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「お前は犠牲者役だ」と捨てられた俺、ラスボスと配役を交換する ~役なし《代役》は、世界最強ヒロインと台本どおりに死なない~  作者: michael


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第十九話「悪役が英雄になると、街が崩れる」

第十九話 悪役が英雄になると、街が崩れる


 バンの役は、世界中の悪意を集めていた。


 《悪役――犬飼バン》

 《討伐報酬――地域安定度上昇》


 市民は武器を持って病院を囲む。


「俺が出る」


「倒されるぞ」


「悪役は最後に派手に負ける!」


「本音」


「足が震えてる!」


 それでもバンは外へ出た。


「俺が犬飼バンだ! 文句のある奴は順番に来い!」


 攻撃が盾へ集中する。


 《汚名代行》で、病院への敵意まで自分へ移す。


 そのとき、一人の少年が人垣を抜けた。


 以前、バンが迷宮崩落から救った子だった。


「この人、悪くない!」


 少年は全世界へ映像を流す。


 バンが自分の手柄を他人へ渡した記録。

 負傷者を背負って戻った映像。

 零を置き去りにした後、一晩中救助申請を出し続けた履歴。


「やめろ!」


 バンが初めて焦る。


 コメントが変わる。


《悪役じゃない》

《ありがとう》

《ずっと盾になってた》


 悪意が減る。


 《汚名代行 出力低下》

 《悪役補正 消失》


 最悪の瞬間、病院地下から舞台獣が現れた。


 社会の悪を一人へ集めすぎて生まれた怪物。


 バンの盾が、一撃で砕ける。


「好かれたら弱くなるのか!」


「逃げろ!」


 俺が叫ぶ。


「嫌だ!」


 バンは壊れた盾の柄だけで立つ。


「嫌われなきゃ役に立てねえと思ってた!」


 怪物の爪を両腕で受ける。


「でも、好かれたら立つ理由が増えるんだな!」


 市民が動いた。


 英雄役としてではない。


 消防士が防壁を運ぶ。

 患者家族が扉を押さえる。

 少年が避難誘導する。


 百人で、バンの背中を支える。


 俺は舞台獣の役を読む。


 《皆が責任を押しつける限り不死》


「誰か一人を悪役にしなければいい!」


 ミオが全世界へ呼びかける。


「間違いをした人と、間違いそのものを分けて! 罰は必要でも、全部の悪を一人へ集めないで!」


 バンが叫ぶ。


「零を置いて帰ったのは俺の選択だ! 謝る! でも世界中の悪事まで俺のせいじゃねえ!」


 《汚名代行》を自分で解除する。


 舞台獣の不死が消えた。


 ミオの剣、俺の拳、市民の防壁。

 全員の一撃で怪物を倒す。


 バンは倒れたが、生きていた。


 少年が手を握る。


「ありがとう」


「防御力、上がらねえな」


「嫌?」


「いや。こっちの方が重い」


 少年の母親が、その後ろで石を握ったまま立っていた。


「私も、さっきまで投げようとしていました」


「見りゃ分かる」


「役に命じられたからです」


 バンは少し考えた。


「それだけか?」


 母親は答えられない。


「悪役を倒せば息子の役が守られる。それを信じたかった。あなた一人なら、とも思いました」


「なら、その分も言え」


「怒らないんですか」


「怒る! でも役だけのせいにされたら、俺が零を置いて帰った時と同じだ!」


 母親は石を地面へ置いた。


「病院の窓を一枚割りました。弁償します」


「俺の盾も割れた」


「それは怪物が」


「言ってみただけだ!」


 謝罪した側を、その場で善人にする必要はない。

 受けた側が、すぐ許す必要もない。


 そこへ配信会社の担当者が走ってきた。


「犬飼さん! 独占契約を!」


 端末には、新しい番組企画。


 《本当は優しかった最凶悪役》

 《世界に嫌われても守り続けた男》

 《涙の真相告白》


「全部違う!」


「視聴者は、あなたが実は英雄だった展開を求めています」


「実は英雄だったら、置いて帰ったことが消えるのか?」


「そこは若さゆえの過ちとして感動的に――」


 バンは企画書を二つに折った。


「俺を悪役一色にした次は、英雄一色に塗るのか」


「好感度が回復します」


「回復しなくていい! 下がる時も上がる時も、俺のしたことを一個ずつ見ろ!」


 担当者は、なおも食い下がる。


「では、謝罪会見だけでも」


「謝る相手は、視聴者全員じゃない」


 バンは俺を見る。


「零。俺が置いて帰った」


「知ってる」


「怖かった。助けに戻れなかった」


「それも聞いた」


「許してくれ、とは今は言わん」


「なぜ」


「許させるための謝罪になりそうだからだ」


 俺はすぐ答えなかった。


「代わりに、次に怖くなったら言え」


「言ったら格好悪い」


「今さら守るものか」


「確かに!」


 笑う。


 俺はまだ、置き去りにされた瞬間を忘れていない。

 バンも、謝った一度で終わりにしない。


 途中のまま、同じ側へ立つ。


 担当者は企画名を直そうとした。


 《英雄ではない犬飼バン》


「番組自体やめろ!」


 少年が笑い、母親も少しだけ笑った。


 その直後、空が金色に変わった。


 カイトが《最終稿》を開く。


 《世界の敵――鳴海零》

 《敵の仲間――天城ミオ、鳴海凪、犬飼バン》

 《最終討伐を開始します》


    ◇


 舞台獣を倒した後も、市民の役札は消えなかった。


 《英雄》。


 今度はバンを褒めるよう命じる。


「極端だな!」


 花束。

 表彰状。

 英雄インタビュー。


 さっきまで石を投げようとしていた人まで、同じ笑顔で並ぶ。


「気持ち悪い」


 バンが小声で言った。


 少年だけは、自分の意思で手を握った。


「ありがとう」


「何に?」


「前に助けてくれたこと。今日逃げなかったこと」


「零を置いて帰ったこともある」


「それは悪かった」


「はっきり言うな!」


「でも、全部で同じ人でしょ」


 子どもの方が、役より人を正確に見ていた。


 バンは花束を一本だけ受け取る。


「残りは病室へ持っていけ。英雄役としてじゃなく、見舞いならな」


 市民は戸惑いながら、自分で行き先を選び直した。


 俺たちは病院の会議室へ集まる。


 バンの両腕は骨折。

 盾は完全に壊れた。


「次の戦いは休め」


「悪役は最終決戦へ出る!」


「今、悪役役を解除しただろ」


「では友人枠で!」


「誰の」


 俺が聞くと、バンは一瞬黙る。


「……お前たちの」


「声が小さい」


「友人だ!」


 病院中へ響いた。


 ミオが頷く。


「採用」


「お前が決めるのか?」


「私は友人」


 凪も手を挙げる。


「私は審査中」


「厳しい!」


 笑いが残っている間に、カイトからデータが届いた。


 《最終稿・強制実行予定》


 世界配役の賛成率が下がり、ディレクターは不安定化している。

 その補正として、全ての不具合を一人の敵へ集中する。


 対象は俺。


 世界の敵を倒せば、役を拒否した人まで再び最適化される。


「カイト自身が実行する?」


「最終稿は、演出家へ自動で書かせる仕組みです」


 キューが読む。


「本人の拒否権はありません」


 凪がカイトへ通信する。


「止めたい?」


『止めるべきか、まだ判断できない』


 背景役の消失は拡大している。

 自由選択に戻せば事故も増える。


『だが、俺の判断を奪って実行するなら、それは最終稿ではない』


「助けてほしい?」


 カイトは答えない。


 代わりに、最終舞台の座標を送る。


『止められるなら、止めろ』


 バンが包帯の上から、新しい盾を背負う。


「休めと言った」


「軽量型だ!」


「片腕で持つな」


「では一緒に持て!」


 俺とバンで盾を持つ。


 ミオと凪が反対側へ手を添える。


 世界の空が金色へ変わる。


 最終稿が開いた。


 俺たち全員の役が、本人の意思を無視して固定される。


    ◇


 強制配役は、頭上に文字が出るだけではなかった。


 バンの笑い方が変わる。


「世界なんか、俺が壊してやる!」


 口を両手で押さえた。


「今のは俺じゃない!」


 悪役の台詞が勝手に出る。


 凪は俺の背後へ隠れさせられた。


「保護される妹は、前へ出るなって!」


 身体が一歩進むたび、役が二歩下がらせる。


 ミオの傷が光で治る。


 代わりに表情が消え、聖剣が手へ戻った。


「主役へ復帰させられた」


「嫌か」


「身体が軽い。怖いくらい、嬉しい」


 失った力が戻る喜びまで、本物だった。


「でも零を殺したくない」


 両方を口にすると、主役の光が不安定になる。


 俺には黒い外套が現れた。


 《世界の敵》の能力。


 すべての舞台装置を破壊できる。

 役札を持つ人間から力を奪える。


 強い。


 同時に、誰を見ても敵に見える。


「名前確認!」


 凪が叫ぶ。


「鳴海零!」


「天城ミオ!」


「犬飼バン!」


「鳴海凪!」


「キュー!」


 呼び合うたび、役の衝動が一秒だけ止まる。


 カイトの声が空から落ちる。


『最終稿は、一時間後に完全固定される』


「止めろ!」


『右手が動かない。俺自身も演出家へ固定されている』


 画面に彼の姿が映る。


 金色の糸が背中から伸び、巨大な脚本へつながっている。


『俺は、世界の敵を討つ公演を始める。止めたいなら、その前に俺の舞台へ来い』


「場所は」


『お前たちが最初に逃げた、処刑劇場』


 始まりの舞台。


 俺たちは役に逆らいながら進む。


 市民の攻撃が飛ぶたび、バンが盾を出す。

 主役役のミオは、俺を守る行動を失敗として補正される。

 凪は前へ出られない。


「このままでは着く前に、全員役になる」


 キューが舞台下の整備通路を示す。


「照明が届かない場所なら、固定が弱まります」


 入り口は病院の中央。


 俺たちは世界中から狙われながら、地下へ向かった。


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