1.狂信者と推し神
『にゃんにゃんミリア~! 全世界を愛で包みたい猫の神様、Vtuberミリアだよ~!』
「うおぉぉぉっ! ミリアたん、キタァァアアアッ!」
白い猫耳に絹のように艶やかな長い白髪。優しい緑の目に小さくて可愛らしい唇、そして少し赤らんだ頬。その少女が画面いっぱいに映し出される。今日も最愛のミリアたんが来た!
相変わらず視聴者数は1しかないけど、問題ない。私がその分応援しているから。すかさず、一万円の投げ銭をする。
『わっ! ルンタッタさん、今日もありがとう! でも、本当に投げ銭しなくてもいいんだよ? 見てくれてくれるだけで十分だよ?』
「今日も推しに名前を言われた! それだけで、生きていける! というか、尊さに死ねる!」
それだけで生きていけるし、死ねと言えば死ねる! あぁ……今日も推しが尊い。
ニッコニコで今日の配信も見守る。異世界の神様らしいミリアたんは異世界であったことを色々と話してくれる。知らない世界の話はとても楽しい。
ミリアたんもニコニコで話していると、急に表情が曇った。
「どったの、ミリアたん!?」
『私……ポンコツだから、異世界でも信者がゼロなの。もし、ルンタッタさんが異世界の信者だったら良かったのに……』
「だったら、なるよなる! 異世界に転生する! どうしたらいい!?」
『えっ……異世界に転生? でも、今の生活を捨てるの……辛くないの?』
「ミリアたんが心配してくれているっ! 尊すぎる! えっと、全然辛くない! ブラック企業の社畜だから、生きる希望がない! だったら、ミリアたんのために生きたい! どうすればいい!?」
キーボードを激しく打って、チャット欄に書き込む。しばらくすると、困惑したミリアたんが――。
『じゃあ、ルンタッタさんの魂を私が拾うから死んでもらうと……』
「よし、死ねばいいんだね!」
すぐさま立ち上がり、台所にあった包丁を持って画面の前に戻る。
「ミリアたん、今そっちに行くね!」
『あっ、でもこっちから迎えに行くっていう選択肢も――』
勢いよく包丁を心臓に突き立てた。これで、ミリアたんのところへ!
◇
「わーん! 私のせいで、殺してしまってすいませんー!」
聞き覚えのある声が聞こえて、目を開けた。すると、目の前には涙を流しているミリアたんの姿が!
「ミ、ミ、ミ、ミリアたんが目の前にっ!?」
「ぐすっ……。私が言葉を滑らせてしまったばかりに、痛い思いをさせてすいません……。本当なら、私が直接出向いて迎えに行くことも出来たのに……」
「ぜ、全然気にしなくていいよ! それに、ミリアたんの手を煩わせるわけにもいかないし!」
どど、どうしよう! 生のミリアたん! 生の声! あぁー、体が幸せで震えるんじゃー!
「来てくださって、ありがとうございます。ルンタッタさんは本当に私の信者になってくれますか?」
「もちろん、なるなる! そのために来たんだから! 他に出来ることはない? なんだってするよ!」
「えっと、じゃあ……ルンタッタさんを信用して、お願いがあります。異世界で信者を増やしてくれませんか?」
ほほう、ミリアたんのお願いは信者を増やすことか……。
「私、弱小でポンコツでダメダメな神様なんです。このまま信者がいない状況が続けば、消えてなくなってしまうんです……」
「えっ……ミリアたんが、消える?」
「はい……。創造神からそう言われました。信者のいない神を養えるほどの余裕はないって……」
そ、そんな……。じゃあ、信者のいないミリアたんが消える? そんなこと、許さない。絶対に食い止めてみせる!
「ミリアたん、任せて! 絶対にそんなことにはさせないから!」
「本当? ……ありがとう。私が頼れるのはルンタッタさんしかいなかったから」
涙目で柔らかく微笑んだ。そうか、ミリアたんには私しかいないんだ。だったら、私がどんなことをしても、ミリアたんを最強の神にしてみせる。
すると、ミリアたんが私の手をギュッと握る。
「ミ、ミリアたんっ!?」
「お願いできますか?」
ミリアたんの手、柔らかい! はぁはぁ、気がどうにかなってしまいそうだ! この感触、絶対に忘れない!
「任せて! ミリアたんを、最強の神にしてみせる!」
その誓いをすると、スゥッと意識が遠ざかった。
◇
ん……ここは? あっ、知らない天井だ。それになんだか、体が動きづらい。 って、手ちっさ! これ、赤ちゃんの手じゃん!
ということは、本当に異世界転生してきた? なるほど、なるほど。じゃあ、これからミリアたんの布教活動をして、信者を集めればいいんだね。
「あっ、見て! シアが起きたわ!」
すると、ヌッと女性の顔が現れた。その女性は私の体を抱きかかえると、嬉しそうな顔をした。そこに、もう一人の男性が近づいてくる。
「本当だ。良く飲んで、良く寝て。この子は大きくなるぞ」
「俺にもシアを見せてー!」
その声に女性が屈む。すると、そこには可愛らしい男子がいた。
「えへへ。シア、お兄ちゃんだぞ」
なるほど……。じゃあ、女性が母親で男性が父親ということか。
「モンベルト騎士爵家に生まれた待望の女の子だ。みんなで大事に育てよう」
ほほう、騎士爵家……。貴族としては最下位の立場か。まぁ、いい。そんなことよりも布教だ!
「だぁ! あばぁっ!」
「まぁ! シアが喜んでいるわ。可愛い!」
「なんて言っているんだろうね?」
「きっと、お兄ちゃんがカッコいいって言っているよ!」
だぁー! 布教したくても、言葉が話せないから布教できない!
とにかく、まずは言葉を話すとところから始めないと、布教どころじゃない!




