297章Side:ハクヤ 痺れを切らすルアンソン
「全く、我らがリーダーはまだ戻らないか…。」
ハクヤはバドスン・アータスの宇宙要塞の窓ガラスから地球を眺めていた。どこにいるかはわからないが、ウェントとアレウリアスが地球にいる事は間違いないのでハクヤはそれを考えてただ眺めていた。
「大量のダガー・デュラハンたちを入手し、戦力も増強された…。ヴァエンペラ様も地球に向かっている…。決戦の時は近い…。それまでに覚醒とやらは間に合うのだろうな、ウェント…?」
ハクヤは地球を見ながら他のメンバーの現状を考える事にした。
ハクヤが先程見回りをしたところ、エイプリルは寝室でグレリースに膝枕をしてもらって眠っていた。
レイドルクはトレーニングルームで瞑想中。
ディスラプション・ダジーラクとデリート・ラクべスは相変わらず大広間でホルマリン漬けにされている。
ジェネラル・シユーザーは仮面の科学者Dレボリューションとダガー・デュラハンに関しての話をしていたようだった。
「やぁ、何だか暇そうだね、ハクヤ。」
ハクヤは聞き覚えのある声が聞こえたのですぐに後ろを振り向くといつの間にかルアンソンが立っていた。
「ルアンソンか…。何の用だ?」
「何、ミーの敬愛するヒューマン・デュラハン…パートナーと話でもしようかと思っただけさ…。」
ルアンソンはそう言うとハクヤの左に立って一緒に地球を見た。
「綺麗な青い星だなぁっ、ハクヤ…。」
「あぁ、そうだな…。」
ルアンソンはそう言うとガラスに右手を当て、ハクヤから見るとまるでルアンソンが地球に触れているように見えた。
「ミーはね、奇麗なものを見るとついついそれを汚したくなってしまう…。何でだろうね?ミーたちが地球を侵攻したら色を変えてやろうかな?赤とか茶とかにさ…。」
ルアンソンはそう言うとまるで地球をその手に掴むかのようにガラスに触れた右手で握り拳を作った。
「ハクヤ、ウェントとアレウリアスの事を考えてたのか?」
「まぁな…。」
「何だったら、ミーたちで捜しに行かないか?」
「何…?」
「ヴァエンペラ様はその内戻って来るから待てと仰っていたけど、やっぱり様子が気になるよなぁっ…?なぁっ…?」
ルアンソンは少し屈んでハクヤを下から覗き込むように見た。
「何だ、ルアンソン…?」
「ハクヤ、ミーたちはもうこれだけの戦力を有しているというのにジェネラル・シユーザー様は行動が慎重過ぎると思わないか?ぶっちゃけ、臆病だ。ヴァエンペラ様が地球に来るのを待つというのもなぁ~っ…?これだけの軍勢、俺だったらもうとっくに攻め込んでるなぁ~っ…?」
「ルアンソン…?」
ハクヤはまだルアンソンと付き合いは長くない。しかし、御頭街の博物館近くでトワマリーと愛歌たちと戦ってから何だか雰囲気が変わった気がハクヤにはした。
「ルアンソン、地球に行きたいのか?何か用でもあるのか…?」
「トワマリー…。トワマリー、トワマリー…あぁっ、トワマリィーッ…!へへゃぁっ…何て甘美な響きなのだろう…?ミーの胸の顔がときめいてときめいて高まり続けるようだよ…!まるで愛と憎しみが同時に感じられるような不思議な感覚…!あのピンクを私の手で汚してやりたいなぁっ…!」
「ル、ルアンソン…?」
明らかにルアンソンの様子はおかしいのでハクヤはつい冷や汗を掻いた。
「…後、何かもう一人いた気がするんだよなぁ~っ…。そいつはすっごく憎たらしい奴で…。邪魔に感じるんだよなぁっ…。そいつの事も考えるとトワマリーと違って別のベクトルでミーが狂わされそうだ…!」
「ルアンソン、さっきから何の話をしている…?」
ハクヤはそう言うと一つ心当たりが思いついた。
「ルアンソン、まさかお前…以前の自分を思い出しそうなのか…?」
ハクヤはカウンター・ディサイド・デュラハンには元となった人物がいるという事をウェントから聞かされている。その時の記憶をルアンソンは思い出しそうになっているのかもしれないとハクヤは推測した。
「さぁね…。ミーなのか俺なのか、何だかわからない感覚…。それがとてつもなく気持ち悪くてねぇっ…。」
ルアンソンはそう言うと自分の胸の顔に右手を当てて覆った。
「なぁ、ハクヤ。いいだろう?行こうよ、地球。ウェントとアレウリアス、エイプリルとグレリースだって勝手に行動しただろう?だったら、俺たちだって勝手に行動してもいいじゃないか?なぁ、相棒?」
ルアンソンはそう言うとハクヤの背後に手を回し、ハクヤの右肩に右手を置いた。
「これはチャンスだ…。手柄を上げればウェントじゃなくてお前がリーダーになれるかもしれないんだぜ?俺は自由奔放なお気楽ウェントよりも、頭お花畑のエイプリルよりも、慎重で冷静なハクヤの方がリーダーに向いていると思ってるよ…?」
「ルアンソン…。」
ハクヤ自身はヒューマン・デュラハンの創造主であるジェネラルシユーザーの命令に背きたくはなかったが、ルアンソンは今にも爆発しそうな危険な状態だとハクヤは察した。
このまま宇宙要塞にいたら逆にまずいかもしれないともハクヤは思った。
「愛しの愛歌ちゃんとも決別できるチャンスだろぉっ?なぁっ?」
「…わかった、そこまで言うなら構わん…。地球に行くぞ、ルアンソン。」
「そう来なくっちゃ、我がパートナー!ミーは嬉しいよ、ハクヤ!」
ルアンソンはハクヤから離れると両手を合わせて喜んだ。
「だが、ウェントとアレウリアスの居場所は私たちにはわからない…。一体地球のどこに向かう気だ?」
「ウェントとアレウリアスの捜索はついでさ、ついで。もうわかってるんだろう、ハクヤ?俺はトワマリー、お前は愛歌…。一緒にあの二人を赤く染め上げてやろうぜ…。今日はめでたい決別の日だ!」
「…それでお前が落ち着くのなら、付き合うとしよう…。」
ヒューマン・デュラハンやカウンター・ディサイド・デュラハンはディサイド・デュラハンとそのパートナーへの嫌がらせのために作られた存在。
相手の情緒を狂わせるのが本懐であるが、逆にヒューマン・デュラハン側がメンタルを狂わされる事もあるのはハクヤも承知している。
だが、ヒューマン・デュラハンが死んだら元となった人物も死ぬという究極の人質手段がこちらにはある。
ヒューマン・デュラハンやカウンター・ディサイド・デュラハンは植え付けられた憎悪で戦う事が主だ。しかし、大きな侵略作戦の前にルアンソンのこの異常な程のトワマリーへの拘りはバドスン・アータスの作戦の邪魔になるかもしれない。
ハクヤは自分だけでも愛歌への因縁を片付け、憎悪で戦うウェントとエイプリルを御すのも悪くはないと考え始めた。
「しかし、どうする?本拠地のデュラハン・パークに行くにしても私とお前だけでは圧倒的に数で不利過ぎるぞ。」
「頭を使おうか、ハクヤちゃん。なぁに、ミーにとっておきの考えがある…。そのためにはお父さんの要素を借りないとなぁっ?」
ハクヤはルアンソンがお父さんと呼んだのに対し、眉をひそめた。
「そう不愉快そうな顔するなよ、ハクヤ!よし、デストロイ・デュラハンを一体連れて行こう!それから小型飛行機で地球へゴーさ!」
ご機嫌なルアンソンが先に歩くと、ハクヤはルアンソンについて行き、静かに格納庫へと向かった。




