270章 傀魔怪堕経由
道人たちを乗せた輸送トラックはデュラハン・パークを出て、一時間も経たずに十糸の森に到着した。
道人はジークヴァルに、愛歌はトワマリーにデバイスから意思データを転送して起動させてから外に出た。
ジークヴァルの意思データインストール後に道人の両腕にガントレット、両足にレッグパーツが付く。
前に傀魔怪堕に行く際に災鐚と交戦した場所まで来られた。
「それじゃあ、帰って来たら連絡を入れてくれ。迎えに来るからな。」
「ありがとうございます、お忙しい中…。」
「気にすんない!整備士に忙しくない時なんて休日と休憩時間にしかねぇからな!」
整備士のお兄さんは右目でウインクし、一緒に右手でサムズアップしてトラックを走らせてこの場から去った。
「ふむ、確かこの辺りであったな。道人たちよ、用意するから我にちこう寄ってしばし待っておれ。」
姫は両手でデバイスを持って構えた。姫の前に腕を組んだキャプテン・雷牙が立つ。
少し経つと姫のデバイスが光り始めた。
「雷糸丸、浮上ぉっ!」
姫とキャプテン・雷牙の立つ地面から雷紙丸が出現した。
「開けぇぃっ、傀魔怪堕への扉よ!」
姫が叫ぶと雷糸丸を中心に大きな異次元ホールが発生し、沈んでいった。
しばらく真っ暗な空間を下降する。
「わわっ!?何っ!?どうなってんの!?」
愛歌は怖がって道人の左腕にしがみ付いた。
「あ、そっか。愛歌は雷紙丸で傀魔怪堕に行くのは初めてだったけ…。」
「そうよ!何だか周りは真っ暗で怖いんだけどぉ〜っ…!?」
「むむっ!私だって怖いです!」
ユーラが道人の右腕にしがみ付いて来た。
「いや、ユーラは二度目なんだけど…。」
「ははっ、そう言ってやるな、道人。前にこうやって降りた時はガイアグレートの状態だったんだ。人形態のユーラでは怖いだろうさ。」
「ナイスフォローです、ジークヴァル!」
ユーラはジークヴァルに向かってサムズアップし、ジークヴァルもサムズアップし返した。
「私も…。怖、く…は…。」
「ん?どうしたんだ、ソルワデス?」
「い、いや…何でもない。」
慌ててそっぽを向くソルワデスに対してジークヴァルは不思議に思っていた。
「あははっ…。まぁ、いいけどね…。」
「良くはない!愛歌にユーラ、我が雷紙丸のコントロールで手を離せんからって、道人に甘えよってからにぃ〜っ…!」
姫は悔しそうに振り返って道人たちを見た。
「ひ、姫。二人は悪気がある訳じゃないんだよ…。怖いだけ、で…。」
道人は愛歌はそうであろうが、ハートマークを周りに飛ばしまくるユーラは違うだろうと頭ではわかっていた。が、道人は何とか姫の苛立ちを鎮めようとする。
「か、傀魔怪堕に着いたら次は姫の番でいいから、ね?」
「誠かっ!?絶対じゃぞ、道人よ!よし、早く到着させてみせようぞ!」
姫は満面の笑みを浮かべた後、やる気満々に前を向いた。
「おっ、言ったな、道人?姫さんを悲しませたら俺が只じゃ置かねぇぞ?」
「ははっ、そう言うな、ラ…キャプテン・雷牙。道人ならやれるさ。私は信じている。」
「それは応援してくれてるの?それともプレッシャーを与えてるの、ジークヴァル…?」
道人は糸目になりながら静かにジークヴァルに突っ込んだ。
でも、何だか楽しそうなジークヴァルを見ているのは悪い気はしなかった。
「ほら、愛歌。見な。別に怖かないさ。あたいだってこの通り。」
ダーバラは怖がる愛歌の目の前に浮遊し、暗闇の中を舞って見せた。
「しかし、ライガもこんな立派な船を持って少し見ない間に変わるもんだねぇ〜っ。」
「その言葉、そっくりお前に返すぜ、ダーバラ。パートナーを気遣うなんて以前のお前からは考えられないぜ。後、キャプテン・雷牙な。」
「話の前後で矛盾してないかい、あんた…?」
ダーバラがキャプテン・雷牙なのかライガなのかのキャラブレを指摘していると異次元ホールを抜け、赤い空と大地に風景が変わった。
「ほラ、愛歌。風景が変わったヨ?これデ怖くハ…。」
「いや、怖いわ!高度何メートルよ、これぇ〜っ…!?」
愛歌の恐怖心は不気味な暗闇を下る恐怖から空からへのダイブによる恐怖に切り替わっただけだった。
愛歌は涙目になって道人に強くしがみ付いた。
ユーラも人形態だとさすがに高所からのダイブは怖いのか道人に強くしがみ付く。
道人はしばらく女子二人によるサンドイッチ状態でやっと雷紙丸が傀魔怪堕の大地に着地した。
「あ、愛歌、傀魔怪堕の大地に立つぅ〜っ…!」
愛歌は無理矢理小芝居モードに入って雷紙丸から降りて着地したが、すぐにへにゃへにゃになってその場に座り込んだ。
道人たちが全員降りた後、姫は雷紙丸を消した。
「待っておったぞ、この時を!いざ、魔月の元へ!」
「うん、頑張ったねぇーっ、姫ぇーっ…。」
姫は周りをキラキラさせながら道人の右腕にしがみ付き、右手で遠くを指差した。
ユーラは引き続き道人の左腕にしがみ付く。
トワマリーとダーバラに支えながら愛歌も立ち上がった。
「あ、ちょっと待って、二人共。愛歌。ほら、おぶってあげるよ。」
道人は一旦、ユーラと姫から離れて愛歌の前にしゃがんで背を見せた。
「い、いいわよ、別に!もう怖いの終わったし…!」
「まぁまァ。」
「そう言わずに。」
愛歌は右からトワマリー、左からダーバラに腕を掴まれて無理矢理、道人の背中に密着させた。
「ち、ちょっとぉ〜っ、二人共ぉっ!」
「まぁまァ。」
「そう言わずに。」
トワマリーとダーバラは向かい合ってハイタッチした。
「うむ、この状態でも何も問題はない。」
「気が合いますね、姫。」
愛歌をおんぶした状態でも姫は道人の右腕、ユーラは左腕に問題なくしがみ付いた。
「…これでは後ろがガラ空きだろう。」
続けてソルワデスが愛歌の背中に両手を当てて支えた。
「何か騎馬戦みたいになってない…?」
「深也が見たら確実に新手のガイアグレート・道人って言って来るだろうな…。」
愛歌と道人がダブル突っ込みを入れた後、みんなで歩き出し始めた。
「魔月さんたち、どこにいるんだろう…?」
「どれ、あたいが見て来てやろうじゃないか。」
「お願い、ダーバラ!」
ダーバラが先行して飛んで行った後、すぐに戻って来た。
魔月たちは天極地烈災城軍がやられた場所付近で作業をしている事がわかり、すぐにそこに向かった。
魔月のフクロウ人形が首無し鎧武者たちに指示しているのが見えた。
「ん?おぉっ、道人君たちじゃないか!昨日ぶり!昨日ぶり…えっ?再会早くないかい?というか、どうしたの?その密集形態は?」
「魔月さん、順を追って。順を追って話しますから…。」
姫とユーラは道人をサポートして愛歌を地面に下ろした。
「というか、その子は初めてだよね?」
愛歌は急に元気になり、魔月のフクロウ人形の前にしゃがんだ。
「…か…。」
「か?」
魔月のフクロウ人形は首を傾けた。
「可愛いぃ〜っ…!道人たちから話は聞いてたけど、これが魔月さん?こんなに可愛いフクロウさんなの?」
愛歌は両手で魔月のフクロウ人形を持ち上げて色んな角度から見始めた。
「まぁ、悪い気はしないけどさ…。ひょっとして、今後も私が会った事がない女性陣が全員こうやって私を愛でて来るのでは…?」
「あーっ…、大神さんとかしそうですね。」
「そうか、わかった…。」
魔月のフクロウ人形は道人の言葉を聞いて覚悟を決めたかのように静まった。
「そうだ、魔月さん。ちょっと気が早いかもしれないですけど、進行状況はどうですか?」
「安心したまえ、道人君!とりあえず、仮設の建物を建てる事にしてね。それで異次元ホールを繋げてみるつもりだ。水晶化した人たちもそれから元に戻せて行けるだろう。」
「本当ですか?良かった…。」
道人たちは魔月のフクロウ人形の言葉を聞いてほっとした。
「ならば、我とキャプテンは明日から行ったり来たりじゃな。」
「すまない、苦労掛けるね。ところで道人君たちは何用でここに?」
「実は…。」
道人は魔月のフクロウ人形にドイツに行けないかどうかを聞いてみた。
「なるほど、わかった。我が鎧武者たちを連れて行けば、独逸まで問題なく行けるだろう。」
「本当ですか?ありがとうございます、魔月さん。」
「何、君たちには世話になったからね。これくらいは何でもないさ。」
魔月のフクロウ人形は首無し鎧武者二人を呼んで来てくれた。
「それで独逸のどの辺りだい?」
「ドイツのネーランドだ。」
ジークヴァルが魔月のフクロウ人形に行き先を伝えた。
「お前たち、独逸のネーランドという国まで道人君たちを案内してあげてくれないか?」
魔月のフクロウ人形がそう言うと首無し鎧武者二人は軽くお辞儀をした。
「よし、この二人について行けばいいよ。知能は低いけど、軽い指示くらいだったら聞いてくれるから。」
「ありがとうございます、魔月さん。」
「何のこれしき、さ!急ぐんだろう?それでは良い旅路を!」
魔月たちにもやらないといけない事が山程ある。邪魔するのも良くないので道人たちは首無し鎧武者二人について行って、魔月のフクロウ人形と一旦別れた。
しばらく歩いていると首無し鎧武者二人が立ち止まり、槍を何度か地面に突っ突き始めた。
その後、二体が地面に沈み始めた。
「この下がドイツに繋がってるって事…?」
「そうみたいだね。まさか傀魔怪堕の能力を頼る時が来るなんて思っても見なかったな…。」
愛歌と道人は不思議そうに首無し鎧武者二人の背を見ていた。
「よし、また雷紙丸を出すとしよう!」
「またあの暗闇を降下するの?うぅ〜っ…。」
姫の言葉を聞いて愛歌は肩をがくっと下げた。
「大丈夫だよ、愛歌。俺が側にいるから。ね?」
「み、道人…!」
愛歌は道人の顔を見た後、顔を赤らめた。
「むぅっ、私も道人にまた引っ付きますからね!」
ユーラはそう言うと道人の左腕にしがみ付いた。
「我も独逸に着いたらまた引っ付くからの!」
「はいはい、仲良くね…。」
姫はウキウキ気分で雷紙丸を再び呼び出し、道人たちは乗って地面に沈んだ。




