301章 破かれた思い出の絵本
道人たちは昼食を食べる前に新型フォンフェルの開発具合を見に開発エリアに向かうため、潤奈に付き添って会社エリアの外に出た。
「それでは道人よ、しばしの別れじゃ…。元気での…。」
伝書首無し鎧武者の隣で姫が右手に持った布で涙を拭いていた。
姫はデュラハン・シップがある実験エリアに行かないといけないからだ。開発エリアにいるキャプテン・雷牙ともそこで合流する。
「ひ、姫。そう悲しまないでよ…。そりゃ、全世界の人たちを地上世界に戻す作業は途方もなくて、会える機会は減るだろうけど…。そんな大仕事をやろうとしている姫は立派だよ。そうだ、無事に帰還作業を終えたらさ、ご褒美あげるからさ。ね?」
「何っ!?それは誠かっ!?」
姫は道人のご褒美発言を聞いたら途端に元気になった。
「まっこと、まっこと…ってね!良かった、元気出たみたいだね…。それじゃあ、いってらっしゃい、姫。待ってるよ?」
「うむ!我もご褒美を楽しみにしておるぞ!」
姫は満面の笑みを浮かべて右手を大きく振って実験エリアに向かって行った。
道人たちも姫が見えなくなるまで手を振った。
「…で、道人。褒美って何をあげるつもりなのよ?」
愛歌がそう聞き、潤奈とユーラも強く頷いた。
「そりゃぁっ、もちろん…!」
「いえ、間違いなくグルーナさんが思っているものとは違います、絶対。ま、まだ考えてないよです…。な、なるべく節度ある褒美にしたいと思っております…。」
道人は何故か冷や汗を掻いて申し訳なさそうに愛歌たちに伝えた。
「と、とにかく開発エリアに行こう!ね、潤奈!」
「…うん、行こう!」
道人と潤奈がそう言うと急にデバイスが鳴り始めた。
道人はデバイスを右耳に近づけた。
「はい、道人です。」
「あ、道人君?まだ会社エリアにいますか?」
デバイスに通信をして来たのは虎城だった。
「いますけど…。どうかしたんですか?」
「それが、街の監視カメラがデュラハンらしき存在を捉えたんです。公園にいるのですが、見た事もないデュラハンでして。」
「えっ?公園に見た事のないデュラハンが…?」
道人の言葉を聞いた愛歌たちは一斉に道人の方を見た。
「まるでこちらを挑発しているような…。とにかく、昼食前に申し訳ないのですが、指令室に戻って来てもらいませんか?」
「わ、わかりました。すぐに戻ります。」
道人は虎城にそう答えるとデバイスの通話モードを解いてジークヴァルが映った場面に変えた。
「みんな、正体不明のデュラハンが現れたって。指令室に戻ろう!」
「姫さんはどうするんじゃ?呼び戻すか?」
大樹がそう言うと道人はさっき姫が去って行った方向を見た。
「一応、姫にデバイスで連絡しておくけど…。水晶化が解かれた人たちを地上世界に返すのも大事な作業だ。じゃないと、経済とかに影響が出ちゃうからね。」
道人はそう言うと指令室を目指しながらデバイスで姫に連絡した。
姫はもうモノレールに乗っていた。道人が説明をすると姫も了承してくれた。
姫に連絡をし終えた後、ちょうど指令室まで戻って来た。フリーパスとパスワードを入力して指令室の扉を開けた。
「おぉっ、道人君たち。すまないな、急に呼び戻してしまって。」
「いえ、大丈夫です。それで、見た事のないデュラハンと言うのは?」
「今、スクリーンに映っている。」
司令が指差した方向を道人たちは一斉に見た。確かに誰もいない公園にデュラハンらしき存在が静かに立っていた。
「ふーむ…。色は黄色…。私が見たところ、モチーフは狐と見た。」
グルーナが右手を顎に当てて画面に映っているデュラハンのデザインモチーフを判断した。
「狐のデュラハン…?デストロイ・デュラハンなのかな?」
「だとしたら、パートナーらしき存在が見当たらねぇが…。」
道人と深也は一緒に狐のデュラハンが映る画面からパートナーらしき存在がいないかどうかを確認した。
「…? あのデュラハンの足元にあるのは?」
「私も確認したのですが、ボロボロに破かれた本のようです。」
虎城がキーボードを操作し、スクリーンに映る狐のデュラハンの足元をアップして見やすくしてくれた。
「…? ボロボロの、本…?」
狐のデュラハンの足元に散らばった破かれた本のページを愛歌は気にして見ていた。
「コミカルな絵柄…。どうやら狐と狸の童話のような…。」
虎城が更に細かくスクリーンに映し、本の内容を教えてくれた。
「それって…?」
「…にゃろう…!」
怒りに満ちた声が近くから聞こえたので道人が急いで振り向くとその声の主は愛歌だった。愛歌は両手を振るわせて怒りを耐えているように見えた。
「愛歌…?やっぱり、あの絵本って…。」
「そう、あたしとお父さんの思い出の絵本…!」
以前、トワマリーとフォンフェルのビーストヘッドの試練を受けにフランスに行った際、愛歌と友也には思い出の絵本がある事を話してくれた事があった。
「でも、あたしが持っているのとは絵柄が違う…!」
「同じ内容の別の出版紙って事…? …愛歌、これは罠だ!」
「わかってる…!間違いない…!あれをやったのはハクヤ…!」
「それ二、ルアンソン!」
愛歌の怒りを我慢した声に続き、デバイス内からトワマリーも声を出した。
「なるほどな、一種の挑発…。愛歌を名指ししてるようなもんか…。」
「笑わせるよね…!大方、わざわざ無人の本屋にでも本を取りに行ったんだろうけど…!」
「愛歌…!」
深也がそう言うと愛歌は両拳を振るわせていた。ユーラが名前を呼んで背後から愛歌の両肩に手を置いて落ち着かせた。
「どの道、あのデュラハンが暴れ出さないように相手はしないといけないからさ…!挑発されたからには行かないとだけど…!」
「あ、愛歌…。でも…。」
「ハクヤはお父さんと関係しているんだもの…!トワマリーだってルアンソンと因縁がある…!これは挑発だし、罠かもしれない…!それでも、あたしは行かないと…!」
「俺だったら売られた喧嘩は買うけどな。俺は愛歌を支持するぜ。」
深也がそう言うと怒りに満ちていた愛歌は少し口を緩め、深也に頷いた。
「警察ものとかだと身内が絡んだ事件はその刑事は冷静さを失っているからと言って捜査から外されるんじゃがな。俺らが相手するヒューマン・デュラハンにそれは通じんしの。」
「むしろ、相手の心に訴えかけるチャンスさぁ。」
大樹とデバイス内のカサエルも愛歌が行く事に反対はしなかった。
「だけど、愛歌とトワマリーにだけ行かせる訳にはいかない…!いいね、愛歌?」
「わかってる、別にあたしとトワマリーだけで行こうなんて思ってないわよ?さ、メンバーを選出しましょう?」
愛歌は怒りで熱くなっているように思えたが、冷静だった。もうヒューマン・デュラハンが相手という事の心構えができているのだろう。
「奴は釣りでパークが狙いの可能性もある…。全員で行く訳にはいかないな。」
「俺がいくぞい!カサエルの力で愛歌ちゃんを守ってみせるぞい!」
最初に大樹が愛歌について行くと申し出た。
「俺も行くよ!俺も愛歌のお父さんの事を知ってるし、想いを伝えるなら役に立てるはずだ!」
「道人…。」
道人と大樹の言葉を聞いた愛歌の表情から怒りが収まっていくように見えた。
「私たちは大人数だからな。いざとなったらカジートの力で亜空間移動もできる。」
「おう!主たちに頼られてるぜ、俺!実にシアーナ!」
デバイス内のジークヴァルがそう言うとカジートも嬉しそうにしていた。
「よし、わかった。道人君と大樹君、愛歌君が公園に向かうメンバーとしよう。ハクヤは自分が死んだら元になった人物が死ぬのを活かして肉弾戦を仕掛けて来る相手だと言う。愛歌君の護衛役としてアディション・デュラハンのメンバーからフィールドトラッカーを選抜しよう。他は…。」
「…ま、待って下さい!」
司令が話している最中に潤奈が割って入った。
「…私も行きます!フォンフェルが、行きたがってるみたいだから…!」
潤奈が両手に持っているフォンフェルのデバイスが少し発光しているのを見せて来た。
「そうだよネ…。お姉ちゃンもルアンソンと因縁があるもんネ…。」
「よし!俺と愛歌と大樹が先に行くから、潤奈は早く開発エリアに行ってフォンフェルを起動して来るんだ!それから合流しよう!」
「…うん!」
「よし、決まりだな!頼んだぞ、道人君たち!」
司令がそう言うと道人と愛歌、大樹、潤奈は敬礼をした。
「みんな、あたしに付き合ってくれてありがとう…!じゃあ、行ってくるね!」
「おう!やるからには派手にやって来い!」
「いや、被害を抑えるんだから派手にやったら駄目じゃねぇかい?」
「そうよん、深也ん?」
深也に突っ込みを入れる真輝とグルーナを背にし、道人たちは指令室から走り去っていった。
道人から見て、怒りに満ちた表情をしていた愛歌の表情が仲間たちとの触れ合いで少し和らいだ気がした。




