280章 伸脚体操の仲?カサエルVSキルバ
キルバが対戦相手に指名したのは大樹とカサエルだった。
大樹とカサエルは未だに驚いた表情で自分を指差していた。
「な、何で俺たちなんじゃい?」
「理由を聞かせてもらいたいさぁ。」
大樹とカサエルは自分を指差すのをやめてキルバに指名理由を尋ねた。
「私がイチ・マノンシアを攻撃した時、お前たちは私の攻撃を弾いて見せた…。捉え方によってはあの瞬間に私がこの世界に関わらないという自分に課した決まりは破られたに等しい…。」
「飛んで来た槍を弾いただけだぞい…。」
「自分に厳しい人さぁ。」
大樹は両肩をがくっと下ろしたのに対し、カサエルはキルバがどういう人物に感じたのかの感想を述べた。
「悪いな、こいつかなぁ〜りの神経質なんだよ。」
カジートはキルバを指差して謝って来た。
「お前みたいなお気楽人に言われたくないな。」
「俺はお前みたいな堅苦しい生き方するのはごめんだよ。死者の世界で生き方ってのも変な話だが。」
「もう、二人共!人前なんだから、仲良く!」
マリグアが険悪なムードのカジートとキルバを落ち着かせた。
「うむ。キルバよ、それで決まりで良いのだな?」
「はっ、我が目に狂いなし。」
キルバはダイデュードにお辞儀した。
「すまぬな、卒間殿。こちらの都合を押し付けてしまって。」
「いえ、一対一の試合形式…。今までの戦いに比べたら、平和的な方です。」
「ふむ、その言葉の時点で今までかなりの激闘を繰り広げて来た事を察する事ができるな…。」
司令とダイデュードはお互いに了承し、この緑の神殿内で大樹&カサエルVSキルバの試合が行われる事になった。
「あの…大丈夫ですか?えっと…。」
道人は潤奈に支えられながら立ちあがろうとするシルエット大将軍に話し掛けた。
女の子一人でシルエット大将軍の鎧の身体を持ち上げるのは大変だと思い、道人も立ち上がらせるのを手伝った。
「ははっ、呼びづらいのなら、シルエット大将軍で構わんよ。」
「はい、シルエット大将軍…。」
道人はシルエット大将軍が立てた事を確認し、鎧から身体を離した。
「ありがとう、心配してくれて。だが、私は元々死人だ。別に疲れとかはないさ。」
シルエット大将軍はそう言うと潤奈を見た。
「ジュンナ、話したい事は山程あるが…今はこれから試合をやるという流れになってしまった…。だから、今は我慢してくれるか?」
「…うん、わかった…。私、待ってるから…。」
「良い子だ、昔から変わらずな…。」
潤奈とシルエット大将軍はあまり言葉を交わさずとも、親子らしい絡みができていたので見ていて道人も何だか微笑ましかった。
マーシャルは相変わらずシルエット大将軍と視線を合わさずにそっぽを向いていた。
「…お父さん、道人や大樹たちに教えてあげて。あのキルバというデュラハンの事を…。」
「あぁ、ジュンナたちの助けになってあげたいところだが…彼は私を追っている際は追尾する槍の攻撃しかして来なかった…。あちらも追いかけながら、こちらの様子を見ていたのだろう…。すまないな、まともな情報をあげられなくて…。」
「いえ、少なくとも手の内を見せない慎重な奴って事はわかりました。ありがとうございます。」
道人はそう言うと静かに一人で腕を組んで立っているキルバを見た。
その後、シルエット大将軍と潤奈に視線を戻す。
「今はゆっくり休んでて下さい。身体の疲れはないかもしれなくても、精神的な疲れはあるでしょうから…。」
「すまない、ありがとう…。」
「潤奈もせっかく…お父さんと奇跡的に再会できたんだ。一緒にいてあげて。」
道人は死に別れた、と言おうとしたが潤奈の気持ちを考えてそれはやめておいた。
「…うん。ありがとう、道人…。」
親子水入らずのところを邪魔しちゃ悪いので道人は大樹たちの元に戻る事にした。
「やるからには勝ちなさいよ、大樹、カサエル!」
「うむ、地球とレング・ザ・ダイの今後の関係は其方らの頑張りに懸かっておるぞ、大樹にカサエルよ!」
「頑張って下さいね、大樹さん。」
「おぉっ…!?今、俺は道人が普段から浴びている道人ガールズによる黄色い声援をこの一身に浴びておるぞい…!?」
大樹は愛歌、姫、ユーラに応援されて目をうるうるさせて感激していた。
「いや、道人ガールズって何だよ。道人ガールズって…。」
「何かご不満ですか、道人?」
「ふふん♪もしや妬いておるのか、道人よ?」
「えっ!?べ、別に妬いてるとかじゃなくて…!?」
ユーラは道人の右腕に、姫は道人の左腕に即座にしがみ付いた。
「くぅ〜っ…!貴重な黄色い声援をもう道人に取り返された…!さらば、短き黄色き声援…!」
大樹は右腕を目に当てて噴水のような涙を流した。
「今思えば道人よ、俺とお前は良きデュエル・デュラハン友達として今も変わらずに交流はしておるが、実力差は大分ついてしまったような気がする…。お前さんを随分遠くに感じるぞい…。」
「そ、それは…。えっと…。」
道人は大樹との差を否定したかったし、励ましてあげたかったが、うまく言葉に出来なかった。
気がつけば道人はたくさんのデュラハンたちを仲間にしている。
恐らく、大樹はロードと道人の関係も気にしているのかもしれない。
「何を言ってるのさぁ、大樹。生き方を比べちゃ駄目さぁ。道人には道人の、大樹には大樹のそれぞれの悩みがあって、また良さがあるのさぁ。」
「カサエル…。」
カサエルが道人の代わりに大樹を励ましてくれたので道人は安堵した。
「そうよ、大樹ん。みんな、個性はそれぞれあるんだから。私から見たら大樹んも道人んに負けじと十分かっこいいわよん?」
グルーナも右目でウインクし、大樹を励ましてくれた。
「…そうじゃな。すまん、道人!許してくれ!」
大樹は両手を合わせて道人に謝罪して来た。
「気にしないでよ、大樹。俺と愛歌、大樹の三人でデュエル・デュラハンで遊んでた時の関係はあの時から変わって…ううん、変わってるか…。」
道人の言葉を聞いて大樹は悲しそうな顔をした。
「だって…もし、平和になったらさ。今度からは深也や真輝さん、潤奈にグルーナさん…名前を上げきれないくらいのたくさんの人たちとデュエル・デュラハンで遊べるんだから。変わってないはずがないよ、楽しい方向にね。」
「道人…。」
大樹は道人の言葉を聞いて右手を胸に当てた。
「さすが我らが恋愛攻略王道人君!遂に男まで攻略かい?」
愛歌が道人の背後から抱きついて来た。
「べ、別に攻略なんて…!?俺はただ…!」
「おう、道人!平和になったらばんばんやろうぜ、デュエル・デュラハン!」
「デュエル・デュラハン馬鹿のお前は平和じゃなくても現段階でやりまくってんだろ…。」
楽しそうにしている真輝に対して深也が突っ込みを入れた。
「道人、大した奴じゃ…。道人にとっては普段通りに振る舞ってるだけなんじゃろうが、気がついたらみんなを引き寄せて場を賑やかにしておる…。」
「大樹。」
カサエルは優しく大樹の右肩に手を置いた。
「ー僕の事忘れてないかい?僕は君たちをパートナーに選んだんだよ?」
狸がいきなり出現し、大樹の左肩に乗っかった。
「そうじゃったな、狸…。俺は俺だからこそ、得られるものもあるんじゃい…。よし、我がライバル道人に負けんように俺は俺なりのかっこいい自分を目指してみせるぞい!」
「その意気さぁっ、大樹!」
大樹とカサエルは互いに右手でハイタッチした。
「へぇ〜っ…。」
「どうしたの、カジート?」
カジートが道人たちを興味深そうに見ていたのでマリグアが話し掛けた。
「いや、向こうは大分賑やかだと思ってよ。」
「そうだね。ああいうのを着飾らない友好関係って言うのかな?」
「中心にいるのは道人、ジークヴァルね…。」
「…?」
カジートはそう言うと道人とジークヴァルを興味深そうに見ていて、道人もその視線に気づいた。
「それに比べて我らがキルバ様は…。」
キルバは腕を組んで静かに佇んでいた。
「仕方ないよ。あれがキルバなりの精神統一なんだから。応援で力を発するタイプじゃないしね。」
「嫌だねぇ〜っ、これだから協調性のない奴は。」
「不真面目なカジートがそれ言う?」
互いに戦闘準備を整えた後、大樹とカサエル、キルバはフィールドの中央付近に移動し、互いに対峙した。
「さて、今日はたくさんギャラリーがいるさぁっ…!あっしらの大道芸でみんなの度肝を抜いてやるさぁっ…!」
カサエルはそう言うと気合十分に準備体操の伸脚を始めた。
「全力を尽くすぞい、カサエル!」
大樹もカサエルと一緒に伸脚し始めた。狸も大樹の肩から離れて伸脚を始めた。
「…? お前たちのやっているそれは何だ?」
キルバが大樹たちの伸脚運動を見て不思議に思ったのか尋ねて来た。
「見たところ、精神統一の一環だと思われるが…。」
「これは準備体操というやつさぁ。運動する前に筋肉をほぐすのさぁ。」
「…そこの人間と狸はやる意味はあるだろうが、機械の身体のお前はやる意味があるのか?」
「…あ、言われてみればそうさぁ。」
カサエルの返答を聞いて大樹と狸はずっこけた。
「けど、あっしは前世は人間だったさぁ。その頃の名残かもしれないさぁ。」
「なるほど、前世の自分を思い出しての精神統一方法か…。…私もやってみてもいいか?」
「えっ?別にいいけどさぁっ…。」
「では…。」
そう言うとキルバも伸脚運動をし始めた。
大樹とカサエル、狸、キルバが一緒に伸脚運動し始めて道人たちには何だかシュールな光景に見えた。
「…ふむ、悪くないな。今後の私の精神統一法に加えてもいいかもしれない…。」
「お、お気に召してもらえて良かったさぁ。」
大樹たちは伸脚運動をやめて互いに向かい合った。
「お前さん、盾はどうするんじゃ?ほら、ダイデュードさんたちをあれで投影しておるんじゃろう?」
大樹は頭上で回転し続けている盾を指差した。
「問題ない。盾は一つだけではないからな。」
キルバはそう言うと新たに盾を出現させて持った。
「スペアあるんか…。」
「身を守る盾ならあっても不思議じゃないさぁ。」
「確かに…。」
大樹はカサエルの言葉に納得して腕を組んで頷いた。
「お前たちは戦う前に私の盾を気にした…。強き戦士としての精神を持ち合わせているな…。」
「あっし、大道芸人なんだけどさぁ…。」
「ー武士道精神ってやつかな?」
狸がカサエルの姿勢に対してコメントした。
「武士道精神…。良い響きだ。」
「あっし、前世的には武士にはならなかったから、武士と言われるのも…まぁ、いいさぁ。大樹、気合入れていくさぁっ!」
「おう!」
大樹とカサエル、狸はみんなが見守る中で張り切って見せた。




