320章 世話好きユーラと素敵な贈り物
「…ふぁ〜ぁっ、朝かぁ〜っ…。」
道人は寝慣れないベッドから上半身を起こし、しばらくぼーっと部屋を眺めながら寝る前の出来事を思い出していた。
海音にお守りを渡せた後、真輝にも渡す事ができた。
晩ご飯を食べた後、シャワーを浴びてその後は姫とユーラのためのお守り作りを再開。そうして明日に備えて眠りについた。
「さて、今日も今日とてとても大事な日だな…。」
寝る前の出来事を思い出していると段々と眠気が取れて来た。
ベッドから立ち上がろうとすると何か柔らかいものにむにゅっと触れた。
「むにゅっ…?」
右を見ると気持ち良さそうに寝ているユーラがいた。
道人はしばらく硬直した後、顔を真っ赤にした。
「な、ななななななな…!?何でユーラが一緒に…!?」
道人は急いで壁に背を付けて何度も左右を見た。
寝る前の出来事をまた思い出そうとする。
「う〜ん…あ、道人。おはようございます…。」
ユーラがゆっくりと起き上がって右手で右目を擦った。
「ユ、ユーラ…!?何で俺の部屋に…!?」
「何でって…ほら、あれですよ。愛歌のいぬ間に何とやら…でしたっけ?」
「どこでそんなことわざを…!?じゃなくて!」
「道人が人形作りを終えた後、そのままお眠りになられたので。せっかくなので私も一緒に。添い寝を。」
「むにゅって!?さっきむにゅって!?」
道人は取り乱しながら自分の右手を見た。今まで触れた事のない感触だったので不思議な感じだった。
前に潤奈のに触れた事があったが、ユーラのは感触が違った。
「私は元々ユーラ本人のお手伝い用に作られたので主人の世話をするのが得意で好きなのです。ふふっ、道人は寝ている間、私をまるで抱き枕のようにして…。」
「わ、わかった!言わなくていい!いいから!」
右手どころじゃなかった。道人は大慌てで両手を何度も振った。
「ジ、ジークヴァルは…!?その様子を見てたの!?」
「いや、デバイスの位置的に私には見えないぞ、道人。」
デバイス越しのジークヴァルの言う通り、机に置いた位置的に見えてないようだった。
「ユーラが俺のベッドに入ったところも!?」
「見えないな…。」
「カジートとヤジリウスは!?」
「それはわかるぞ。話をしていると道人の睡眠の邪魔になると言って退室して行ったな。」
ジークヴァルのおかげで道人が寝ている時の状況が段々とわかって来た。
道人は深呼吸して落ち着いた。
「ふふっ、大丈夫ですよ、道人?これは愛歌たちには秘密で。ね?」
ユーラはそう言うと右目でウインクし、右手の人差し指を口に当てた。
道人の深呼吸は秒で無駄になり、また身体が火照って来た。
「寝込みとは言え、敵でも取れない道人の隙を取れちゃいましたよ。」
「もう、油断も隙もないね…。」
道人はやれやれと寝巻きから普段着に着替えようとする。
「あ、私も着替えないと…。」
ユーラは寝巻きのボタンを二つ外した。
「ちょちょっ!?」
「ふふっ、冗談です。驚きました?」
「ちゅ、中学生をからかわないで…。」
ユーラは楽しそうに別の部屋に入って着替え始めた。
道人は再びやれやれと普段着に着替えた。
「さて、道人!ここでプレゼントフォーユーというやつではないでしょうか!」
着替え終えたユーラはそう言うと両手を後ろに回し、前屈みになって上目遣いで道人を見た。
「…もしかして、いち早くお守りをもらいたいから俺と一緒に寝てたの?」
「はい!」
ユーラは立ち直し、道人に満面の笑みを見せて来た。
お守りを渡してから寝れば良かった…と道人は自身の行いを後悔した。
「もう…。はい、どうぞ。」
「わぁっ…!」
ユーラに渡したのは道人オリジナルの黄緑のエスポワールのミニフィギュアだった。
「ここの設備のおかげでかなりの仕上がりにできたな。黄緑色もトップコートをかけてムラなく綺麗に塗装できたし…。」
「はい!ありがとう、道人!」
ユーラはそう言うと嬉しそうに道人に抱きついて来た。
道人はもう心臓が飛び出そうだった。
「ほらほら!見て下さいよ、ジークヴァル!」
「ふむ…なるほどな、良い出来だ。」
ユーラはデバイスに映るジークヴァルにミニフィギュアを見せてあげていた。
「ほら、朝ご飯食べに行くよ?」
「はい!」
現時刻は七時半。道人とジークヴァルのデバイスを手に持ち、ユーラと一緒に部屋を出て廊下を歩く。
ユーラは嬉しいからか、ミニフィギュアを色んな角度から見ながら歩いていた。
「よぉ、道人。どこ行くんだ?」
自販機コーナーの椅子にヤジリウスとカジートが座っていた。
「朝食食べに行くところ。その後、作戦開始だから後で合流ね。」
「あいよ。」「わかったぜ。」
道人とユーラは自販機コーナーを通り過ぎ、階段を降りようとする。
ユーラはミニフィギュアをポケットに大事にしまった。
「おはよう、道人!」
「あ、真輝さん。おはようございます。」
「おはようです。」
下の階に降りると真輝とばったり遭遇した。
道人とユーラは一緒に挨拶した。
「昨日はありがとな、人形。大事にするぜ?金メッキだから扱いに気をつけないとな…。」
真輝はそう言うと金色のエスポワール人形を見せて来た。
「真輝さんには普段からカードボックスもらったりしてお世話になってますからね。もちろん、戦闘面でもです。」
「おう、今後も頼りにしてくれ!」
「おや?真輝さん、右肩…?」
ユーラが真輝の右肩を気にしたので道人も一緒に見た。
「エンブレム?」
「あぁ、博士からこれだけもらったんだ。後六日しかないだろ?制服は間に合わないだろうしな。自分で縫い付けて見たんだ。普段一人旅してるから編み物は意外と得意でね。かっくいいだろ?これで俺も制服バリアデビューって訳さ。」
真輝はそう言うと左手で右肩を掴んでエンブレムを見せて来た。
「それに俺は制服ってのがどうも苦手でな。普段着の方が気が楽でいいや。」
「ははっ、真輝さんらしいです。」
道人とユーラ、真輝は会話をしながら階段を降り、食堂まで辿り着いた。
「おっす、道人!」
「おはよう、愛歌。」
愛歌が真っ先に道人に挨拶して来た。
愛歌に朝の挨拶をされると安心感や日常感があって道人は落ち着く。
「ユーラ、あんた…昨日は自室で大人しく寝てたでしょうね?」
「ね、寝てました寝てました!」
「う、うん…。そうそう…。」
幼馴染の読みの鋭さは恐ろしい。道人はつい目を泳がせて冷や汗を掻いてしまった。
「えっと、深也とグルーナさんは…。」
食堂にいるのは愛歌の他に潤奈、大樹で深也とグルーナ、海音はいなかった。
昨日、海音にお守りを渡せて良かったと道人は改めて思った。
「ランドレイクとルレンデスのとこ。」
「…二人は後でスクリーン越しで作戦説明に参加するって。」
「慌ただしいの、さすがにの…。」
愛歌、潤奈、大樹はそう言うと暗い表情をし始めた。
ヴァエンペラが地球に来るまで後六日。無理もない。
「みんな、今からそんな気落ちしてたら身がもたないぜ?リラックス、リラックス!」
真輝は大会慣れしているおかげか緊張していなかった。
こういう時に真輝の年長者であり、デュエル・デュラハン優勝者としてのメンタルの強さは頼りになる。
「真輝さんの言う通り!さぁて、腹が減っては戦はできないってね!」
道人も明るく振る舞い、ユーラと真輝と一緒に席に座った。
「…そうだね。まずはご飯。」
「よし、腹いっぱい食べるぞい!」
「駄目よ、大樹。程々にね。」
「大樹、愛歌ちゃんに注意されたさぁ。」
潤奈、大樹、愛歌の表情に明るさが戻った。
道人は安心し、タブレットのメニューを見た。
一度寝たからか、頭の中でディヴェロップメントフォックスの事は整理されて今日は油揚げが入ったうどんを食べてもいいかな、と道人は思えた。




