294章Side:ディアス④ ヴァエンペラの闘士たち
ディアスたちの前に思わぬ形で姿を見せたヴァエンペラ。しかし、会えたと言ってもその黒い炎は見るからに通信のための仮個体と言った感じだった。
「…ダジーラクよ、お前たちの発する強き我…。…このヴァエンペラの元にも届いておったぞ…。」
ディアスはヴァエンペラの声を改めて聞くと深く、怖気が走るような不気味な声をしていた。
これが神というものなのだろうか?とディアスは静かに思考した。
「…誇るがいい、お前たちを我が闘士に迎え入れようではないか…。」
「我が星の神ヴァエンペラよりそのような言葉を賜り、闘士にしてもらえるというのは光栄な事ではあるが…。」
「選抜理由をお聞かせ願えますか?」
ダジーラクが言おうとした質問を先にアルウスが聞いた。
「…うむ、実はこの星にもうお前たちのような高度な生命を宿らせたデュラハンを製造プラントで造る事が難しくなってしまったのだ…。」
今ヴァエンペラが話している事はさっきシユーザーも同じ事を話していた。
「…今現在では言葉も発せぬ下級デュラハンしか製造ができぬ有り様だ…。」
「おぉっ、我が神ヴァエンペラよ…!何と御労しや…!」
シユーザーの態度がヴァエンペラの言葉に挟むとかなり胡散臭いものにディアスには見えた。
周りを見るとダジーラクたちにもそう見えているようだ。
「そもそも神様は何でこの星でデュラハン同士を競わせていたんですか?」
「アルウスの言う通りです。その理由をお聞かせ願いたい。」
アルウスの質問にディアスも言葉を加えた。
アルウスの神にも物怖じしない度胸と探求心は頼りになる、とディアスは思った。
「…この星ネミケーは滅びに向かっている…。…しかし、資源を復活でき、デュラハンたちの製造を新たに進める事ができる物がある…。」
「その名を…『ラックシルベ』。」
シユーザーはそう言うとダジーラクたちを指差して来た。
「ラックシルベ…?」
ディアスはその名前に聞き覚えはなかった。ダジーラクたちもなさそうだった。
「他の星での呼び名は異なりますが、我らの星ではそう呼んでます。ラックシルベの製造方法は不安定でね。私の考えでは他者との共鳴や、感情の高まりによって生成される…と言うのが仮説でしょうか。」
「…この星でラックシルベを多く生成しようと試みたのが…。…どうやら、ネミケーではあまり生成できないようでな…。」
「ですが、他の惑星では生成できるのですよ。私の調べでは機械よりも肉感のある人種の方がラックシルベを生成しやすいようです。」
「…そこでわしは考えた…!…我が母星ネミケー存続するため…!…他の惑星をラックシルベの採掘星に変え、侵略してでもして見せると…!」
「なっ…!?」
他の惑星を滅ぼしてでもネミケーを守ると言い出したヴァエンペラに対し、ディアスたちは驚きを隠せなかった。
「それでラックシルベがネミケーのデュラハンたちの感情の高ぶりでも生成できるかもしれないと試すと同時に、他の惑星を侵略できる程の強者デュラハンの選別もしてもいたのです!それが、あなたたちだ!」
シユーザーはまた右手でダジーラクを指差した。
「強者のデュラハンたち…?星を滅ぼす大罪を背負いし者たちの間違いではないのか?」
「それじゃ、まるでジブンが手を汚さないための代わりが必要みたいじゃないか!」
ディアスとアルウスは他の惑星を侵略する事に相手が神であろうと強く異を唱えた。
「我々はそうまでしないと生き残れないところまで来ているのですよ…!さっきあなたたちも見たはずです!爆発する我が同胞たちを…!あなた方がヴァエンペラの闘士となってくれれば、もう闘士を選別する理由はなくなる!そうすれば、ボーナスパーツ扱いの非力なデュラハンたちを造る必要はなくなるのですよ…!」
シユーザーは両手を横に広げてダジーラクたちに訴え掛けて来た。
「私はこう見えて科学者でね。ラックシルベさえあれば、非力なデュラハンたちを改造し、ボーナスパーツ扱いのデュラハンじゃ無くす事はできます!さぁ、ご決断を…!」
ディアスたちはシユーザーの言葉を聞いてしばらく沈黙した。
「…安心しろ、ラックシルベとは万能なアイテムという訳ではない…。…それは諸刃の剣…。…扱う者が誤った扱い…『ディサイド』をしてしまえば、どの道その惑星は滅びに向かう…。」
「ディサイド…?」
ディアスたちはまた聞いた事のない言葉を聞いたので困惑した。
「ヴァエンペラ様が最も恐れている、または興味を抱いている現象です。しかし、うまく使いこなす事ができれば問題はない。我らはまず、その星の文明を観察します。ラックシルベを使いこなせるかどうかをね。それを確かめてから採掘星に変えるかどうかを判断する。何も惑星全てを人なき採掘星に変えてやろうと言う訳ではありませんよ。」
「…観察はじっくりと、尚且つ迅速にしなければならないがな…。…だが、安心するといい…。…この星に生きるお前たちは知らないだろうが、他の惑星の生き物は有害な生き物がかなり多い…。…自らの星の自然を汚し、自分のためなら他者を平然と蹴り落とす…。…そして、足を引っ張り合う…。…自身の心に邪が満ちた時、自らが争いの種をまき散らしもする…。」
「…その邪なる者たちの見極めが、わしらにはできると?」
ダジーラクはそう言うとヴァエンペラとシユーザーをじっと見た。
「あなた方にはそういった事ができる『頭』を扱える素質があるのですよ。」
「…お前たちがこの星を離れている間、ここにいる者たちの面倒を見る事も保証しよう…。…神の名ヴァエンペラに誓ってな…!」
「…少し時間をくれ。他の者たちにも意見を聞きたい。」
「お早めに…。明日また来ましょう。」
シユーザーがそう言うとヴァエンペラの炎が消え、この場から立ち去った。
ディアスたちはアジトに戻り、とりあえずダーバラたちの帰りを待った。
帰って来たダーバラたちにダジーラクはヴァエンペラとシユーザーの事を説明する事にし、みんなで壁に寄っ掛かって話し合った。
「ふーん、あたいたちの星がねぇっ…。」
「おいおい、何てこったい…。」
ダーバラとライガは説明を聞いて落ち込んでいた。
「おい、爺さん。あんた、他の惑星から来たんだよな?他の惑星ってそんなおっかない感じなのか?」
「さてな…。わしはその星がどういう星なのか判断できる程長居はしておらんのよ。何せ、拳と蹴りで夢中でな。」
「そうかよ。」
レイドルクの方を見て質問したライガだったが、ダジーラクに視線を戻した。
「わしは…ヴァエンペラの闘士になってもいいと思っている。」
「ダジーラク…?」
ディアスたちは一斉にダジーラクを見た。
「神の目にも入る程の大きな存在になるというわしの目的は思わぬ形で叶った…。だが、まだ叶えられていない目的がわしにはある…。」
「…! この星の在り方を変える事…!」
「そうだ、ディアス。わしはまだそれを成し遂げていない…。」
「だが、そのために他の惑星を採掘星に変えると言うのは…。」
「大丈夫だ、我には剣がある…。剣とは我が愛剣の意味でもあるが、言葉という意味の剣でもある…。互いに本音でぶつかり合えば、その星が危険かどうかを観察する事は容易いはずだ。お前たちのような頼もしき同志と出会えたようにな…。わしはそう信じている…。」
「ダジーラク…。」
ダジーラクは壁に背を当てるのをやめ、立ち上がった。
「わしがやろうとしている事はわし個人の我儘だ。お前たちに無理に突き合わせようとは思わない。だから…。」
「水臭いじゃないのさ、ダジーラク。」
ダーバラも壁に寄っ掛かるのをやめてダジーラクを見た。
「あたいはあんたのそういうところが気に入って仲間になったのさ。今更バイバイなんてしやしないよ。」
「ダーバラ…。」
「ドウカンダ。」
ラクベスも壁から離れ、それから次々とバドスン・アータスの面々が壁から離れて立つ。
「ま、ここまで来たらダジーラクの旦那に付き合うぜ。」
「何、わしらは戦える場所に連れて行ってくれればそれで構わんよ。」
「おいおい、あんたと一緒にすんなよ、爺さん…?」
「レイドルク、ライガ…。」
「古株のボクが今更いなくなるのもね。付き合うとしますか。」
「アルウス…。」
「ダジーラク、私は君と出会えて後悔はない。」
「ディアス…。」
ディアスたちは自分たちに迷いがないという事を伝えるかのようにダジーラクをじっと見た。
「すまぬ…。みんな、ありがとう…。」
ダジーラクは珍しく笑みを浮かべ、お礼を言った。
これがディアスが見た中で最初で最後のダジーラクの温かな笑みだったかもしれない。
次の日、ダジーラクたちはシユーザーを待ってアジトの前に立っていた。
「ディアスたち、どこかに行っちゃうの?」
「あぁ、どうやら長旅になるみたいなんだ…。」
子供型デュラハンはそれを聞くと寂しそうにしたのでディアスは胸の顔を撫でてあげた。
「大丈夫だ。幸い、この星にはもう荒くれデュラハンたちはいなくなっているようだ。我らのこれまでの戦いの頑張りのおかげだ。私たちが帰って来る頃にはこの星は争いのない豊かな星になるだろう…。その時はまた一緒に過ごそう。」
「…わかった、私待ってる!」
「良い子だ…。それじゃあ、後の事は頼んだぞ。」
「任せて下さい、ディアスさん。」
ディアスがアジトにいるデュラハンたちに別れを告げているとシユーザーがやって来た。
「シユーザーよ、これがわしらの答えだ。」
ダジーラクが両手に持った剣を地面に刺すとディアスたちも横並びになってシユーザーを見た。
「…素ん晴らしいっ!よくぞ決断してくれました!いやぁっ、これはめでたい…!さぁ!では、我らが救いの箱舟にご案内しましょう!」
そう言うとシユーザーは歩き出し、ディアスたちはついて行った。




