
「…外見は平ぺったいのに、色んな具が入ってるんだね。味は違うけど、一つで色んな味が楽しめるのはミスパトと似てるかな。」
「ソースもかけてみるか?味が変わるぜ?」
深也は右手に持ったソースを潤奈の食器の近くに置いた。
「マヨネーズもいけるぞい!」
続けて大樹もマヨネーズを潤奈の食器の近くに置く。
「切り分けて別々にかけた方が色んな味が楽しめるよ?」
「…わかった。試してみるね。」
道人の言う通りにし、潤奈はソースとマヨネーズも試して食べた。その間、道人たちも食事を進めた。
「…お好み焼き、気に入ったよ。ありがとうね、稲穂。」
「今度機会があったらお父さんが作ったのも食べようね!」
「…うん、約束したからね。」
道人たちはみんなで楽しく食事をし、食べ物も残す事なく、全部食べられた。
「ご馳走様でした!」
「はい、お粗末様でした。」
皆で虎城にお礼を言い終わり、道人と深也と潤奈は皿洗いをした。皿洗いが終わった後、もう時刻は九時過ぎていたので虎城が車で皆の家まで送る事になった。
「ばいばい!また遊びに来てね!」
「すぐに戻るから、大人しく留守番しててね、稲穂。」
「はーい!」
道人たちは稲穂に挨拶をした後、階段を降りて駐車場へ向かい、車を発車した。深也は家の近くでいい、と言うので先に降りてその後、大樹の家で大樹を下ろした。最後に道人と愛歌の家の近くで潤奈も降りる事にした。
「わざわざ送って頂いてありがとうございました、虎城さん!また明日!」
「えぇ。また明日、パークで会いましょうね。」
虎城に挨拶した後、虎城の車は夜の暗闇に帰っていった。
「さぁて!今日は色々あってお好み焼きだけだったけど、明日はミスパトに似た食べ物の再現よ!虎城さんが今日スーパーで買った食べ物をパークに持ってきてくれるって!」
「じゃあ、明日はパークで作るの?」
「うん!パークの調理室の一室を貸してくれるって!太っ腹ぁっ!」
愛歌は右目でウインクをして右手でピースをして道人と潤奈を見た。
「…じゃあ、また明日ね。帰ろ、フェンフェル。」
「はい、主。」
フェンフェルは潤奈を抱き抱えようとする。
「…潤奈!グルーナさんさ、きっとすぐに見つかるよ!潤奈たちの気持ちもきっと届いただろうから!だから、今日はゆっくりお休み!」
「…うん、ありがとう、道人。今日は色々ショックな事も多かったけど、全部がつらかった訳じゃない…。良い思い出もたくさんできたから…。」
潤奈は今日ファッションショーで着た服の入った紙袋を抱きしめた。スタッフたちがお礼にと愛歌、潤奈、虎城にグルーナの言っていた通りに賞品としてくれたのだ。
「…じゃあ、また明日!みんなでミスパトの再現調理、楽しみにしてるから!」
「うん!約束だよ!」
「またね、潤奈!」
フォンフェルは潤奈を抱き抱え、家の屋根を飛び跳ねて、去っていった。愛歌もまたね、と挨拶をし、自分の家へと帰っていった。道人は自分の家のドアに立つと鍵を開ける前にドアが開いて母が出てきた。何か楽しそうににやけている。
「た、ただいま、母さん。どうしたの?何か嬉しそうだけど…。」
「見たわよ、道人ぉ〜っ?愛歌ちゃんと一緒にいた銀髪の子、誰よ?何時の間に女の子友達増えたのぉっ?」
しまった、見られてたのか。おのれ、不覚と道人は思う。
「しかもこんな遅くまで女の子と二人で?何してたのかな?」
「ち、違うって!母さん!潤奈とは友達で…!」
「ふーん、潤奈ちゃんって言うの。私が目を離した瞬間に居なくなってたけど、ミステリアスっぽい子ねぇ〜っ。愛歌ちゃんとは違ったタイプで。今度家に連れてきなさいな。道人ったら、隅に置けないわねぇ〜っ。」
「だ、か、ら、ねぇ〜っ!」
道人は家の中に入り、母に潤奈の事を話すのに苦労した。




