269章 日帰りドイツ
道人たちはドイツに向かうため、ジークヴァルとトワマリーのボディを迎えに格納庫へと向かっていた。
その間に道人はキャルベンの宇宙船にいるソルワデスにデバイスで連絡を取った。
「おや?道人君!姫さんも!」
「あ、辰治さん!」
「おぉ、辰治ではないか!」
道人たちが格納庫へ向かう最中、ロビー付近で辰治たちが待機していた。
「辰治さん、どうしてここに?」
「何、避難民たちの誘導役を買って出たのさ。傀魔怪堕で長らく潜みながら暮らしていたからね…。何だか行動していないと落ち着かないんだよ。」
辰治は流咲が高校一年の時に行方不明になったと言う。流咲は現在19歳なので大体四年近くいなかった事になる。
融合前の地上世界と傀魔怪堕は時の流れが異なっていたので辰治にとっては年数以上に長かったかもしれない。
急に地上世界に帰って来たので浦島太郎状態となって落ち着かないのだろう、と道人は悟った。
「それに私は元々警官だからね。こういう誘導役は放っておけないタチなのさ。」
「わかりますね、その気持ち…。」
「道人!」
「…! 母さん?」
道人は声が聞こえた方を振り向くと秋子が小走りで近寄って来た。
「道人君のお母さんか。それじゃあ、私はこれで…。」
「はい!辰治さん、避難民の方々の誘導、頑張って下さい!」
辰治は秋子にお辞儀をした後、道人たちに背を向けて右手を振って仲間たちの元に戻って行った。
「母さん、どうして開発エリアに?昨日まで遊園地エリアにいたはずなのに…?」
「真道さんたちとお話をしていたのよ、豪の事とかね。」
「…! 父さんの…。」
真道とは豪の宇宙飛行士仲間の一人で、戦島での戦いで何とか救出できた人たちの一人。
今はデュラハン・シップの操舵手を他の宇宙飛行士仲間たちとやってもらっている。
「そっか。母さん、真道さんたちが戻って来てからまだ会話した事なかったもんね…。大丈夫?湿っぽい会話にならなかった?」
「それがね、豪ったら…他の惑星でもやんちゃしていたようでね…。何だか不思議と明るい話題になったわねぇっ…。」
「そっか、父さんらしいや…。」
その場にいなくてもムードメーカーとなれる豪に対し、道人の父への憧れの気持ちが胸から湧いて出た気がした。しかし、同時にウェントの姿もちらついた。
「どうしたの、道人?」
「う、ううん!何でもない!良かったね、真道さんたちと会話できてさ。」
「初めまして、道人のお母さん!私、ユーラと申します!」
ユーラは道人の右に立ち、挨拶して来た。
「ぬぬっ!?抜け駆けか、ユーラよ!我も我も!我も初めましてじゃ、道人の母君殿!」
姫もユーラの右に立ち、挨拶した。
「私たち、道人のお世話を常にしてます!」
「ユーラ、誤解を招くような発言はやめてね…。」
道人は両肩をがくっと下ろして下を向いた。
「あらあら、私の知らない間にこんなに可愛い子たちとお友達に?ふふっ、隅に置けないわね、道人。」
「か、母さん…。」
「それでですね、私…!」「道人とじゃな…!」
「はい、そこまで。」
愛歌がユーラと姫の間に入り、二人の肩に手を置いた。
「もう挨拶は済んだでしょ?ほらほら、親子水要らずのところを邪魔しない。」
愛歌は姫とユーラを引き摺って道人と秋子から離れた。
「な、何をするかぁっ、愛歌!?」
「私たち、まだ道人のお母さんに話したい事がぁ〜っ…!」
「ふふっ、何だか面白い子たちね。」
「ま、まぁね…。」
道人は目を細めて姫とユーラを引き摺って歩く愛歌を見た後、秋子の方を向き直した。
「母さん、家に帰るの?」
「えぇ、そのつもりよ?今回の騒動で家が散らかっちゃってるから片付けないといけないわねぇっ…。助けに来てくれた真輝君たちには感謝してるんだけどね。」
首無し鎧武者たちが街中で溢れた際、真輝とエッジヴァハムート、海音とスランが秋子や愛歌の母・信子を助けに行ってくれた。その出来事で家が荒らされてしまっているようだった。
「そっか…。俺も帰って片付けを手伝いたいところなんだけど…。」
「…? またどこかに行くの、道人?」
「えっと、ちょっとドイツまで日帰りで行って来ようかと思ってさ。」
「ちょっとでも、日帰りで行ける距離でもないわね…。」
道人の言葉を聞いて秋子は困り顔で答えた。
「…まぁ、道人にとっては普通の事なのよね…。わかったわ、気をつけて行くのよ?」
「秋子さんも大分最近の道人の行動に慣れて来た感じですね…。」
愛歌が戻って来て話し掛けて来た。姫とユーラはベンチに座らされて飲み物を飲んでいた。
「愛歌ちゃんもついて行くの?」
「もちです!あたしが道人の保護者になるんで安心して下さい!」
愛歌は右拳で胸をぽんっと軽く叩いてみせた。
「誰が保護者だよ、誰が。」
「そうヨ、愛歌。保護者だったラ妻から遠退いちゃうじゃなイ。」
「トワマリー、その発言は…。」
ジークヴァルの静止も虚しく、トワマリーは愛歌のデコピンをデバイスの画面越しに喰らった。
「あ痛ぁ〜ィ…!?」
「すまない、トワマリー。私がもっと君を早く静止していれば…。」
「いヤ、ジークヴァルは悪くないヨ!これは私と愛歌ノ恒例行事みたいなものだかラ!」
「いつから恒例になったのよ…。」
「愛歌、最近は突っ込みもこなせるようになったね。」
「うちはやんちゃな曲者たちが多いからね…。」
愛歌はベンチに座って飲み物を飲んでいる姫とユーラを見ていた。
「何とっ!?このような缶で汁粉が飲めるとは!?しかも温かい!」
「こちらの炭酸も新たな味で刺激的ですよ!?」
姫とユーラは楽しそうに缶ジュースを飲み合っていた。
「…わかる、愛歌の言う事が…。」
「でしょ?」
これからドイツに向かう際にもやんちゃな曲者たちに突っ込みを入れないといけないので道人と愛歌は突っ込み役としての覚悟を決めた。
「二人共、苦労してるのね…。まぁ、愛歌ちゃんがいれば安心ね。本当に気をつけて行くのよ?」
「うん!それじゃあ、行って来ます、母さん!」
道人と愛歌はベンチに座っているユーラと姫の元まで小走りした。
「ごめんね、姫。ユーラ。格納庫に行こうか。」
「うむ、ちょうど飲み干したところじゃ!」
「ははっ!ほら、姫。口、汚れてるよ?」
道人はハンカチを取り出し、姫の口を拭いてあげた。姫は頬を染めながら道人を見ていた。
「しまった、私も汁粉飲めば良かったです…!今からでも…!」
「はいはい、今度ねー。」
愛歌はユーラの上着を掴んで引っ張った。
「道人ぉ〜っ…。」
「こ、今度ね。今度…。」
道人は目を潤ませるユーラにそう言いながら糸目になって答えた。
姫が手を繋いで来たのでそのまま歩いた。
しばらくし、格納庫に着いた。連絡をしていたソルワデスももう格納庫にいた。
「きゃぷてん、仕事じゃ!支度をせよ!
「お、姫さん。待ちくたびれたぜ。」
コンテナに座っていたキャプテン・雷牙が立ち上がり、姫の前に立った。
「支度も何も、俺はこの姫がくれた一張羅さえあればすぐにでも行けるさ。」
「うむ、頼もしいな。」
キャプテン・雷牙は右手の親指で背中の雷牙の文字を指差して姫に見せた。
「愛歌、あたいも行くさね。」
「うん!よろしくね、ダーバラ!」
愛歌はダーバラと右手でハイタッチした。
「ソルワデスは大丈夫?激戦の後だけど…。」
「その言葉、そっくりそのまま返そう、道人。大丈夫だ、問題ない。」
ソルワデスは両手の指を動かした後、左手を右肩に当てて右腕を回して見せた。
「そっか、頼りにさせてもらうよ?それで姫、傀魔怪堕を経由するって事は…。」
「うむ!この間と同じく、十糸の森から行くのじゃ!」
「それだと車が必要なんだけど…。」
「話は聞かせてもらった。」
道人の背後から逞しい身体の整備員が話し掛けて来た。
「整備員のお兄さん!」
「こんな事もあろうかと、既にトラックにジークヴァルとトワマリーのボディは詰め込んである。」
「話は聞かせてもらったも、こんな事もあろうかも何も、ジークヴァルとトワマリーを運び出すのを博士から連絡を聞いてたから事前に用意してただけじゃ…。」
愛歌が鋭く突っ込みを入れた。
「まぁ、いいじゃないか!気分だよ、気分!俺がトラックで君たちを十糸の森まで連れて行ってあげよう!」
「わかりました。お願いします。」
道人は整備員のお兄さんの好意に甘え、トラックに乗せてもらう事になった。
「と、その前に…。」
道人が左肩に乗っているドラッヘデバイスをジークヴァルのデバイスに合体させ、Hoffnung=ドラッヘを出現させた。
「ドラッヘ、話があるんだけど…。」
「うむ、さっきの話は聞いていた。前に話した事があったが、試練という形だったためにビーストヘッド自身も与えられる記憶に制限を掛けられていたからな…。すまないが、道人たちに役立ちそうな事は何も…。」
Hoffnung=ドラッヘは申し訳なさそうにしていた。
「そっか…。いや、いいんだ。ごめんね、わざわざ呼び出しちゃって…。」
「ただ、他のビーストヘッドの試練と同様にジークヴァルの故郷はビーストヘッドの試練を行うにたり得る場所なのは確かだ。ロードの言う通り、何かがあるのは間違いないだろう。気をつけるがいいぞ。」
「わかった。ありがとう、ドラッヘ。」
道人とHoffnung=ドラッヘは互いに頷いた後、ディサイドビーストデバイスを解除して鳥型のデバイスに戻した。
Hoffnung=ドラッヘは姿が消えた。
「すいません、お兄さん。待たせちゃって。さぁ、行きましょう!」
道人たちを乗せた輸送トラックは発車し、傀魔怪堕へと繋がる十糸の森を目指した。




