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「お前は犠牲者役だ」と捨てられた俺、ラスボスと配役を交換する ~役なし《代役》は、世界最強ヒロインと台本どおりに死なない~  作者: michael


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第二十七話「一人を殺せば、世界は助かる」

第二十七話 一人を殺せば、世界は助かる


 三時間で百八の矛盾を止める。


 主役なら、一人でできる。

 演出家なら、全員へ命令できる。


 俺たちは、どちらも使わないと決めた。


「観客席の人へ、扉を一つずつ割り振る」


 ミオが配信回線を開く。


「命令じゃない。できる人が、できる扉を選んで」


 百八の現場が映る。


 火災。

 洪水。

 過去と未来が重なった町。

 同じ人物が二人存在する病院。

 死んだ家族と再会できる代わりに、外へ出られない家。


 人々は迷った。


 最適配役なら一秒で決まる。

 今回は、話し合う時間が必要だった。


「遅い」


 カイトが言う。


 演出家の役残りではない。

 本人の焦りだ。


「十五分で六つしか担当が決まっていない。最終稿なら、百八すべてへ最適な人員を送れる」


「送られたくない人もいる」


「その間に死ぬ者が出る」


「分かってる」


「分かって、待つのか」


 答えは簡単ではない。


 ディレクターが数字を見せる。


 《現在の自由選択方式》

 《予測死者数 一万八千四百》


 《最適配役方式》

 《予測死者数 二百三十一》


 差は、残酷なほど大きい。


「俺が指揮する」


 カイトが金色のペンを握る。


「強制はしない。候補と理由を提示し、本人の承認を取る」


「役へ固定しない?」


「終われば解除する。判断記録も公開する」


 凪が尋ねる。


「断った人を責めない?」


「約束する、とは言わない。今、責めない仕組みを作る」


 俺は頷いた。


 最適化そのものが悪ではない。

 決定を一人へ集中し、変更不能にすることが問題だった。


 カイトが候補を出す。


 消防士へ火災。

 潜水士へ洪水。

 家族を失った心理士へ、死者の家。


 それぞれが承認、保留、拒否を選ぶ。

 拒否された現場には、別候補を出す。


 速度は最終稿より遅い。

 最初よりは、はるかに速い。


 百八の扉へ人が入る。


 俺たちは最も危険な《逆転病院》へ向かった。


 そこでは、生きている者が死亡扱いになり、死者が医師として働いていた。


 患者の一人は、カイトの母親だった。


「偽物だ」


 彼は一目で言う。


『カイト』


 母親の姿が手を伸ばす。


『今度は、私の役を守って』


 演出家の糸が強くなる。


 彼女を現実へ固定するには、生きている誰かの役を渡せばいい。


 候補欄へ凪が出る。


 《最終犠牲者の生命を使用可能》


「選べば、お母さんが帰る」


 凪が言う。


「ああ」


「選びたい?」


 カイトは長く母親を見た。


「選びたい」


 正直に答える。


「だが、選ばない」


『どうして?』


「あなたは俺へ、一人へ任せるなと言った」


 母親の姿が崩れる。


 中から、役だけでできた空洞が現れる。


 《理想の母親役》

 《演出家を最終稿へ戻すための小道具》


 俺は交換を試す。


 世界の敵と、理想の母親。


 また拒否される。


「能力なしで壊す!」


 バンが盾で役札を叩く。

 ミオが木桶を投げる。

 凪が弁当箱で殴る。


「なぜ私だけ生活用品なんだ」


「本人が選んだ武器でしょ!」


 俺とカイトも拳を入れる。


 五人の攻撃で、母親役は砕けた。


 病院の生死が元へ戻る。


 カイトは消えた姿へ一度だけ頭を下げた。


「さようなら」


 扉の外へ出ると、百八のうち百七が安定していた。


 残る一つは、最終舞台そのもの。


 予測死者数は二百三十一から十二まで下がった。


 ゼロではない。


「助けられなかった人がいる」


 ミオが言う。


「記録を消さない」


 カイトが答えた。


「俺の判断も、断った人の判断も。あとで検証する」


 ディレクターが結果を表示する。


 《自由選択方式の有効性を確認》

 《ただし、世界固定には犠牲者一名が必要》


 凪を囲む光が強くなる。


 《残り時間 一時間》


 どれだけ別の命を救っても、最後の一人を要求する台本だけが残った。


    ◇


 一人の犠牲を消すため、最初に試したのは分割だった。


 凪一人分の生命負担を、俺たち五人へ分ける。


 《最終犠牲者は、単独でなければ成立しません》


 次に、役だけを空の器へ移す。


 人形。

 魔物。

 ディレクター自身。


 《人格を持たない対象は、犠牲と認識されません》


「犠牲だと分かる誰かを、わざと殺さないと駄目」


 凪が言う。


 仕組みの中心は生命力ではない。

 全員が「誰か一人で済んだ」と納得する因果だった。


 観客席から志願者が増える。


 余命一日の人。

 罪を償いたい人。

 家族を救いたい人。


 一人の男性が舞台へ降りた。


「私は死刑囚です」


 過去に三人を殺した。

 自分を使ってほしいと言う。


「拒否する資格が、あなたにあるのか」


 俺へ尋ねる。


「あるとは言わない」


「では選べ」


「あなたは、本当に死にたい?」


「償いたい」


「同じではない」


 男性は答えられない。


 被害者遺族の一人が観客席から立つ。


「勝手に世界を救って、きれいに死なないで」


 声が震えている。


「生きて裁かれて。毎年、名前を思い出して」


 男性は膝をついた。


 犠牲者へ選ばないことが、許すことではない。

 生きる方が罰になる場合もある。


 次の志願者は、余命の短い女性。


「私は本当に、自分で選んでいます」


 凪が隣へ座る。


「怖くない?」


「怖い。でも娘が生きるなら」


「娘さんは?」


 画面の向こうで泣いていた。


『一日でも一緒にいて』


 女性は志願を取り下げる。


 全員が取り下げるわけではない。

 最後まで「自分を使え」と言う人もいる。


 その意思を否定する権利も、俺たちにはない。


 だが世界の仕組みにすることは拒む。


「個人の選択と、制度が要求する犠牲を分ける」


 ところが観客席では、志願者を選ぶ投票が始まっていた。


 《誰の犠牲が最も世界のためになるか》

 《余命》

 《犯罪歴》

 《扶養家族の有無》

 《社会貢献度》


 数字の横に、順位までつく。


「止めて!」


 凪が配信卓へ走る。


「志願した人を、今度は観客が犠牲者役へ配役してる!」


 ディレクターは淡々と答えた。


『自由意思による推薦です』


「一位になった人へ、断れる空気が残ってない」


 現在一位は、元救助隊員の男性だった。

 事故で両脚を失い、長いあいだ仕事へ戻れずにいる。


『これで最後に役立てるなら』


 画面の中で笑っていた。


 コメント欄には《英雄》《あなたしかいない》《逃げないで》が流れる。


「参加を取り下げられますか」


 俺が聞く。


『もちろんです』


「今、この人数に見られたまま?」


 男性の笑顔が固まる。


 ミオが全公開回線を切った。


「英雄にされてから断るのは、自由ではありません」


 個別の非公開回線へ切り替える。

 家族、心理士、法律担当だけを残す。


 十分後、男性は志願を取り下げた。


『死にたいわけじゃなかった』


 声だけが届く。


『役に立たないまま生きるのが怖かった』


「役に立たない日は、あっていい」


 バンが言った。


「俺なんか、飯食って寝るだけの日がかなりある」


「比較対象が悪い」


 カイトが返す。


 投票画面を削除する。

 志願者数も非公開へ変える。


 それでも、自分の意思を変えない者はいた。


 八十二歳の元教師は言う。


『私の選択を、年齢だけで無効にしないでください』


「無効にはしません」


 凪が答える。


『では、使って』


「世界を維持する装置としては使わない。でも、あなたが今なぜそう思うのかは聞く」


『生徒を一人、昔の避難で置いてきた』


 四十年前の災害だった。

 彼女は今も、その子の名前を毎晩呼ぶという。


「死ねば償える?」


『分からない』


「分からないなら、今日ここで結末にしない。名前を教えて。記録を探す人をつなぐ」


 教師は長い沈黙のあと、生徒の名前を言った。


 奏太たちが古い避難記録を調べ始める。

 犠牲の候補だった一人が、捜索を依頼する一人へ戻った。


 カイトは一連のやり取りを見ていた。


「効率だけなら、最初の死刑囚で終わっていた」


「選びたかった?」


 俺が聞く。


「選びたい。今も」


 彼は目を逸らさない。


「一人を決めれば、残り全員を確実に帰せる。その誘惑は消えない」


「なら、どうする」


「俺一人に決定権を戻さない。誘惑があることも記録する」


 自分を善人へ直すのではない。

 危険な判断をする自分がいる前提で、権限を分ける。


 カイトが記録へ書く。


「志願者がいても、犠牲者役は採用しない」


 ディレクターが問う。


『本人の自由意思を拒否しますか』


「死ぬ自由を、世界が便利に利用することを拒否する」


 凪が答えた。


 残り三十分。


 キューは舞台の床下を調べていた。


「終幕条件を直接変更する権限は、演出家にありません」


「では誰にある」


 彼女のヘッドセットへ、赤い警告。


 《回答禁止》


 口が閉じる。


 キューは誰も見ていない瞬間、工具を床へ落とした。


 音が符号になる。


 《ぶ・た・い・か・ん・と・く》


 配役表には存在しない、最後の役だった。


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