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2.立ち位置の確認





部屋を出て左右を見るとケーキを取りに行ったメイドの少女が銀のワゴンを押してこちらに向かってきていた。

小走りに駆け寄りイケオジの所在を聞けば、彼は国の聖職者の元締め的な存在である大神官らしく平時は先程の神殿に詰めているとのこと。

現在地がわからない以上戻ることも出来ないが、こんな時こそスキルの力だ。役に立ちそうなものを頭の中で唱えれば一瞬で脳内に広大な城のマップが構築される。そしてイケオジの姿や声、醸し出す雰囲気を強く思い描くとそのマップ上に点滅する光が現れた。索敵スキルをMAXまで上げたのが功を奏したと言える。



「教えて頂いてありがとうございます、それじゃあ。」


「あっ、ちょっと!」



あら?何かまだあるのだろうか。振り返ると白と赤のコントラストが美しいショートケーキが乗ったワゴンの下部分から片手ほどの紙袋を取り出し、キョロキョロと周囲を警戒しなから私に差し出してくる。反射で受け取ってしまったがそんな後ろ暗い物ならお断りしたい、中身を確認しようと袋口に手をかければ開く前に甘い香りが鼻をくすぐった。



「さっきはありがとう、何に怒っていらっしゃるのかわからなくて途方に暮れていたの。賄いのクッキーなのだけどよかったら食べてね。」



たしかに優しげに緩んだ顔にもう強張りは無い。

でもそんな、たった一言通訳しただけの私に?

今日この世界に来たばかりの私に賄いなど用意されている筈も無い、自分が食べるのを我慢して分けてくれたのだ。なんて清い、彼女こそ聖女なのでは。

食欲を掻き立てるバターの芳香に我慢できずひとつを口に入れると小気味いい食感で咀嚼するごとにバターが滲み出て甘味が口いっぱいに広がる。脳内がずっとフル回転しているので糖分はとてもとても嬉しい、一つのつもりが結局その場で全て食べてしまった。丁寧にお礼を言えばどこか気遣わしげに頑張ってねと励まされた。

...すごく普通に接してもらったが、この世界で私はどんな位置づけなのだろうか?



メイドさんと別れマップ上の光を追いかけて走ると息も絶え絶えになるころようやくその背中を目視することができた。子供の足でこの広い城を移動するのは容易ではなかったのでレベルアップしたらまず転移魔法を取得しようと心に刻む。足音が耳に入ったのか振り向いたイケオジ、もとい大神官は進路を変え近寄ってきた。



「ちょうど良かった、シノ様にお渡ししようと思っていたのですよ。」



合流すると手に持っていた布を広げて見せる。

彼が身につけている装束をいくらか簡素化したような衣装は私が着てちょうど良さそうなサイズだ。服は死んだ時のものが体ごと縮んでいたのでこの世界では浮くと用意されたらしい。私の用件もあったので腰を据えて話したいと伝えると大神官が手を翳しただけで瞬きのうちに景色が神殿のものへと変わった。

先に着替えるよう勧めらるまま個室に移り装束に袖を通すと、袖がかなり広がる形をしているのに加え少し大きいのか裾も引きずってしまう。今日のところはしょうがないと割り切って大神官の所へ戻れば彼も同意見のようで苦笑いで迎えられた。


「少し大きいようですね。針子を呼びましょう。」


「それはありがたいんですが、それより先に聖女様の行うべきことについて教えて頂きたいです。私は彼女の補佐として呼び出されたので。」


「...ああ、そうなのですね。」


「何か気になることが?」


補佐という言葉にぴくりと眉が動いたのを私は見逃さなかった。彼の瞳をじっと見つめるとやがて思い詰めた表現で懐から1枚の羊皮紙を取り出す。

三つ折りにされたそれには上から下へ矢印で繋がれた3つの絵らしきものが書かれており、上から祭壇らしきものに手を合わせるやたら目が大きな人物、真ん中が魔法陣の上に立つ棒人間、下が首輪を嵌めた棒人間の鎖を握る目でか人間となっている。

どう見ても目でか人間が奴隷を召喚する図にしか見えないのだが、話が通じない聖女の神託で召喚魔法が使われたことを考えるとおおよそ検討がついた。

この棒人間は私だ。



「聖女様がお書きになったものです。まだ小さい少女に見せるのは酷だと黙っていましたが...。」



羊皮紙を懐に戻した彼は沈痛な面持ちで私を見るが、こちらはなんというか、メイドからも子供扱いだったし今更である。

最初に下僕と書かれたし、言葉が通じない聖女が思いつく限りの表現力を駆使した結果となれば不満も飲み込みざるを得ない。少年に変更を頼んだのが無駄だったのは虚しくはあるけど。

だが聖女がこんな絵を描い後私にさっきのような態度を取るとさすがに印象が悪いのでは?問い掛けると大神官は眉間に皺を寄せ頷く。



「この国で聖女は神の遣いとされています。この絵が外部に漏れれば宗教上大きな問題となるため数人のみで情報を共有しシノ様を2人目の聖女としてお迎えしました。」



そう扱ってくれるのはこの人だけだが、たしかに聖女には清廉潔白なイメージがつきもの。奴隷を従えるような姿が許されるはずがない。

しかし聖女が2人か...。能力なら間違いなく私の方が上だがなにぶん向こうは見た目が良い、オルフェウスの人々からしたら美女のほうが良いに決まってる。

魅力の力でいちゃもんでもつけられたら堪らない、可笑しな諍いを招く前に身を引いた方が火の粉を被らなくて済みそうだ。元からそのつもりだったしね。



「いえ、聖女様は信仰の対象にはもってこいの容姿ですし私は従者という立場が良いでしょう。調べた所彼女は無の...能力が突出型のようなのでカバーできる人間が必要です。」



危ない危ない、無能と断言してしまう所だった。

怪しまれていないか窺うと呆けた表情に目を瞬く。

そんな変な事を言っただろうか、私があの高飛車な聖女の下に入れば彼女のプライドも傷つけずに丸く収まると思うのだが。は、と止めていた息を吐いた大神官はゆっくりと目を細めた。



「本当に聖女様を補うために神が遣わしてくれた方なのですね...。畏まりました、シノ様のお心のままに。」



深く深く頭を下げた大神官は目に強い光を宿す。

思わず一歩後ずさってしまうほどの気迫は一瞬で柔和な笑顔に掻き消され、程なくしてメイド姿の針子が迎えに来た。敵意は感じなかったがどんな意味が込められていたのだろう?



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