316章 ちょっくら傀魔怪堕
「よし、ここなら大丈夫かな?昨日みたいに屋上じゃないけど…。」
道人はカジートの亜空間移動の力で姫やキャプテン・雷牙、魔月に会いに傀魔怪堕に行く事になった。
ビルの外に出て人気のない場所へとやって来た。
「いいんじゃないかい?さて、早く目的地に行こうぜ。」
「うん。と、その前に…。」
道人はジークヴァルのデバイスを取り出して確認する。
ルアンソンとディヴェロップメントフォックスとの戦いからまだ三時間経っていないので画面に映っているのはガイア・ジークヴァル。オリハルコン化はまだ解けていなかった。
「よし、オリハルコンスライド!」
道人はオリハルコンの鎧を一瞬で身に纏い、ブレードに変形したカジートを両手に持って構えた。
「えーっと、昨日魔月さんたちがいた場所を頭の中に思い浮かべて…。」
道人は集中し、昨日見た傀魔怪堕の光景を鮮明に思い出そうとする。」
「…よし、これだ!」
道人は自分の納得のいく傀魔怪堕のイメージ像が固められた後、カジートブレードで宙を一閃。亜空間の裂け目を作り出し、すぐに飛び込んだ。
道人はしばらく亜空間を漂う。
「やるな、道人の方の主!もう俺を完全に使いこなせてるぜ!実にシアーナ!」
「ううん、俺だけじゃないよ。さっきの戦闘でジークヴァルたちも戦ってる最中にカジートブレードを投げ渡し合いながら戦ってさ。凄かったな…。あの戦い方は想定してなかったよ。」
「ははっ、すぐにその戦い方に対応してみせた道人の腕前もなかなかのものだったぞ?」
デバイス越しからガイア・ジークヴァルが道人を褒めてくれた。
「俺もこんなにたくさんの主ができるとは思ってなかったからな…。あの戦い方は驚いたぜ。」
「あぁっ、何だかごめんね?結構投げ渡し合っちゃったよね…。」
「いや、いいんだ。なかなか新鮮な経験だったぜ?ああいう戦い方もあるんだな、と勉強になったぜ。」
道人がジークヴァルとカジートと会話をしていると亜空間の裂け目の出口が見えたのですぐに飛び込んだ。
「おぉっ!?何だ!?」
道人が地面に着地すると魔月のフクロウ人形が驚く姿がすぐに目に入った。
「わわっ!?ごめんなさい、魔月さん!急に現れちゃって…!」
道人は鎧を解除し、制服姿に戻った。カジートもブレード形態から人型形態に変形して着地した。
「おぉっ!?道人ではないかぁ~っ…!」
姫も近くにいたので道人に向かって走って来て跳んで抱きついて来た。
「何じゃ?もう我の事が恋しくなったのか?わざわざカジートの力を借りてまで我に会いに来るとは…!このこの、憂い奴め…!」
「はっはっ…。いや、そうじゃなくてね…。」
姫は恍惚な笑みを浮かべながら自分の頬と道人の頬をくっつかせてぐりぐりして来た。
道人はつい細目になって照れてしまった。
「よし、これでこの場所の事は覚えられたな、カジート?」
「おう、ばっちしだぜ!」
デバイス越しから話し掛けたガイア・ジークヴァルに対し、カジートは右手でサムズアップして来た。
カジートは一度来た場所ならすぐに記憶して今度からは自分だけで来る事ができる。
「これでいざと言う時はカジートが単体で傀魔怪堕に来る事ができるな。」
「あ、そっか。今度から魔月さんたちに通信できなくても、何か用があったらカジートに頼む事ができるんだね。」
「おう、これで俺も立派なメッセンジャーボーイってやつになれた訳だな!」
「でも、何度も地上世界と傀魔怪堕を行き来させてたら何だかカジートに悪いな…。」
「道人君、彼は?」
道人とガイア・ジークヴァル、カジートが会話をしていると魔月のフクロウ人形がカジートの事を聞いて来た。
姫はまだレング・ザ・ダイの事を話してなかったみたいだった。人運びで忙しいのでそれは仕方ない。
「彼はカジート。潤奈の故郷リフドーの死の世界レング・ザ・ダイの使者です。」
「おぉっ、彼がかい?へぇっ、もうリフドーの死の国と手を組む事ができたのか。やるね、道人君たち!」
魔月のフクロウ人形はそう言うと嬉しそうにぴょんぴょん跳ね始めた。
「カジート君だったね?私はこの傀魔怪堕の管理者である魔月京師だ。よろしくね。」
「えっと、管理者って事は…?」
「うん、カジートで言うとダイデュードさんと同じくらいの立場の人だね。」
「おっと、それなら失礼はできないな…!後でマリグアに何と言われるか…!」
カジートは慌てて自分の身を整え、魔月の前にしゃがんだ。
「改めて自己紹介を…。俺はレング・ザ・ダイの戦士カジート。道人たち主たちの剣となった。よろしく頼んます。」
「うん、よろしく!いやぁっ、道人君たちはちょっと見ない間にパワーアップしちゃうもんだから見てて飽きないなぁ~っ!いきなり傀魔怪堕まで来られるようになっちゃうなんてびっくりだよ…!」
魔月のフクロウ人形は興奮しながらカジートと互いに握手をした。
「それで道人君、私に何か用があって来たんだろう?」
「はい、実は…。」
道人は後一週間後にヴァエンペラが地球にやって来る事を魔月や姫、キャプテン・雷牙に話した。
「後一週間ねぇっ…。やれやれ、ヴァエンペラの御大将のせっかちぶりにも困るもんだな。」
キャプテン・雷牙はやれやれと両手を横に出して呆れて見せた。
「なるほど、その事を私たちに教えに来てくれたのと、このまま水晶化した人たちを地上世界に返していいものか…というのを相談しに来てくれた訳か。」
「はい、そうです。」
「なかなかきゃるべんの宇宙船が来ないと思ったらそういう事じゃったか。道人よ、向こうにでゅらはん・しっぷが見えるであろう?」
姫はそう言うと遠くにあるデュラハン・シップを右手で指差して来た。
「もう二百人近くの人は水晶化を解く事ができたのじゃ。」
「二百人も?それはすごいや。」
「うむ、それで首無し兵士たちの姿を見たら怖がるであろうから、ぱーくのすたっふたちがしっぷに誘導してくれておる。」
「鎖縛丸たちががんばってくれてね。水晶化を解く装置を何とか形にする事ができたんだ。」
魔月のフクロウ人形はそう言うと悪極必帝苦悶城の修理作業をしている鎖縛丸たちの方を見た。
「おぉっ、道人殿たちではないか!お~い!」
作業中の鎖縛丸たちが道人たちがやって来ている事に気づいて手を振って来た。周りの首無し鎧武者たちも真似をして手を振って来たので道人とカジートもつい手を振り返した。
「しかし、そうか…。ヴァエンペラが来るとなると水晶化を解いた者たちをこのまま地上世界に返しても…という話だね。かと言って、この傀魔怪堕も地球にある場所の一つだ。地上世界が危険になったらここにいても十分に危ない。」
「はい、俺たちの方でも傀魔怪堕をシェルター代わりにするというのは難しいものがあると話題に出ました。ヴァエンペラはこの場所も知っているから、と…。」
「ふむ、我は現代の事はあまり詳しくはないが…道人たちの世界にも暮らしというものがある。一週間も人がいなかったら大変な事になるのじゃろう?」
「うん、だから地上世界への帰還作業を中断するというのも難しいんだよね…。」
道人と姫は二人で唸り、腕を組んで良い方法はないかと手をこまねいていた。
「道人君たちは一週間以内にガイアフレーム様を復活させようと思っているんだよね?なら、復活したガイアフレーム様と話をするのもありかもしれないね。」
「ガイアフレームと…。」
「いや、まぁ。ガイアフレーム様が無事に復活できたらという結果ありきの話ではあるのだけどね。よし、水晶化を解いた人たちの帰還作業は続けるけど、悪極必帝苦悶城の修理作業は一時中断だな。ヴァエンペラがやって来るんだったら直しても意味ないし、そっちが優先だ。おーい、鎖縛丸!」
魔月のフクロウ人形は遠くで作業をしている鎖縛丸を呼んだ。
鎖縛丸は作業を中断し、道人たちの元に駆けて来た。
「うむ。何用だ、魔月よ?」
「鎖縛丸、城の修復作業は一旦中断する事にした。それで鎖縛丸、君は何人かの手の空いた首無し鎧武者たちを連れて道人君たちについて行ってくれないか?」
「魔月さん?」
道人は魔月のフクロウ人形がやろうとしている事が気になってつい名前を呼んだ。
「何、道人君たちは今は人出が足りないんだろう?なら、こちらの修復作業する必要がなくなった首無し鎧武者たちを応援に寄越そうかと思ってね。頭を使う作業は難しいだろうけど、簡単な力仕事くらいならできるはずだよ。それで鎖縛丸、地上世界の指揮は君に任せたい。」
「よし、そういう事ならば任された!」
鎖縛丸は自分の胸の顔を右手でぽんと軽く叩いて見せた。
「道人君たちの世界の暮らしのために水晶化を解いた人たちの帰還作業はこのまま続けようと思う。首無し鎧武者たちはたった一日くらいで世界中の人たちをここに攫う事ができたんだ。その首無し鎧武者たちを何人か地上世界にいさせられたら…。」
「なるほど!仮に地上世界の人たちを傀魔怪堕に避難させようという流れになった際、首無し鎧武者たちがいればまた地上世界の者たちをここに連れて来る事も可能という訳か!」
姫は魔月の言っている事を理解して左平手の上に右拳をぽんと乗せた。
「そういう事だね。まぁ、さっき道人君も言ってたけど、傀魔怪堕をシェルター代わりにしてもあまり意味はないかもしれない。けれども、今はヴァエンペラがやって来た際に、いざと言う時に色んな選択肢を取れるような配置をしておくのも大事だと私は思うんだ。他に代案が思いついたらまたその時に話をしよう。」
「なるほど、わかりました。けれど、俺の一存じゃ決められないですし…。今から一回戻って、司令たちに今の魔月さんの考えを聞いてもらいます。それからまたここに戻って来ましょう。」
「こうなって来ると便利じゃの、亜空間移動能力とやらは…。」
道人はまたオリハルコンの鎧を身に纏い、カジートブレードで作った亜空間の裂け目を通じてデュラハン・パークの会社エリアの司令室近くに戻って来た。
「いきなり司令たちの前に現れたら心臓に悪いもんな…。」
道人は気を遣って司令室にいきなり現れるのはやめといた。制服姿に戻り、フリーパスとパスワードを使って入室した。
司令は椅子に座ってキーボードを叩いている。
「司令、今戻りました。」
「み、道人君か。相変わらず戻って来るのが早いな…。」
道人は司令に魔月の考えた案を伝えた。
「なるほどな、わかった。こちらとしても今は猫の手でも借りたいくらいだ。今は他に良い案が思いつきそうもない…。しかし、色んな状況に対応できるようにしておく、という姿勢は大事だと私も思う。了承しよう。」
「よし、それじゃあ…。」
「おっと、道人の方の主は休んでな。もう場所は記憶したからよ、魔月殿への了承報告くらいだったら俺だけでもできるさ。」
「そう?あ、でもさ。鎖縛丸たちをどこに出現させるか指定しないといけないし…。俺も行くよ。」
「あ、そっか。よし、じゃあまた一緒に行くか!」
「うん!」
道人とカジートは指令室から退室し、またビルの外へと走った。




