304章Side:潤奈 置き去りにした戦い 目覚めよ、新たなくの一
潤奈は道人たちとは別行動を取り、モノレールで開発エリアまでやって来た。駅を出た後、急いで厳重なチェックを受けて式地博士たちがいる研究室まで急いだ。
「…博士!」
「おぉっ、潤奈君!来てくれたか。」
「…博士、フォンフェルは?」
式地博士は潤奈にそう聞かれるとガラスの向こうに見える新型フォンフェルに目を向け、潤奈も新型フォンフェルのボディを見た。
昨日見た新型フォンフェルのボディは内部フレームだけだったが、もう新しい装甲が取り付けられており、フォンフェルらしい黒の鎧が身に纏われていた。
「安心せい、もうほとんど完成しておるわい。」
「私が知恵を貸したのです。かなりの仕上がりになっているはずですよ?」
マーシャルと他の博士たちも潤奈に近寄って来た。
「刀にもさすがにオリハルコンとまでは行きませんが、特別な頑丈な金属を使いましたから。ちょっとやそっとで折れたりはしないでしょう。」
「アディション・デュラハンたちから得られたデータのおかげでエンチャント・アクアジェネレーターのデータは十分じゃ。フレキシブルに稼働する水噴射によるジェットノズルも足裏などに搭載されておるからそこも以前よりも高機動性が得られるはずじゃ。まだ試した訳ではないが、理論上はエンチャント・アクアジェネレーターとデュラハン・ハートとのツインドライブは問題なく稼働できるはずじゃ。」
マーシャルと式地博士は新たなフォンフェルの特徴について話してくれた。
「…とまぁ、良い所を挙げるとそんな感じですね。次は悪い事です。さて、よろしいですかな?」
横島博士が残念そうに潤奈に話し掛けて来た。
「…はい、これでもまだ未完成だとは事前に司令たちから聞いていましたから…。一体何が問題なんですか?」
「それが…近寄れなくなったんですよ、新型フォンフェルに。」
「…近寄れない?」
マーシャルの言葉を聞いて潤奈は不思議がった。
「フレームを装着し終わった後に急に新型フォンフェルから急に紫のオーラが集まって来ましてね…。」
「我らも緊急退避をしてここにいる訳です。今は静まっていますが…。」
甲博士と矢張博士がそう説明すると恐る恐る新型フォンフェルの方に目を向けた。
「まるで竜のような形をしたオーラでした…。怖かった…。」
松島はそう言うと襲われた時の事を思い出したのか両手で持った資料を抱えて怯えて見せた。
「…竜…。前世で竜人だったフォンフェルと何か関係があるのかな…?」
潤奈はそう言うと右手を顎に当てて思考し始める。
「…ううん、今は考えている時じゃない…!今も道人たちが公園で謎のデュラハンと戦ってるんだから…!」
潤奈は道人たちの事を想うと闘志が湧き、ポケットからフォンフェルのデュラハン・ハートを取り出して見た。
「…私、中に入って見ます!フォンフェルのパートナーの私なら、襲われる事なく近寄れてデュラハン・ハートを装着できるかもしれないから…!」
「危険じゃが、今は時間が惜しい…!気を付けて中に入るんじゃぞ、潤奈君…!」
「姉さん、私も…。」
「…大丈夫、私に任せて?ね?」
潤奈とマーシャルはしばらく見つめ合った。
「…やれやれ、姉さんは普段は大人しいですが…一度こうだ、と決めたらもう止まりませんからね…。危なくなったら、私のワープで無理にでも退避させますからね?いいですね?」
潤奈はマーシャルに強く頷くと新型フォンフェルが配置されている部屋の扉の前に立った。
「…もしかしたら、あの鎧はこの時のために…?」
潤奈はデバイスを手に取って見た後、眉を強めてデバイスを自分の胸に当てた。
「…シャドースライド!」
潤奈がそう叫ぶと一瞬で鎧姿となり、マーシャルたちはそれを見て驚いた。
潤奈は扉を開けて部屋に入り、すぐに扉を閉じたと同時に新型フォンフェルから二頭の紫のオーラでできた竜が襲い掛かって来た。
「…こんなオーラ、私とフォンフェルとの強い繋がりの妨げにもならない!」
潤奈はそう言うと羽を広げて前に跳び、あっという間に二頭のオーラドラゴンを追い越した。
「…えいっ!」
潤奈は新型フォンフェルの近くに置いてある刀を手に取り、自身が持つ槍も合わせて二刀流となって二頭のオーラドラゴンを斬り裂いて霧散させた。
「…フォンフェル、待ってて…!」
潤奈はすぐに新型フォンフェルの方を振り向いた。また新たなオーラが出て竜の形になろうとしている。
潤奈はそれが形作られる前に新型フォンフェルの前に立った。
「行くぞ、潤奈君!」
式地博士がそう言うとリモコンのスイッチを押し、新型フォンフェルの胸の顔部分が開閉された。
内部から一気に紫のオーラが溢れ出す。
「…うっ…!?」
潤奈は咄嗟に両腕を交差して制服バリアと鎧の防御力で向かって来る紫のオーラを防いだ。
「姉さん!」
「…マー、シャル…。」
マーシャルの心配する声が聞こえた後、潤奈の視界は全て紫色になった。足場に立っている感覚もなくなり、宙に浮いているような感じになった。
「…私、一人…。」
潤奈がそう言うとヴィーヴィルデバイスが飛んできて潤奈の右肩に乗り、仮面の右頬を優しく擦って来た。
「…じゃないね…。そうだね、私はもう一人なんかじゃない…。もう、リフドーから逃げるしかなかった弱い私じゃないから…。」
潤奈はそう言うと右肩に乗ったヴィーヴィルデバイスの頭を優しく左手で撫でてあげた。
「ガァーッ…!ガァッ…!」
「…!? フォンフェル?」
潤奈の前に目を赤く光らせたボロボロのフォンフェルが息を切らせて立っていた。
「マモル…!コワス…!マモルタメニコワス…!トワマリー、ジュンナ…!」
「…違う、あれはフォンフェルだけどフォンフェルじゃない…!私のフォンフェルのハートは間違いなくここにあるから…!」
潤奈は右手に持ったフォンフェルのデュラハン・ハートを強く握った。
そうするとデュラハン・ハートが光り出し、潤奈の脳内に情報が流れ込んで来た。
「…あれは心を失ったフォンフェルの残留思念のようなもの…。心なき身体に残ったのは守りたい大事な者たちへの切なる思いと、そのために敵をただ破壊し尽くすという二つの純粋な行動…。そうか、身体の方はまだ傀魔階堕との戦いが終わってないと思ったままだったんだね…。」
フォンフェルは傀魔階堕での戦いで惡極必帝苦悶城や鎖縛丸、超晴王たちから潤奈たちを守るために戦ってくれた。
その際にデュラハン・ハートとボディは離れ離れになり、ボディの方はまだその時の戦いが終わっていないと判断してしまっているようだ、と潤奈は理解した。
「…大丈夫、もう戦いは終わったんだよ?終わったと言っても、殲滅した訳じゃなくて…傀魔階堕とも和解する形で終わったの…。ううん、終わったんじゃないね。続いたんだ。これからも続いて行くの。明るい未来にきっと…。」
「ガァッ!」
フォンフェルのボディは潤奈に向かって大量の紫のオーラを浴びせて来た。
潤奈は制服バリアと鎧の防御力で向かって来た紫のオーラを弾き、全く動じなかった。
「…悲しい過去は消える事なく、残り続けるもの…。けれども、私とフォンフェルとヴィーヴィル…みんなのこれからはそれすらも上書きしてみせる…!決して消える事はない残酷な過去でも、それを受け止められるだけの暖かな想いは、私たちにはまだ形作れるはずだから…!」
潤奈はそう決心すると右手に持ったデュラハン・ハートが温かな紫色に輝きだし、周りの邪悪な紫色の風景が一斉に潤奈が今まで地球で経験した思い出の数々の場面に上書きされた。
「…新たな身体に私たちの今までを内包してフォンフェル!」
『はい、潤奈!』
潤奈の目の前にいる暴走したフォンフェルに潤奈の思い出が次々と内包されていく。
風景は元に戻り、潤奈は新型フォンフェルの前に立っていた。
「また一緒に私たちと歩もう、フォンフェル!」
潤奈は新型フォンフェルの胸にデュラハン・ハートを装着した。
開かれた新型フォンフェルの胸の顔は閉じ、輝く瞳が宿った。
『オーバーディサイド、適合』。
「…?」
その時、フォンフェルのデバイスから今まで聞いた事がない音声が鳴り響いた。
「ふっ、潤奈…。どうやら寝坊してしまったようですね…。」
「…うん、本当にね…!」
潤奈は鎧が解除され、仮面の下から温かな笑みが見えた。
新型フォンフェルの起動にガラスの向こうの式地博士たちも一斉に喜んだ。
「よし、成功じゃぁ~っ…!」
「やりましたね、姉さん…!」
式地博士とマーシャルは互いに向かい合ってハイタッチした。
「潤奈、私にはわかる…!この身体には私とあなたのディサイドが満ち溢れている…!もう決して動力部の欠陥…発作は起こり得ないと確信できる…!」
フォンフェルはそう言うと自分の両手を見た後に握り拳を作った。
「…フォンフェル、なら…!」
「はい、デュラハン・ハートだけの状態でも状況は理解できています…!急ぎましょう、潤奈!道人やトワマリー、私たちの守るべき愛する者たちの元へ!」
「…うん!」
フォンフェルは潤奈をお姫様抱っこし、瞬時に研究室を出た。
フォンフェルの足裏や背中などから細かな水の噴射がされ、更なる高速移動を可能にした。
「すごい、これがエンチャント・アクアジェネレーターとデュラハン・ハートによるツインドライブか…!力が漲ります…!さぁ!いざ、皆が待つ戦地へ!」




