296章 帰って来られた自宅
道人たちを乗せたトラックは夜道を走っていた。
避難民たちが解放されたとは言え、それでもまだ街中は夜なのも加わって何だか寂しく道人には見えた。
それでもトラック内の道人たちは何だか久々に帰れる気がした自宅に胸躍らせて道中は話題が弾んだ。
「よし、まずは道人君と愛歌ちゃんの家に到着だ!」
整備士のお兄さんがそう言うとトラックは道人の家の前に止まった。
「おぉっ、すごいの…。隣に幼馴染の家があるとか俺はゲームとかくらいでしか見た事ないかもしれんぞい…。」
大樹は道人と愛歌の家を見て感想を述べた。道人と愛歌は大樹の家には遊びに行った事があったが、大樹はまだ来た事がなかった。
「何だったら二人共、うちに寄ってく?」
「せっかくのお誘いじゃが、遠慮しておくぞい。爺ちゃんの世話をせんといかんしの。」
「俺も…親父と話があるからな…。」
道人は少し残念に思いながらも何だか二人共嬉しそうだったので気にせず、愛歌とユーラ、ソルワデスとカジートと共にトラックから降りた。
「じゃあ、明日七時くらいに迎えに来てあげよう。」
「えっ?いいんですか?」
道人はカジートの亜空間の力で移動できるのだが、あまり愛歌の肉体に負担を掛けたくないのでトラックで迎えに来てくれるのならそれは喜ばしい事だった。
「おう、遠慮しなくていいぜ?」
「ありがとう、整備士のお兄さん!」
整備士のお兄さんは道人の感謝の言葉に対して右手でサムズアップしてくれた。
道人と愛歌は深也と大樹に挨拶をした後、走り去っていくトラックが見えなくなるまで立っていた。
「さてさて、それでは…。」
「はい、ユーラはあたしの家ね。」
どさくさに紛れて道人について行こうとするユーラの服を掴んだ後、愛歌はユーラを引き摺って自宅に向かう。
「道人ぉ~っ…!」
「ま、また明日ね、ユーラ。愛歌も。」
「うん!お休み、道人!」
道人は愛歌とユーラが家に入るまで手を振っていた。
「へぇっ、ここが道人の方の主の家か。記憶記憶っと…。」
カジートがついて来たのでこれで今度からカジートは道人の家に亜空間を経由して移動する事ができるようになった。
「よし、今日も色々あり過ぎて疲れたなぁ~っ…!ドイツまで行ったし…。」
道人はそう言うとその場で身体を上に思いっきり伸ばした。
「あぁ、早く母上殿を安心させてあげよう。」
「うん、そうだね。」
デバイス越しからジークヴァルが話し掛けて来た。現在の時刻は八時過ぎ。もう三時間経ったのでオリハルコン化は解け、ジークヴァルは元の姿に戻っていた。
道人はソルワデスとカジートと一緒に玄関前まで歩く。
ソルワデスはこのままでは家の中に入れないので背中のウイングユニットと両肩の盾を外した。
道人がインターホンを鳴らし、しばらくすると秋子がドアを開けて姿を見せた。
「あら、お帰り、道人。あらあら、ソルワデスちゃんも。」
「どうも…。」
ソルワデスは秋子に対して軽くお辞儀をした。
「あらあらあら、何だか新しい鎧の人も?」
「俺はカジートだ。今日から道人の方の主の剣になったんだ。よろしくな、道人の方の主の母上さん。」
「何だかよくわからないけど…まぁ、上がって上がって。」
秋子は驚きはするものの、超常的な存在をあまり気にしなくなっていた。
道人は家の中に入るとあまり家の中は散らかってなかった。窓ガラスが割れているのを段ボールで塞いでいるくらいで後は片付いている。
主婦の片付けに関する底力を道人は見た気がした。
「ご飯はもう食べて来たのよね?なら、お風呂に入って今日はもう寝なさい?」
「うん、そうするよ。」
道人はそう言うと階段を上がり、ソルワデスとカジートを自室に連れて来た。
「ここが道人の方の主の自室か。何だか、まさにTHE道人の方の主の場所って感じだな。」
「何だ、その褒め方は…?」
カジートはまだ日本語に不慣れなのか妙な褒め方をして来た。
「カジート、我々はこの部屋にいるには身体が大きい。そこの窓から外に出る必要がある。」
「いや、ソルワデス。俺は今から風呂に入るからまだここにいていいよ?」
カジートを連れて窓から外に出ようとするソルワデスを道人は止めた。
「ジークヴァルのデバイスを机に置いておくからさ、みんなで話でもしててよ。」
「わかった。」「わかったぜ、道人の方の主!」
「じゃあ、俺も漫画読んでるぜ。確か続きは14巻からだったな…。」
ヤジリウスが勝手に実体化して本棚から漫画を取った後、ベッドに寝転がった。
「俺、姿が変わったからか何だか寝転がりづらいな…。」
確かにヤジリウスが新たな姿に変ってからは道人の家に来たのは初めてだった。
「両肩を稼働させればいいのではないか?ほら。」
ソルワデスはヤジリウスの刀が納められた両肩を掴んで稼働させた。
「さすがソル譲だ、もう慣れてるな。」
「四人共、大人しくしててね…。」
道人はそう言うと着替えをタンスから取り出して風呂場に向かった。
「ふぅっ、何だか落ち着くなぁ~っ…!」
道人は肩まで湯に浸かってリラックスした。つい寝そうになりそうだったのでそこは気を付けながらくつろいでいた。
しばらくすると風呂から上がって髪を乾かし、歯を磨いてリビングまでやって来た。
「そう言えば、母さん。冷蔵庫の中身は大丈夫?」
「安心して、まだ大丈夫よ。」
「そっか。まだ人がいなくて買い物できる状態じゃないからね…。スーパーのお店は辰治さんたちが万引き防止で監視してるらしくてさ、シャッターを下ろしたりしてるみたいなんだ。それで司令たちが市民たちに食料の運搬を考えてくれてるみたい。」
「わかったわ。スーパーとか人がいないと鮮度チェックが大変そうね…。」
「うん、フードロスにも気を付けないといけないからね…。」
家に帰って来てもやはりまだ傀魔階堕の爪痕は大きく、しばらく日常会話はできなさそうだ、と道人は会話しながら思った。
「母さんも避難所だと落ち着かなかったでしょ?家の片付けもしてるしさ。今日はもう寝た方がいいよ。」
「そうね、そうさせてもらうわ。それじゃあ、お休み、道人。」
「うん、お休み。」
道人は秋子にそう言うと階段を上がり、自室に入った。ソルワデスがデバイスに映るジークヴァルと会話をしていた。
「あ、あれ?カジートとヤジリウスは?」
「外にいる。」
「えぇ?漫画読んでたんじゃないの?」
道人が窓ガラスを開けて外を見ると屋根にヤジリウスとカジートが立っていた。
「しゃぁっ!」
ヤジリウスが抜刀し、次元の刃を飛ばして宙に次元の裂け目を作った。
「どうだ、カジート?」
「どれどれ…。」
カジートはヤジリウスが作り出した次元の裂け目を観察し始めた。
「なるほどな、俺のとは全然違うな…。何て言うか、ヤジリウスの方の主の次元の刃は攻撃的な刃だな。」
「そうなのか?」
「うちの屋根の上で何物騒な事やってるの…?」
道人は静かに突っ込みを入れた。
「いや、ヤジリウスの方の主がよ、自分の次元の刃を俺に見て欲しいって言うもんだから。」
「…まぁ、ヤジリウスもパワーアップして次元の刃を使いこなせるようになったし、今はご近所さんもあまりいないからいいけどさ…。…いや、いいのか?非日常過ぎて突っ込み方がわからない…。」
道人は自分の発した言葉に自分で突っ込みを入れた。
「なぁ、道人。俺の次元の刃でも移動ってできてたよな?」
「うん、まぁ…。」
「傀魔階堕で極亞と戦った際も俺の刃であいつをどっかに跳ばしたしよ。」
道人は幽体離脱で傀魔階堕に行った際もヤジリウスの次元の刃でできた裂け目を通って元の世界に戻って来られた。
「だが、さっきも言ったがヤジリウスの方の主の刃は攻撃的な次元の刃だな。俺のは攻撃能力がない移動手段だからちょっと羨ましいぜ。まぁ、使い方次第で疑似的に攻撃には使えるけどよ。」
「俺もカジートみたいに居場所をイメージしてよ、それで長距離移動とかはできないのか?」
「うーん、それは難しそうだな…。この次元の刃は相手の身体を抉るのが主で、移動できるのはおまけって感じだ。繋がる行き場所はランダムで自分で選択できねぇだろうな。」
「そうか…。」
「でもよ、ヤジリウスの方の主がカジートブレードの俺を使えば結構良い感じに亜空間移動が使えるんじゃねぇかな?」
「そ、そうか?よし、ちょっと持ってみようか…!」
「よし、早速実体剣してみるか!」
「ふ、二人共、あまり家の近くで物騒な事しないでね…。物を壊したら駄目だからね?」
「よし、近くに公園がある。そこで実体剣させてくれ。」
「わかったぜ。」
そう言うとヤジリウスとカジートは前にアレウリアスと初めて戦った時に行った公園に向かった。
「まぁ、他のみんながカジートブレードを使いこなせるようになるのは大事なんだけどね…。」
道人はそう言うと椅子に座り、真輝や深也からもらったアドバイスが書かれたメールを確認した。
「道人、まだ寝ないのか?」
「うん、せっかく真輝さんや深也が俺のために書いてくれたメモだからね。寝る前に目を通しておきたいんだ。後は…。」
道人はリュックから真輝からもらったデュエル・デュラハンのカードBOX二箱を机の上に置いた。
「一対一の時にジークヴァルが素早くオリハルコン化できるカードを考えてみないとね。」
「よし、私も一緒に考えよう。自分の事だからな。」
「どれ、私も手伝おう。」
ソルワデスもジークヴァルの新たなヘッドカードを作るのを手伝ってくれる事になった。
「ありがとう、二人共。後、姫や真輝さん、ユーラのお守り人形の事も考えないと…。」
「ははっ、やる事がたくさんあるな。」
「うん。だね。」
道人はジークヴァルにそう返事をすると引き続き真輝の書いたメモに目を通し始めた。




