第77話 秋の一日
東から恒星エリーゼが昇り始めた。朝の陽射しが草木の朝露を輝かせる。
朝食前のこの時間、アキトはルナに剣術を教えるのが日課になっていた。
「今日こそ、にいにから一本とるの!」
「ではルナ、よろしくお願いします」
二人は一礼したあと模擬戦を始めた。
昔はカイトがアキトに剣術の基礎を教えていた。今はアキトがルナにそれを教えている。
「えいっ やぁ!」
ルナの心地よいかけ声が響く。
隣ではメリダがそばかすの少女メルに短剣の構え方を教えていた。
メルとルナはクリシュナが指揮する第24補給小隊に所属している。二人は同い年だ。
「メルさん、足と腕の位置はこうですわ」
メリダが手本を見せる。
「こうですか?」
「よくなりましたわ、では突きを今から100回!」
「はいっ」
それぞれの訓練が一段落したころ、小屋の扉が開いた。
「みなさん、朝食の用意ができました」
アリアが声をかける。
「今行きますわ」
メリダが手を二度叩くと、一同は小屋の中へ入っていった。
「今日はフレンチトーストです」
アリアは澄ました顔で料理を並べ始める。
それぞれに野菜のスープ、フレンチトースト、蜂蜜入りのホットミルクが配られた。
「フレンチトースト?」
メルが首をかしげる。
「とき卵に浸して焼いた黒パンのことです」
アリアは手で指し示す。
「にいにが名付けたの」
ルナはメルに胸を張る。
「そうなんですか?陛下」
「はい、そうです。へいか?」
アキトは苦笑いをする。
「いただきます」
一同はそう言うと朝食を食べ始めた。
メルがフレンチトーストを口に入れる。
「! この上品な甘み、黒パンとは思えないやわらかさ!とても美味しいです!!」
目を輝かせる。
「ありがとう、メルさん」
アリアは微笑んだ。
「姫様の花嫁修業も順調ですわ。メリダ、嬉しゅうございますわ。あとは————」
メリダがアキトを見つめた。アキトの目が泳ぐ。
トントンッ
扉が叩かれた。
「どちらさまでしょうか?」
「クリシュナです」
「お入りくださいませ」
メリダが扉を開ける。
「あ、隊長」「どうしたの?隊長」
メル、ルナがクリシュナに声をかける。クリシュナは一礼すると口を開いた。
「メル、ルナ、今日は第24補給小隊で打ち合わせがあるので、食べ終わったら私の小屋へ来てください」
「了解です」「了解なの!」
「クリシュナさん、もしよろしければ一緒に朝食はいかがですか?」
アリアが微笑む。
「いいんですか?アリア様。ありがとうございます。実はなにも食べていませんでした」
クリシュナは勧められた席に座るとフレンチトーストを口に入れた。
「これは貴族の味ですっ!ほっぺが落ちてしまいそうです」
「あの姫様が皆様に喜ばれる料理を作れる日がこようとは…メリダ、嬉しゅうございますわ。あとは————」
メリダは嘘泣きを始めた。
「メリダッ!」
アリアは頬を膨らませる。
場は一瞬静まりかえった。そして、みんな笑い始めた。
「アキト、午前はバッツさんのところで毎年恒例の討伐ごっこ対策がありますので、私と一緒に来てください」
「わかりました、お供します」
「クリシュナさん、今日の練習は夜からしますので、皆さんに伝えておいてください」
「わかりました、アリア様」
こうして、秋の一日は始まった。
続く




