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「お前は犠牲者役だ」と捨てられた俺、ラスボスと配役を交換する ~役なし《代役》は、世界最強ヒロインと台本どおりに死なない~  作者: michael


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第九話「報酬役の俺を、敵に奪わせる」

第九話 報酬役の俺を、敵に奪わせる


 バンが運ばれたのは、《英雄報酬庫》だった。


 攻略者が集めた武器、役札、捕虜を保管する舞台。


 正面から入れば、主役認証が必要。


「だから俺が報酬になる」


「反対」


 ミオが即答した。


「報酬役は、勝者へ所有される」


「分かってる」


「人になる方法は?」


「舞台が終わるまでない」


 ミオは俺の袖をつかんだ。


「役へ入りすぎたら、私の声を聞いて」


「聞こえなかったら」


「木桶で叩く」


「信頼感がない」


 俺は入口に置かれた宝剣と役を交換した。


 《至高報酬――鳴海零》


 身体が赤い宝箱へ変わる。

 警備兵が喜んで俺を庫内へ運んだ。


 所有されたい。

 開けられたい。

 価値を証明したい。


 報酬役の欲望が染み込む。


 保管庫の最奥にバンがいた。

 隣には、役札を抜かれた人々が並ぶ。


 ファイナル・キャストは役を没収し、使いやすい新人へ再配布していた。


「零?」


 バンが宝箱を見て首を傾げる。


「なぜ分かった」


「こんな不機嫌な宝箱はお前しかいねえ」


 俺は内側から鍵を開けた。


 警報。


 ミオとキューが通気口から侵入する。


 補正を失ったミオは、正面戦闘をしない。

 照明を消し、棚を倒し、敵を分断する。


「世界最強が地味だな!」


「うるさい。効率的」


 俺は没収役札へ触れた。


 だが持ち主の名前が消されていて、交換できない。


「自分で名乗って!」


 ミオが叫ぶ。


 一人目の女性が声を絞る。


「北村早苗。私は、補助魔術師」


「役じゃない。やりたいこと」


「……子どもへ魔法を教えたい」


 名前と願いが戻るたび、役札が本人へ帰る。


 バンは拘束を破り、全員分の攻撃を盾で受けた。


 最後に庫長が現れる。


 《勝者役》。

 所有する報酬の力を使える。


 俺の《代役》まで奪われた。


「価値ある物は、勝者が使うべきだ」


「俺は物じゃない」


 報酬役が囁く。

 使われれば価値がある。

 役に立てなければ空箱だ。


 ミオが俺の胸へ、安い青い髪留めを押し当てた。


「凪から」


 三年前、妹が百円ショップで買った物。

 俺が「似合わない」と言い、凪が怒った。


 小道具から声がする。


『お兄ちゃん。使われるために生きてる物なんて、舞台の小道具だけだよ』


 俺は報酬役を自分で破った。


 補正も代役もない拳で、庫長の顎を殴る。


 バンが続き、ミオが足を払う。


 三人で勝者を倒した。


 奪われた役札が、すべて持ち主へ戻る。


 正確には、持ち主の前へ戻った。


 役札は身体へ入らず、空中で承認を待っている。


 《再装着しますか》

 《拒否した場合、役補正は失われます》


 北村早苗の前には《補助魔術師》。


「魔法は使いたい。でも、誰かの補助だけをする役へ戻るのは嫌」


 札を裏返すと、細かな構成が表示された。


 魔力制御。

 効果拡張。

 他人の術式を読む技能。

 そして、《主役より強い魔法を使ってはならない》という制約。


「技能だけ残せる?」


 キューが管理端末へ接続する。


「標準手順にはありません」


「禁止は」


「ありません」


 俺たちは制約部分を切り離し、技能を本人の名前へ移した。


 《北村早苗――魔術技能保持者》

 《希望――子どもへ魔法を教える》


「先生役にしないの?」


 ミオが聞く。


「まだ教えたことないから」


 早苗は笑う。


「やってみてから決める」


 隣の青年には《忠実な部下》。

 剣の能力は高い。

 命令へ逆らえない制約も強い。


「全部いらない」


 彼は札を折った。


「剣まで失うぞ」


「自分で覚え直す。誰の命令なら死ねるか考えるのは、もう嫌だ」


 別の女性には《愛される娘》。

 家族の関心を集める代わりに、家を離れられない。


「能力だけなら、欲しい」


 そう言ってから、自分で首を振る。


「でも欲しいのは能力じゃない。私の話を聞いてほしかっただけ」


 札を受け取らず、家族へ連絡するかは後で決める。


 四百人全員が、同じ選択をしなかった。


 役をそのまま戻す者。

 技能だけ残す者。

 全部捨てる者。

 今は決めず、保管を頼む者。


 庫長が困惑する。


「強い役を受け取らない人間がいるのか」


「役の強さと、本人の希望は別」


「では価値は誰が決める」


「本人も含めて、その都度」


「非効率だ」


「人を在庫にするよりはいい」


 その間、俺の胸には報酬役の残りが疼いていた。


 助けた人が俺へ頭を下げるたび、もっと欲しくなる。

 歓声。感謝。価値の証明。


「俺が全員の役を取り戻した」


 口から出かけた。


 実際には違う。

 ミオが侵入路を作り、キューが制御を切り、バンが盾になり、本人たちが名乗った。


 ミオが俺を見る。


「今、何が欲しい?」


「評価」


 自分でも驚くほど正直に出た。


「誰から」


「全員」


「無理」


「即答か」


「好きじゃない人もいる。知らない人もいる。今すぐ感謝できない人もいる」


 報酬役なら、全員へ自分の価値を認めさせたがる。


「私は、零が一人でやったとは思わない」


「厳しいな」


「でも、報酬役を破って戻ったことは嬉しい」


 全体ではなく、本人一人の言葉。

 胸の空箱が、少しだけ静かになる。


 バンが背中を叩いた。


「俺は宝箱姿が面白かった!」


「評価を下げるな」


「正直な感想だ!」


 北村早苗が、俺たち四人へ向かって頭を下げた。


「助けてくれて、ではなく。選ぶ時間を返してくれて、ありがとう」


 全員へ向けた言葉だった。

 俺だけの報酬にはできない。


 それが、今はちょうどよかった。


    ◇


 報酬庫の崩壊は止まらなかった。


 持ち主へ戻った役札が、棚を内側から壊している。


 四百を超える役。

 四百を超える名前。


 全員を一度に外へ出せば、出口が詰まる。


「強い役から先に出せ!」


 庫長の部下が叫ぶ。


「勇者、治療、盾! 価値の低い役は後だ!」


 また同じ順番が作られようとする。


 三枝千春という救護隊員は、ここにはまだいない。

 代わりに治療役を取り戻した男が、負傷者を見て声を上げた。


「役の格じゃなく、状態で分ける! 歩けない者を先に!」


 母親役を拒否した女性が、孤児たちを集める。


「家族単位だけで固まらないで! 一人の子を一人にしない!」


 バンが壊れた棚を盾にして通路を支える。


「零! 出口まで何分だ!」


「三分」


「全員間に合うか!」


「今のままでは無理」


「なら今から変えろ!」


 俺は配役表を調べる。


 報酬庫には《勝者専用出口》と《廃棄口》がある。


 勝者専用は一人ずつ。

 廃棄口は大型荷物をまとめて捨てるため、幅が広い。


「全員、廃棄物役へ変える?」


 ミオが眉を寄せる。


「役へ入れば、自分を価値がないと思わされる」


「役を使わない」


 奏太の工具箱から、手動レバーを取り出す。


 キューが廃棄口の安全装置を解除する。


「命令違反です」


「嫌ならやめろ」


「最後まで実施します」


 扉を物理的に開ける。


 役による認証ではない。

 人の手で作った装置は、人の手でも動く。


 全員が通り終えた直後、倉庫が崩れた。


 最後に出た庫長が、俺へ役札を差し出す。


 《勝者》。


「これを持てば、追跡者を倒せる」


「いらない」


「強いぞ」


「お前は、まだそれを使いたい?」


 庫長は札を見る。


 勝者でなければ価値がないと、何年も思っていた顔だった。


 やがて自分の手で折る。


「今は、逃げ切った人でいい」


 役札が消え、黒い扉が現れる。


 扉の向こうから、銀の刃が空間を切った。


 黒い扉が開いた。


 向こうから、十五歳になった妹が歩いてくる。


 銀色のハサミを肩へ載せ、百人以上を従えていた。


「遅い」


 鳴海凪は、三年前より背が伸びていた。


「こっちはもう、百二十七人助けたよ」


    ◇


 銀の刃が扉を切り終えるまで、十秒かかった。


 その十秒で、妹らしい癖をいくつも見つけた。


 急ぐと左の眉が上がる。

 ハサミを閉じる前に二度指で叩く。

 重い物を持つときだけ、昔痛めた右足をかばう。


 三年分知らない顔なのに、同じ人だと分かる。


 扉の向こうから最初に出たのは、武装した子どもたちだった。


 木の棒。

 鍋の蓋。

 舞台用の偽物の剣。


 全員が俺たちへ向ける。


「お兄ちゃんでも、役を確認するまで入れない」


 凪が言った。


「今の役は」


「役なし。直前まで報酬役」


「役残りは?」


「使われなければ価値がないと思う」


「重症」


 子どもたちが警戒を強める。


 ミオも答える。


「役なし。元主役。今は木桶使い」


「最後いらない」


「重要」


 バンは胸を張る。


「悪役!」


 全員の武器が一斉に彼へ向いた。


「今のは説明を省きすぎた!」


「敵じゃない」


 俺が間へ入る。


「保証できる?」


 凪が聞く。


「できない。前に俺を置いて帰ろうとした」


「零!」


「でも今は、自分から捕まって入口を作った。俺は一緒に進むと決めた」


 凪はバン本人を見る。


「あなたは?」


「許されるためじゃない。次に置いていかないために来た」


「次が来たら怖くなる?」


「なる!」


「正直すぎ」


 凪は子どもたちへ武器を下ろす合図をした。


 次にアオが扉をくぐる。


 青いスライムを見て、最年少の少女が目を輝かせた。


「かわいい!」


 アオは《愛玩動物》札を思い出したように一歩下がる。


 ミオが説明する。


「触る前に本人へ聞いて」


「スライムに?」


「嫌なら酸を吐く」


 少女が手を出す。


「触っていい?」


 アオは少し考え、掌へ乗った。


 ノークレジットの扉が完全に開く。


 凪は最後まで俺から目を離さない。


 抱きしめる距離になっても、両腕を組んだままだった。


 俺は勝手に近づかなかった。


「凪」


 呼ぶと、妹の拳が上がった。


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