318章 お守り作り!勝手に増やせ、追加戦士!
「何か、亜空間移動は肉体面より精神的に疲れるわ、うん…。」
道人はカジートと一緒に人気のない開発エリア行きのモノレールに乗り、愛歌たちと合流しようとしていた。
「大丈夫か、道人の方の主?肩でも揉もうか?」
「いや、精神的な疲れによるものだし…。」
「じゃあ、頭を揉もうか?」
「そういう問題でもなくてね…。」
「ははっ、いいじゃないか。別に肩でもな。」
「じゃあ…。」
ガイア・ジークヴァルがデバイス越しから道人とカジートのたわいもない会話に割って入って来た。
ガイア・ジークヴァルがそう言うなら…と道人は席の端っこのガードに背中を当て、カジートに両肩を揉んでもらった。
「こういう時は確か…凝ってますねぇっ、主…って言うんだったか?」
「みんな一体どこからそういう知識を得ているんだろう…?」
カジートに両肩を揉んでもらっている内にモノレールは開発エリアの駅に到着したので二人で降りた。そのまま会社エリアのビル内に入り、ボディチェックを受けた。
「あ、道人!こっちこっち!」
手を振っている愛歌が道人の目に入って来た。愛歌、潤奈、大樹、真樹、ユーラが広間の休憩スペースにある椅子に座っていた。
道人は指令室に向かおうかと思ったが、愛歌たちが座っている場所までカジートと一緒に歩いた。
「愛歌、潤奈、検査は終わったの?大丈夫だった?」
愛歌と潤奈はルアンソンとの戦いでデュラハンの頭となってトワマリーとフォンフェル弐式と共に戦った。その際の影響で人体に異常がないかの検査をする事になったので道人は結果を尋ねた。
「うん、終わったよ。」
「…どこも異常なしだったよ?」
「そっか。なら良かった。えっと、深也とグルーナさんは…。」
「明日の作戦の打ち合わせを司令室でしてるよ。」
深也とランドレイク、グルーナとルレンデスはガイアヘッド浄化作戦では根幹となる存在。
真剣な表情で話し合いをしている深也とグルーナを想像するのは容易だった。
と思った道人だったが、グルーナは合間合間に閑話休題で茶化しているかもしれない…とも思った。
「道人は魔月さんと話できた?」
「うん。えっとね…。」
「あ、待って。せっかくだから司令のデバイスに繋ごう。そうすれば司令室に行かずにさ、説明する手間が省けるでしょ?司令たちも忙しいだろうからさ。」
愛歌はそう言うとトワマリーのデバイスで司令に連絡を取ってくれた。
司令と通信が繋がった後、道人は魔月や姫と話した事を愛歌たちに教えた。
「なるほど、わかった。ご苦労だったね。」
報告中、デバイスからは司令の声と一緒にキーボードを叩く音が聞こえて来ていた。
「すいません、デバイス越しの報告になっちゃって…。」
「いや、構わないよ。明日にでも新たな作戦を決行しないといけないからね。こちらとしてもなるべく手間は省きたいからな。今日も疲れただろう?ゆっくり休むといい。」
「休む…。えっと、俺たち今日から一週間、パークに泊まった方がいいですかね…?」
後一週間でヴァエンペラは地球にやって来るが、その間に今回のハクヤとルアンソンのように別の敵が襲って来る可能性がある。
秋子には申し訳ないが、家には帰らずにいた方がいいかもしれないと道人は思った。
「そうだな…。明日はすぐにでも作戦に取り掛かるからな…。今日はその方がいいかもしれない。」
「愛歌たちもそれでいい?」
「いいわよ。」
「構わんぞい!」
「俺は元々ここ泊まりだしな。」
「…私もグルーナさんやマーシャル、お父さんもここにいるから引き続きね。」
「えっと、皆さんと同じく!」
愛歌、大樹、真輝、潤奈、ユーラの意見を聞いた道人は頷いた後、トワマリーのデバイスを見た。
「ただ、後一週間…。こちらとしても、なるべくなら道人君たちが家で過ごせるようにしたいものだな。」
「司令の言う通りだ。来るべき戦いに備えて日常や休息を満喫するのも戦士としては大事な事だ。」
司令の心遣いの言葉を聞いた後、デバイス越しでガイア・ジークヴァルも言葉を付け加えた。
「その通りだ。おっと、長話はこれくらいにしよう。すまない、もう切るよ?」
「はい、忙しい中ありがとうございました。」
司令の通信を終え、愛歌はデバイスを机の上に置いた。
「愛歌は…さっきの戦いの報告書を書いててくれてたのか。」
「うん、もう慣れちゃったかな。」
愛歌はそう言うとボールペンを手に取り、報告書に目を向けた。
「潤奈も?」
「…私はフォンフェル弐式の稼働実戦報告書を書いてたの。」
「私はそんなお二人のBGM役?を務めていました。」
「こらっ、誰ですか!ユーラにまた変な事を教えたのは!」
道人がそう言うと真輝が笑いながら大樹を指差し、大樹が両手を後頭部に当てて口笛を吹き始めた。
「いいよ、いいよ。一人で書いててもあれだし。ねぇ?」
「…うん、私、文字の書き方がまだ不慣れだし…。」
「二人がそう言うんなら、いいけどさ。」
道人はそう言うと愛歌のとなりの席に座った。
「さて、司令たちが作戦内容を固めるまでどうしようか…。」
道人は少しでも自分たちにできる事はないかと腕を組んで考え始めた。
「今日からデュラハン・シップが地上世界と傀魔階堕を行ったり来たりだから、誘導役でもしようか…。」
「それは流咲さんのお父さんたちやスタッフたち、キャルベンの兵士たちがしてくれるからあたしたちは休んでていいってさ。」
愛歌がペンを二回回しながらそう言うとまた書類にペンを向けた。
「だったら、勉強でも…。」
「今は流咲さんの目がないせっかくの機会なんじゃ。それは避けたい。」
「そうか、だからお主はここにいるのか…。」
道人は困り顔で堂々と腕を組んでいる大樹を見た。
「まぁ、シユーザーたちが何をやってくるかわかりませんし…。ここは作戦が固まるのを待って大人しくしていましょう。」
「そっか、そうだね。」
ユーラにそう言われて道人は何かしようとするのではなく、ゆっくり休む事にした。こういう時にユーラのゆったりとした感じが込められた言葉には癒し効果があるように思えた。
「あ、そうだ。ちょっと母さんに連絡して来るよ。」
「うん、いってらぁーっ。」
道人は愛歌にそう言われ、愛歌たちから少し離れた場所で立ってスマホで秋子に連絡を取った。
「もしもし?道人?どうしたの?」
「えっとね…。」
後一週間でヴァエンペラがやって来る。今それを秋子に教えても怖がらせるだけだと道人は思った。
教えないで黙っている訳ではない。いざ避難する際に体調を崩したらいけない。なので、今はそう考えて伝えるのはやめておこうと道人は思った。
今日はパークに泊まるという事だけを秋子に伝えた。
親子の関係は強いもので、もしかしたら察せられる恐れもある。道人は何とか悟られないように話した。
「…わかったわ。でも、気を付けるのよ?」
「うん、ありがとう。母さん…。」
道人がしばらく秋子と世間話をした後、通話を終えて愛歌たちの元に戻り、席に座った。
「そうだ、着替えどうしようかな…。」
「よし、俺が取りに行ってやろう。」
カジートが道人の家まで亜空間移動して着替えを取りに行ってくれる事になった。
「愛歌と大樹はどうする?」
「あたしらのはカジートじゃ取りに行けないよね…。お母さん、カジート見たらびっくりするだろうし…。」
「俺の家の場所も知らんじゃろうしの。」
「ならば、私が取りに行きましょう。」
フォンフェル弐式が突然姿を現し、潤奈の近くに立った。
「私ならお二人の家の場所は知ってますから。親に気づかれずに着替えを持って来られます。何が必要かを予め言ってもらえれば…。」
「そう?じゃあ、お願いしようかな。」
「何だか悪い気がするが、助かるぞい。」
フォンフェル弐式が着替えを取りに行ってくれる事になったので大樹は紙に必要なものを書き始めた。
「…あ、そうだ!やる事あるじゃんか!」
道人は急に閃いたので椅子から急に立ち上がった。
「…どうしたの、道人?」
「ちょっと用事思い出した!道人隊員とカジート、これより別行動を取らせて頂きます!」
「え?俺も?」
「うん、着替え取りに行くのは後でもいいからさ。
「あ、道人!私も行きます!」
道人はそう言うと近くの階段を駆け上がる。カジートと一緒にユーラも付いて来たので歩調を合わせてあげた。
道人は傀魔階堕が攻めて来た際に自分が泊まっていた部屋までやって来た。
「まぁ、泊まるとしたらまたこの空き部屋だよね。」
道人が部屋に入ると以前の何もない寝るためだけの部屋だった。人手不足だからか、清掃がされた様子もない。
道人とユーラは空いている椅子に座った。
「あ、しまった。材料。」
道人はつい思いついた発想だけで走り出してここまで来てしまった。
これがグルーナの言うインスピレーションによる行動というやつか、と道人は思った。
「何か必要なのか?何なら俺が取って来ようか?」
「いいの?」
「おう。建物内を駆け回れば俺の亜空間移動の場所も増えるしな。」
「じゃあ、申し訳ないけど遠慮なく…。開発エリアから小さいのでいい、木材と工具を持って来て欲しいんだ。あ、待ってて。」
木材と工具とカジートに言ってもわからないかもしれない、と思った道人は紙にどんなものか書いてあげた。
「こんな感じ。これをもらって来て欲しいんだ。」
「おう、任されたぜ!」
カジートはそう言うと部屋から廊下弐出てブレード形態となり、亜空間を作り出してすぐにこの場から消えた。
「? 道人、一体何をするおつもりで?」
「お守り作りだよ。以前、愛歌たちに渡したお守りの人形があるんだ。」
「あぁ、道人がフランスで買った人形の事だな。」
道人は以前、トワマリーとフォンフェルがビーストヘッドの試練を受けた帰りにお土産屋で人形を買った事があった。
「希望戦士隊エスポワールズって言ってね。それをお守りとして愛歌たちに渡したんだ。」
「ふむふむ。」
「彼らは九人で構成されているんだけど…俺たちはあれから増えちゃってさ。だから、この機会に自作して追加で二人分も作ろうかと思ってさ。」
「み、道人が私に贈り物を…!?」
ユーラは両手を頬を当てて顔を赤らめた。
「いや、これはみんなに配ってるものだからさ…。うん…。」
「そ、そうですね!つい舞い上がってしまいました…!冷めて、冷めて、私…。」
ユーラはそう言うと右手を胸に当てて深呼吸をした。
「でもでも!それでも嬉しいです!」
「深呼吸の意味ぃっ!」
ユーラは深呼吸をした後、目を輝かせて顔を道人の顔に近づけた。
「しかし、彼らは人数が足りないのだろう?どうするつもりだ?」
「勝手に足そうと思って。」
「い、いいものなのか?勝手に足しても…。」
「いいの、いいの!子供の頃はオリジナルヒーローだって言ってさ、よくはしゃいで自分だけの追加戦士とかつい紙に書いたりするんだから!それにこれはお守り!あくまで個人の所有物です!」
「何かよくわかりませんが、道人が嬉しそうだからいいです!」
道人がテンションを上げているのを見てユーラもまるで同調するかのように両手で握り拳を作ってワクワクしていた。
「なるほど、わかった。確か渡したのは赤、青、黄、黒、ピンク、白、緑…。まだ渡せてないのが金色と水色だったな。」
「うん、水色が海音さんだから…。金色は…。」
「せっかくの道人の手作り!私は道人の考えたオリジナルヒーローとやらをもらいたいです!」
「よし、リクエストに応えて進ぜよう。そうなると…決めた、金色は真輝さんに渡そう!」
道人はノリに乗って来たので使われてない紙を見つけ、ペンを持ってデザインを描き始めた。
「エスポワールはシンプルなヒーローだから俺でも描きやすいな。かと言って、原作のデザインへのリスペクトも大事!そこは拘りたい!」
「わくわく…。」
ユーラが両手を頬に当てて嬉しそうに道人の書いている絵を見ていた。足も上下にぶらぶらさせている。
何だか幼少期に一緒に遊んだ愛歌の事を思い出して道人もつい嬉しく思った。
「道人の方の主、取って来たぜ。これでいいのか?」
「おぉっ!?」
カジートが突然亜空間の裂け目から出て来たので道人はつい驚いてしまった。
カジートは右手に小さい木材と左手に工具を持っていた。
「あ、ありがとう。あったんだね、ちょうどいい木材…。」
「おう、式地博士とやらが得意げにくれたぜ。」
「さすが博士…。忙しい中すいません…。よし、ここでなら完成度の高いものが作れそうだ…!空野道人、頑張ります!」
道人は創作意欲を掻き立て、思いつくままにペンを走らせていく。『良いインスピレーションよ、道とん!』とここにいないはずのグルーナの声が道人には何故だか聞こえた気がした。




