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ディサイド・デュラハン  作者: 星川レオ
第5部 銀河侵食帝王神ネガ・ディサイドヴァエンペラ
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318章Side:ウェント 前世のアレウリアス

「やれやれ、あれから一体何日経ったんだ?時間感覚が全くない…。」


 ウェントはどす黒い空間の中にただ一人浮いていた。

 周りは小刻みに雷が鳴り響いていて耳がおかしくなりそうな場所だった。

 ウェントはVerz(フィア)weifeln(ツヴァイフェルン)=ドラッヘを連れてイギリスからアレウリウスが眠る洞窟へ戻って来た後、姿が変わったアレウリアスにあっという間に取り込まれてしまった。そして、現在に至る。


「ま、ここにいても退屈はしないからいいんだけどさ…。」


 ウェントは禍々しい空間の中で宙に浮かびながらも足を組んでくつろいでみせた。自分の周りにスクリーンを出現させ、眺め始める。


「何度閲覧しても楽しいな、アレウリアスの前世ってのは…。まるで飽きない。考察するのも悪くない…。」


 ウェントは既にアレウリアスの前世の姿を一通り把握していた。まるで動画を再生するかのようにアレウリアスの生前の映像を流しては見ていた。

 幼少期のアレウリアスはジークヴァルが暮らすネーランドの近隣にあるギリギナ国で生まれ、母と共に貧しい生活を送っていた。


「母上、もう少しの辛抱です…。」

「アレ…。」


 幼少期のアレウリアスは寝たきりの病を患った母の看病をしており、母の色白い右手を両手で握っていた。


「もうすぐ医者がやって来ます。私が見つけ出した腕の良い医者です。だからどうか、私を一人にしないで下さい…。」

「アレ…。私の可愛い子…。」


 母は弱々しく、今にも崩れそうな笑みを幼少期のアレウリアスに向けていた。金髪の長い髪もアレウリアスの遺伝した金髪よりも色が薄くなっていた。

 アレウリアスの父親は過労で既に亡くなっていた。母はその父親の代わりにアレウリアスを育てたが、無理が祟ってこうして病を患ってしまった。


「あなたを絶対に一人にはしないわ、アレ…。ひと、りに…は…。」

「…! 母上!」


 医者がやって来る前にアレウリアスの母は息を引き取った。

 医者は運悪く道中で竜に襲われ、息絶えた事をアレウリアスは後日知った。来るはずがなかったのだ。

 その日からアレウリアスは竜を憎むようになり、憎しみのまま剣を振り始めた。

 剣の腕をぐんぐんと上げていったアレウリアスはあっという間にギリギナ黒騎士団の騎士団長の座に上り詰めた。


「アレウリアスの巧みな剣技には親を失った悲しみや竜への怒りが込められていた訳だ。これはこれからの戦いじゃ大事な事だ。アレウリアスにとって思い出せたのは僥倖(ぎょうこう)と言っていいだろうな。この感情を取り戻せたアレウリアスは当時の悲しき想いをまた剣に込められる。でも、それじゃ前世のままだ。そこから更に未来への渇望を剣に乗せられればアレウリアスは今よりもっと強くなれる…!」


 ウェントはそう言うと次のスクリーンに向かって右手を伸ばし、自分の目の前に移動させた。

 前世のアレウリアスが部下たちと剣の稽古をしている場面が映し出される。


「どわっ!?」


 稽古をしていた部下の持っていた剣がアレウリアスに弾かれ、地面に突き刺さった。

 

「貴殿の剣は軽い。貴殿の背丈を考えるとまだ剣に重みを乗せられるはずだ。それを活かせ。」

「は、はい!」

「いつ見ても素晴らしいものだな、アレウリアス団長の太刀筋というものは。」

「あぁ、さすがだぁ~っ。」


 見物している部下たちがアレウリアスの剣の腕前を讃えるが、アレウリアスは無表情で全く感情がないようだった。


「あれでばっさばっさと群がる竜や首無しデュラハンたちを倒していくんだもんな。頼もしい限りだぜ、うちらの団長は。」

「竜は元は人かもしれないってのに全く容赦がないものな。」

「馬鹿。元々俺たちは敵国の人間たちを殺してるだろ?」

「それもそうだな。」


 ギリギナではとある噂が広まっていた。その出所は商人だという事をアレウリアスも知っていた。

 内容は竜は元々とある里にいた人間であり、彼らは儀式を行うがその儀式に失敗すれば言葉を発せない四つ足のドラゴンと化す、というものだった。中には竜人を人身売買している者たちもいるらしい。


「ふん、そんな事…。」

「そう、アレウリアスにとってはどうでもいい事だ。」


 スクリーンに映る前世のアレウリアスの独り言に対し、ウェントは言葉を付け加えた。


「例え何であろうと母を助けるための医者を殺した者…。アレウリアスにとってはそれが何者であろうと母を殺した存在には変わりない。このアレウリアスの容赦のなさが今のアレウリアスにも必要だ。」


 アレウリアスはその後も竜や首無し鎧武者、人間たちに剣を振り続ける。部下たちを連れているが、群れるつもりはなかった。一緒に戦う前にアレウリアスが敵を一蹴する。

 ギリギナの国王から縁談の話をされた事もあったがアレウリアスには全く興味がなかった。


「私が信じられるのは今はお前だけかもな…。」


 アレウリアスは自分と戦場を共にする漆黒の愛馬ヴァオリスから降り、優しく撫でた。

 ヴァオリスもアレウリアスに懐いていて撫でられてもまんざらではない様子だった。

 その後も竜討伐を続けるアレウリアスだったが、ある日から急に竜討伐に来ても既に竜はいない事が多くなった。


「またか。おい、本当にここに竜がいたのか?」


 アレウリアスに付いて来た部下の一人がぼやいていた。部下の言う通り、この場には竜の死体すら見つからなかった。とても戦った後だとは思えない。


「きっと、あれじゃないですかね?噂のネーランドの竜殺しの剣士。最近活発に行動するようになったみたいですし。」

「…何だと?」


 アレウリアスは部下から話を詳しく聞くとネーランドに竜殺しの剣を握る騎士団長が最近名を上げて来た事がわかった。

 気になったアレウリアスは商人や吟遊詩人から話を聞いて調べた。

 その竜殺しの騎士の名はジークヴァル。レーヴァテインという剣を持ち、その炎の剣で竜の亡骸をも残さない凄腕の剣士という事がわかった。


「ネーランドの騎士、ジークヴァル…。」

「そう、アレウリアスは今まで竜憎しの気持ちだけで戦って来た。だが、己の剣技を鍛えていく事でアレウリアスにも剣士としてのプライドというのが内に生まれてた訳だ。この頃からむっつりさんだった訳だな、アレウリアスは。」


 誰がむっつりさんだ、誰がというアレウリアスの声がウェントには聞こえた気がした。


「こうしてジークヴァルと戦ってみたい、という気持ちがアレウリアスの心に芽生えた訳さ。」


 その後、アレウリアスは竜討伐任務を受けた際、無意識に普段よりも早く現場に駆けようとする。

 そして、お目当ての人物と出会えた。


「凄まじいものだな、貴殿の剣は。」

「…? 君は…?」


 アレウリアスに話し掛けられたジークヴァルは不思議そうにアレウリアスを見ていた。


「私はアレウリアス。君たちのいる国ネーランドの近隣にある国ギリギナの騎士団だ。」

「ギリギナの…?」

「貴殿の実力は確かなもののようだな。おかげで我らは無駄足となる事が多い…。」

「別に悪い事ではないだろう?君たちがやろうが、私たちがやろうが、最終的にはドラゴンに襲われる人々を守れたらそれでいいはずだ。」

「…貴殿が戦った後はドラゴンの死体はいつも見当たらないが…。」


 アレウリアスは人々を守れたらいいという旨のジークヴァルの言葉を気に入らず、聞き流して周りを見渡し始めた。


「ドラゴンには今まで何人も民たちを葬られてきた…。中には姿も見たくないと嫌悪する者もいるだろう…。だから、私は必殺の一撃で跡形もなく葬る事にしている。」

「なるほどな…。貴殿はこんな噂を聞いた事はあるか?こいつら、ドラゴンは元々はとある里にいる人間…。彼らはある時期に儀式を行い、その儀式がうまく行かなかった者は言葉を発せない四つ足のドラゴンとなる…。」

「何…?」


 アレウリアスは振り返り、ジークヴァルに背中を向けた。


「貴殿のその剣、かなりの業物と見た。いずれ手合わせを願いたいものだ。」


 アレウリアスがそう言うとジークヴァルは右手に持ったヴァルムンクを見た。


「手合わせ…?例え、君の国との合同演習をしたとしても真剣同士で闘う事はないだろう?」

「どうかな?ネーランドと我が国ギリギナは元々仲が悪い…。その内、戦争になるかもしれんぞ?ではな、見せ掛けの優しき騎士よ。」


 そう言うとアレウリアスは部下たちと共に馬で駆けて行った。


「あれがジークヴァルか…。思ったよりも優男で拍子抜けだが…。さて、ああいうのは怒れば途端に強くなると言う。竜に負けじとな…。」


 ところが、アレウリアスのアテは外れた。ジークヴァルは三度も竜を取り逃してしまったという報をアレウリアスは得た。


「ジークヴァル、危ない!」


 ロードの叫びが響く中、ジークヴァルに竜の牙が迫る。


「貴殿らしくないな、ジークヴァル。」


 アレウリアスは不本意だが、ジークヴァルの加勢に入った。

 アレウリアスは竜を挑発した後、自分に気を向かせ、あっという間に竜を殺してみせた。

 ジークヴァルの目の前でドラゴンの死体が転がるが、アレウリアスの目には気のせいか竜の死体を見たジークヴァルの目が悲しそうに見えた。

 それはまるで病死した母を悲しく見ている過去の自分の姿のようでアレウリアスは内心苛立ったがここは抑えた。


「どうした、ジークヴァル?私が来る前にドラゴンが生きているとはな…。」

「アレウリアス…。」


 アレウリアスはそう言うとゆっくりと馬に乗ったジークヴァルに近づいた。


「まさか、私が話したこいつらが元は人間だったと話した事を気にしているのか?」

「それは…。」

「図星の様だな。何、気にする事はない。一度竜になってしまった者はもう人にあらず。躊躇うな、剣を握れ。ただ一閃。それだけだ。」

「そんな事は…ない!彼らだって…人にまだ、戻れる可能性が…!」


 ジークヴァルはそう言うと左拳を震わせた。アレウリアスにはその仕草がよくわからなかった。


「…ふん。まぁ、いい。ネーランドとギリギナとの戦いの時は近いかもしれん。それまでに己の剣の腕と心を磨き直しておけ。貴殿と死合えるのを楽しみにしている…。」


 アレウリアスはそう言うとジークヴァルから離れ、ドラゴンの死体処理作業に入った。

 この後、ネーランドで巨竜が突然出現したという報を聞き、アレウリアスは急いでネーランドに駆けたがジークヴァルは既に死に絶えていた。


「あっけない…。あまりにもあっけなさ過ぎる…。」


 結局、アレウリアスはジークヴァルと戦う事はなかった。その後、アレウリアスはネーランドを攻める事になり、ジークヴァルの仲間であるロードと交戦したが大した腕ではなかった。

 取り逃がしたが興味がなかったので追わなかった。


「その後のアレウリアスは自分が好敵手だと思った相手と戦えなかったという失意による影響なのか、母と同じ病気に掛かってしまう…。これがアレウリアスの一生だ…。」


 ウェントはそう言うと自分の周りのスクリーンを全て消した。


「俺は空野豪を元にして作られたヒューマン・デュラハン…。優秀な俺はそこから更に空野家のご先祖様の能力まで取り込んでみせた…。言わば、俺は今を元にした過去の集合体でもある…。人間ってのは強欲な生き物だ…。やり残した事への後悔や未練は何かとあるはずだ…。」


 ウェントは先の見えない遠くを見て一人話を続けた。


「俺はもう空野家だけの過去を統合する存在でいるつもりはない…!アレウリアス、お前の好敵手と戦えなかったという未練…!今じゃそれも俺の一部だ…!そうだ、ディサイドできた俺たちは一心同体…!俺も道人を倒し、お前もジークヴァルを倒す…!自分が生まれた本当の意味を手に入れる…!」


 ウェントがそう言うとデバイスから眩い光と邪悪な闇が溢れ出した。


「行こうぜ、アレウリアス…!俺たちは一緒に願いを叶えるんだ…!そして、造物主に歯向かおう…!俺たちは与えられた意味を上回れる存在になれるはずだ…!」

「…ウェント…!」


 アレウリアスの声が聞こえるとウェントは元の洞窟に戻って来ていた。

 目の前には集めた残滓を取り込み、新たな漆黒の鎧を身に纏ったアレウリアスが立っていた。


「やれやれ、やっとお目覚めか、アレウリアス?」

「あぁ、誰かさんに叩き起こされたのでな。」


 Verz(フィア)weifeln(ツヴァイフェルン)=ドラッヘがアレウリアスの近くまで飛んで着地した。


「…こいつは?」

「俺たちのビーストヘッドだ、アレウリアス。」

「ほう?」


 アレウリアスはそう言うとVerz(フィア)weifeln(ツヴァイフェルン)=ドラッヘの頭を優しく撫でた。


「気に入ったか?」

「あぁ、言葉を喋らない動物は私好みだ。」

「それは良かった。けどさ、このままの俺らだとビーストヘッドを得た止まり…。」

「わかっている。奴らのオリハルコンに匹敵するものを我らも得るべきだ。」

「何、こうやってディサイドもできてビーストヘッドも得られたんだ。決戦の時は近い…。待ってろよ、道人、ジークヴァル…!そして、秋子…君もね…。」


 ウェントの強い意思に呼応するようにデバイスはまた光と闇を発し始めた。

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