283章 想いと言葉は二つで一つ
「カサエル!」
「大丈夫さぁっ、大樹ぅっ!」
両手に槍を持って襲い掛かって来たキルバに対し、【鉄絆法師】カサエルは銀色の唐傘で槍を受け止めて見せた。
「キルバ、今のこの姿のあっしはお前さんに直接イメージを伝える事ができるさぁ…!」
「何…?」
キルバは後ろに跳び、【鉄絆法師】カサエルから距離を取った。
「どういう事だ…?何故私に自分の能力を教える?」
「鉄絆の力はあっしの仲間たちのデバイスと繋がる事で相手にイメージを直接伝えるというものさぁ。自分が経験した事を相手に教えるというのはなかなかに難しいものさぁ。試合という形式とは言え、現にあっしらはこうやって分かり合えずに争っているさぁ。」
「確かにな…。」
キルバは【鉄絆法師】カサエルに戦意がない事がわかったのか、両手に持った槍を下ろした。
「この力は良い方向に捉えれば、相手に自分が得られた感動を直接伝える事ができるさぁ。しかし、悪く言えば、それは自分のイメージを相手に無理矢理押し付けているのと同意義さ…。扱いを間違えれば洗脳という形になってしまうかもしれない危険な力を秘めた…言わば、諸刃の剣さぁっ…。」
【鉄絆法師】カサエルは自分の震えた左手を見た。
確かにカサエルはジークヴァルたちとは違った変わったヘッドを得る事が多い。
「なるほどな…。お前はその悪い方の力の使い方を避けるために…。私を洗脳するという形にしないために敢えて、自分の能力を明かして来た訳か。イメージを無理矢理押し付けるのではなく、私にそれを受け止めるだけの心構えを事前に与えるために…。」
「そうさぁ。結局、人は分かり合うためには心だけではなく、言葉もちゃんと交わさないといけないという訳さぁ。心も言葉も二つ共大事さ。そこは決して省略してはいけない部分さ。…って、偉そうに言ってるけどさぁ、あっしもそんなに言葉は得意な方ではないさぁ…!」
【鉄絆法師】カサエルは恥ずかしそうに左手で後頭部を摩った。
「人を芸で喜ばす事もそうさぁ。その人が楽しい、楽しくないと思うかどうかはどうしてもその人の今まで積み重ねて来た人生経験によって左右されてしまうものさぁ。それで楽しく思えた人もいれば、不快に思う人もいるさ…。人に芸を見せるという事は一種の度胸試しみたいなものさぁ。見えない先に立ち向かうための、挑戦する心が大事なのさぁ。あっし一人じゃ、その心構えを取る事はなかなか難しいさ…。でも…。」
【鉄絆法師】カサエルはそう言うと後ろにいる大樹を見た。
「あっしには大樹が、狸が、みんながいるさ…!みんなのためなら、あっしはどこまでも進んで行ける気がするさぁっ!未知の場所へ立ち向かえる勇気をずっとずっと、もらえる気がするさ…!」
「カサエル…!」
大樹が頷いた後、道人たちも頷いた。
「強いのだな、お前は…。よし、お前の意図は理解した。構わん、お前が見せたいというもの、私に見せてみろ。」
キルバから許可を得た後、【鉄絆法師】カサエルは潤奈の方を見た。
「潤奈ちゃん、デバイスを構えてあっしに力を貸してさぁっ!大樹にデバイスの光を!」
「…わ、わかったよ!大樹!」
潤奈はフォンフェルのデバイスを取り出し、大樹の持つデバイスに向かって光を照射した。
「行くぞい、カサエル!」
「ほいさ!」
大樹はデバイスから光を照射し、【鉄絆法師】カサエルの多数の唐傘に当てた。
「キルバ、これよりあっしが見せるは生と死という形で別れた親子の再会!もう二度と会えないと思っていた娘と父との喜びの気持ちさぁっ!」
【鉄絆法師】カサエルが右肩に傘を当ててくるくると回す。
五つの唐傘がスポットライトのようにキルバに当たった。
「キルバが相手の力を無抵抗で受け止めるところなんて初めて見た…。」
「ほう…。」
マリグアが静かに驚き、ダイデュードは興味深そうに見ていた。
「へぇっ、珍しい事もあるもんだな。」
一時、この場からいなくなっていたカジートが呑気そうに後頭部に両手を当てながら戻って来た。
「カジート、どこ行ってたの?」
「何、ちょっとな。」
カジートはマリグアにそう返事をしてキルバを見た。
キルバに当てた唐傘の光は収まり、畳まれた。
キルバがどういう反応をするのか?道人たちも思わず息を呑んだ。
「…なるほど、相互理解のための補助能力と言ったところか。安心しろ、カサエル。洗脳という程ではない。お前たち風に言えば、討論するための資料がこちらにダウンロードされた…と言った感じか。」
キルバは自分の身体を見て確認した。
「だが、これでは私がお前たちの事を知る事はできるが、私の事をお前たちが知る事ができていない。それは話し合いにおいてはフェアではない。しかし、相手の許可を得ずに勝手に相手の今までを覗く事は不快になり兼ねない。それこそ相互理解への道は遠のいてしまう…。それが今後のお前たちの課題となるだろう。」
カジートは【鉄絆法師】の問題点を冷静に大樹と【鉄絆法師】カサエルに伝えた後、潤奈の方を見た。
「生と死という世界の違いはあれど、あの娘たちは我がリフドーの民。しかも貴重な生き残りだ。死に別れたと思っていた父と再会できた喜び…。それは理解できる、喜ばしい事だ。祝福するべき事だと私個人は思う。だが…。」
キルバはそう言うと改めて両手に持った槍を構え直し、二つの盾を浮遊させた。
「私は組織の一部であり、レング・ザ・ダイの戦士だ。個人と相互理解できたとしても意味がない…ふっ、それはお前も承知の上だろうがな。」
「もちろんさぁっ、あっしはお前さんの言う通り、思考するための判断材料を伝えただけさぁっ!ここからがあっしと大樹の腕の!言葉の!想いの見せどころさぁっ!」
「おう!腕が…いや、喉が鳴るぞい!」
【鉄絆法師】カサエルも宙に浮いた五つの唐傘をくるくる回転し始めた。
キルバは盾の一つから拡散ビームを放った。
「面白い!私の心に与えたきっかけ、開花させられるものならしてみせろ!」
「行くさぁっ!」
【鉄絆法師】カサエルは五つの唐傘と三つの三度笠で拡散ビームを防ぎながら前進した。
「結局、闘いになっちゃった…。でも…。」
「うん。でも、何でかな?カサエルもキルバも、大樹も狸も何だか楽しそうだ。」
愛歌の言葉の後に道人が続けて言葉を繋げた。
「カサエル、妙じゃ!もう一つの盾に気をつけるんじゃぁっ!」
「わかってるさぁっ!」
キルバはもう一つの盾を地面すれすれで浮遊させ、回転させながら進ませていた。
【鉄絆法師】カサエルの足元付近で拡散ビームを上に向かって放った。
「下からさぁっ!」
【鉄絆法師】カサエルは後ろに仰反る形でビームを避けてみせた。
「その態勢ではな!」
空中で仰反った【鉄絆法師】カサエルに対し、キルバはすかさず飛び蹴りを喰らわした。
吹っ飛ぶ【鉄絆法師】カサエルに対して両手の槍を投げて追尾させた。
「守るさぁっ!」
【鉄絆法師】カサエルは吹っ飛びながらも二つの唐傘を引き寄せ、向かって来た二本の槍を防いだ。
【鉄絆法師】カサエルは壁に激突し、背中を強くぶつけた。
「盾を刃に!」
キルバは盾の一つを持ち、照射したビームを槍のようにして突撃した。
【鉄絆法師】カサエルはキルバからは見えないように前に二つの唐傘を開いて盾代わりにした。
「遅い!」
キルバのビームの刃は壁に激突し、土煙が舞った。
「やっちゃったの!?」
「…いや!」
マリグアがそう言うとすぐにカジートが否定した。
「…何?」
土煙が晴れるとキルバのビームの刃は壁に刺さっていたが、【鉄絆法師】カサエルの姿はなかった。
「残念じゃったのぉっ!相手の目を騙すのは!」
「あっしらの得意技さぁっ!」
【鉄絆法師】カサエルは宙に浮かぶ三度笠の上で逆立ちをしていた。
「上かっ!?」
キルバは五つの唐傘に囲まれ、ノコギリのように身体を削られ始めた。
【鉄絆法師】カサエルは浮遊した三度笠から高く飛び跳ねた。
「ぐぅっ!?」
「【唐傘法師】にできる事は【鉄絆法師】にもできるさぁっ!久しぶりのぉっ!アイアァーーーン!」
【鉄絆法師】カサエルの頭上に巨大な物体が出現した。
「シャンデリアァーッ!!」
【鉄絆法師】カサエルはアイアン製のシャンデリアをキルバに向かって叩き落とした。
「ぐっ…!?」
キルバはアイアン製シャンデリアに直撃はしなかったが、吹っ飛んで地面に倒れた。
「…一本、さぁ。」
シャンデリアの破片が降り落ちる仲、起き上がろうとするキルバの頭に【鉄絆法師】カサエルは軽く唐傘で叩いた。
「…何だ、それは?」
「剣道だと、これは勝ちなのさ。」
「…知るか…。」
キルバは起き上がり、あぐらをかいて座った。
「…キルバ、この地球がヴァエンペラに採掘星に変えられたら、せっかく再会できた親子がまた悲しい目に遭うかもしれないさぁっ…。潤奈ちゃんだけじゃないさぁっ、地球が採掘星に変えられた後、色んな星々がヴァエンペラの手で次々と採掘星に変えられて行ってしまうさぁっ…。それは絶対に避けないといけない事さぁ。」
「………。」
キルバは【鉄絆法師】カサエルが言う事を静かに聞いていた。
「ヴァエンペラをこのまま放置しちゃいけないさぁ。お願いさぁっ、キルバ。一緒に戦ってくれないさぁっ?」
「…やれやれ。」
キルバは立ち上がり、腕を組んだ。
「息巻いた割には大した話術じゃないな。」
「わ、悪かったさぁ。でも、あっしさっき言ったさぁ。言葉はあまり得意な方じゃないってさぁ。」
「あぁ、言ったな。そして、度胸試しと挑戦し続ける心が大事ともお前は言った…。私はリフドーが死者だけの星になった事を受け入れた…。それはもうどうにもならないという諦めの心から来たものだ…。」
「キルバ…。」
キルバは潤奈とマーシャルを見た。
「せっかく生き残っていた生者の同胞たち…。それがヴァエンペラに消される形でレング・ザ・ダイに内包されるというのは面白いものでは全くない…。」
「それじゃあさぁっ…!」
「喜べ、カサエル。お前が私に与えたイメージ…。それを必死で無駄にはしたくないという想いは伝わって来た…。」
キルバは右手を【鉄絆法師】カサエルに出して来た。
「お前と戦えて良かった。私の拘りに劣らない、誇り高き心を持った戦士カサエルよ。」
「カサエルは戦士じゃないぞい!俺の最高の相棒で、人を喜ばせる大道芸人じゃい!」
「大樹…。」
大樹が両手を腰に当てて【鉄絆法師】カサエルとキルバに近寄って来た。
「その大道芸人というのはよくわからないが…。訂正しよう、誇り高き心を持った大道芸人カサエルよ。」
「さぁっ!」
【鉄絆法師】カサエルはキルバと握手した瞬間、元の姿に戻った。
「ぞい!」
「ーぞい!」
大樹と狸も握手しているカサエルとキルバの手に両手を乗せた。
「ダイデュード様、これが私の答えです。私は死んでいって、転生の道を選べなかった者たちの無念を晴らしてみたいと、この戦いで思えるようになりました。」
「うむ。良く戦った、キルバよ…。お前はカサエルに与えられたイメージとやらをただ受け止めたのではなく、糧として、自分なりに考えて答えを導き出して見せたのだ。それは決して押し付けられたものではなく、お前の持つ心が導き出したものだ…。」
「ダイデュード様…。」
「良い顔してるよ、キルバ?」
マリグアが両手を後ろに回して近寄って来て、キルバの顔を覗き込むように見た。
「グルーナさん、クリーナーディスクのカードを頼むぞい!キルバを治さんといかんからのぉっ!」
「よし、来た!」
大樹の言う事を聞いたグルーナはデバイスからクリーナーディスクのカードを実体化し、走った。
「姫、星は違ってもさ。傀魔怪堕もレング・ザ・ダイも同じ死者の世界で、心が重要なのは一緒だったみたいだね。」
「うむ、そうじゃな!」
道人は仲良くなったカサエルとキルバたちを見てそう思った。
「よし、卒間殿。我らは…。」
「おっと、ダイデュード様。ちょっと待っておくんなまし?なぁ、キルバ?」
カジートはそう言うと自分の右肘をキルバの左肩に乗せた。
「…!? お前…!?」
キルバはカジートが盾で投影された幻影ではなく、実体の身体を持っていたので驚いた。
「ふぇっ!?カジート、あんた、跳んだのっ!?」
「おう、跳んだぜ!いやぁっ、俺も気になる奴がいてよ!ついな!なぁ?道人、ジークヴァル?」
「お、俺…?」「わ、私か…?」
カジートの指名を受けた道人とジークヴァルはつい自分を指差してしまった。




