325章Side:潤奈① 忘れるな、もう一人のヴァエンペラ
「…道人たち、ガイアヘッドと交戦に入ったって…。」
大神からの通信を聞いた潤奈とフォンフェル弐式は実験エリアの外にある海がよく見えるモノレールの駅、その近くの道路にいた。
周りにはグゲンダル、キャルベンの兵士たち、フィールドトラッカー、キルバが守りに付いている。
バイパーウイングには他のエリアのパトロールを任せている。
イジャネラは海の底のキャルベンの宇宙船に待機してもらっている。
傀魔怪堕との戦いで緊急出動したフィールドウイング零式はいざと言う時は出撃できるが、まだ不安定なので開発エリアで待機していた。
「だろうな。ここにいても爆発音が聞こえて来る程だ。こりゃっ、派手にドンパチやってやがるぜ。」
グゲンダルが潤奈の言葉に返事をした。
グゲンダルの言う通り、重く響く音が潤奈たちがいる場所にも聞こえて来ていた。
「…大丈夫かな、みんな…。」
相手は分身体とは言え、ヴァエンペラ本人。しかもガイアのデュラハンの頭を利用した強敵。一筋縄でいく相手ではないのは間違いなかった。
潤奈の胸中には不安と心配が渦巻いていた。
「大丈夫です。みんな、ここまで生き残って来られた猛者たちなんです。信じましょう。」
フォンフェル弐式が潤奈の背後から両肩に手を置き、優しく励ましてくれた。
「何、あっちにはソルワデス姉様だっているんだ。だから、気にすんなよ、潤奈。」
グゲンダルも潤奈を励ましてくれた。
グゲンダルに名前を呼ばれたのも珍しい気が潤奈にはした。
「…うん、そうだね。道人たちなら、きっと…。」
「それではあなた方は暇ではありませんか?」
「…!?」
潤奈の耳に聞き覚えのある声が聞こえて来た。
グゲンダルたちも武器を構える。
「この声は…!」
「…シャクヤス!」
「ご名答。」
姿を現したシャクヤスは街灯の上に立って三本のナイフでジャグリングをやり始めた。
「てめぇっ、何の用だっ!?」
「何んだも何も、あなた方がガイアヘッドを呼び寄せたので近くにいた私が様子を見に来たのですよぉ〜。」
シャクヤスもヴァエンペラの分身体の一人。ここに来てもおかしくはなかった。
「なるほど、あれもヴァエンペラの分身体という訳か。」
「はい、要注意デュラハンです。」
キルバは潤奈たちの近くに浮き、フィールドトラッカーも潤奈たちの近くまでホバーで移動して来た。
「…シャクヤス、返して!あなたの元になっている豪の仲間、手科初樹を!」
手科初樹とは手品が得意な豪の宇宙飛行士仲間の一人。
シャクヤスは自我とヴァエンペラ、そして手科の三つの意思を持ち合わせているデュラハンだという事を潤奈は前にマーシャルをディールマーシャルから助け出した時に聞いていた。
「…くくっ、返して欲しいか…?」
シャクヤスの口調が急に変わった。
潤奈たちにはすぐにシャクヤスの人格がヴァエンペラに切り変わった事がわかった。
「…手科の身体はヒューマン・デュラハンたちの元になった者たちと同じカプセルの中に閉じ込めてあってここでは返しようがないがな…。…まぁ、シャクヤスはヒューマン・デュラハンより前に作られたプロトタイプのようなものだから少し仕様は異なるが…。」
「…ヒューマン・デュラハンと同じでシャクヤスを倒したら、初樹は死ぬの…?答えて!」
「…さぁて…?」
ヴァエンペラはシャクヤスを倒したら手科がどうなるかを答える気はないようだった。
シャクヤスをこの場で倒すという選択は難しそうだった。
「…お前は科学者の娘だろう…?…推測してみたらどうだ…?」
「…くっ…!」
ヴァエンペラは潤奈を煽って来たが何とかぐっと堪えた。
「貴様、潤奈を侮辱する事は私が許さんぞ!」
フォンフェル弐式が潤奈の前に立ち、一緒に怒ってくれた。
潤奈はフォンフェル弐式の気持ちを頼もしく、また嬉しく思った。
「…ほう、なかなか忠誠心が高い忍者だ…。…よし…。」
シャクヤスはそう言うと急に上半身を前に倒し、力を抜いた両手をぶら下げた。
「…ジュンナァッ…!見つけたぁっ、ジュンナァッ…!」
シャクヤスは急に弱々しく震えた右手を潤奈に向かって伸ばして来た。
潤奈が大樹の家で初めてシャクヤスと会った時と似たような言葉と仕草を見せて来た。
「…! 初樹…?」
シャクヤスは姿勢を正し、腕を組んだ。
「…どうだ…?…この男の時は止まっている…。…惑星ラーデルクが滅びたあの日からな…。…この者はずっとあの日の後悔を夢で見続けている…。…小さなお前を助けないといけない、と言う使命感をずっと引き摺ってな…。…くくっ、人間が見る悪夢というのもなかなか新鮮なものだ…!」
「…っ…!」
シャクヤスが今まで何度か呼んでいた潤奈の名前が惑星ラーデルクが滅ぼされた時の手科の懸命な捜索によるものだったとは潤奈も思わなかった。
手科はシャクヤスと化された後も潤奈を捜し続けてくれていた。
ラーデルクが滅びようとする中、自分の身よりも潤奈の事を心配して捜そうとしてくれていた手科の思い遣りを踏みにじるヴァエンペラに対し、潤奈は怒りに両拳を震わす。
「下らねぇな。」
「…む…?」
「…グゲンダル?」
グゲンダルが潤奈の隣に立ち、シャクヤスに対して言葉を投げた。
「潤奈の過去ってのはオレも詳しくは知らねぇさ。不理解だ。だが、オレとソルワデス姉様もイジャネラ様に拾われるまでは貧しい日々を送ってたからな…。姉様は幼いオレを生かすために頑張ってくれてた…。その手科って奴も潤奈を生かすために頑張ってくれてたって話だろ?それは馬鹿なオレでもわかるぜ。なぁ?」
「…グゲンダル…。」
潤奈はグゲンダルが気遣ってくれるとは思わなかったのでその意外さの影響でヴァエンペラへの怒りの感情がどこかに吹っ飛んでしまった。
「…うん。豪たちはお父さんが死んで落ち込んでた私を励ますために一緒に遊んでくれた…。ブーメランに、漫画に…初樹は手品を見せてくれた…!」
「いい奴らじゃねぇか。」
「…うん…!」
「寂しい生活の中での小さな温もりってやつ…。それを奴は嘲笑ったって訳だ!オレが戦う理由としてはそれで十分だ!えぇ?ヴァエンペラさんよぉっ!」
グゲンダルはシャクヤスに対して力強く右手で指差した。
「…くくっ、少し前までこの星の生き物を根絶やしにしようとした奴とは思えん発言だな…。」
「反省し、心を改めたんだよ!てめぇと違ってな!人間もそんなに悪くはねぇっ!何たって、道人と一緒にいるソルワデス姉様があんなに楽しそうなんだからよ!」
「…そうか、反省か…。」
シャクヤスはそう言うと街灯から飛び降り、地面に着地した。
「…どれ、その反省した心を無に帰すのも一興か…!」
シャクヤスはそう言うと頭を変え、無数のナイフをグゲンダルに対して投げて来た。
「ちっ!」
グゲンダルが無数のボルトを展開する前にフォンフェル弐式が飛んで来た無数のナイフを刀と水のマフラーであっという間に地面に落とした。
「潤奈を庇ってくれた事、礼を言う…。」
「あん?」
「あなたの言葉、私のデュラハン・ハートにも響く心地良いものだった…。共に戦おう!」
「…ありがとう、グゲンダル。」
潤奈とフォンフェル弐式の礼の言葉を聞いてグゲンダルは照れ臭そうにしていた。
「へっ、大した事してねぇよ。ほら、早くあいつをやっつけようぜ!」
「…うん!」
グゲンダルの言葉に勇気を貰えた潤奈はデバイスを構え、シャクヤスと戦う姿勢を取った。




