第76話 皇帝死す
一同は丸テーブルを囲み着席した。柱に掛けられたランタンの灯がゆらゆらと揺れている。
テーブルの上にはアルデ州を中心とした地図が置かれていた。
「読め」
バッツが言った。
メリダは立ち上がるとアリアを見つめた。アリアは目で合図を送る。
「4つのことが箇条書きで書かれていましたわ。1つ目は…『9月4日、皇帝死す』」
「ほぅ、クソ野郎はくたばったか…」
バッツは目を閉じ腕を組んだ。
「アルディアの仇が天寿を全うするとは、この世はまことに理不尽ですわ」
メリダは舌打ちをする。
「2つ目は…『皇太子カエサルが皇位を継承、第二皇子カイロスはそれを支持する』」
「だろうな。続けてくれ」
「3つ目は…『第三皇子セザールはそれをよしとせずガレリア州にて挙兵する』」
「なに、内乱だと!」
バッツは目を見開く。
「セザール…」
アキトは唇を噛みしめる。
「最後に…『ロンフォール州及びロマリア州の兵がガレリア州へ向かっている』ですわ」
「おっ、今ならやれるんじゃね?あたいの直感がそう告げてるぜ。どうするかは姫様がなんとかしてくれるよな」
レイチェルはアリアをニヤニヤと見つめる。
「確かに内乱が長引けば我らにとって好機です」
カトレフは顎に手を当てた。
アリアは静かに手を上げる。
「アリア、言ってみろ」
アリアは頷くと立ち上がった。
「今こそ、決起するべきだと思います」
両手を丸テーブルの上に置き、語気を強めた。
地図上のアルデ州に指を置き、その指を南に下げロンフォール州、セルケト州となぞった。
「今ならば、4州を攻め落とせます。アルデ州、ロンフォール州を落とせばセルケト州の商都セルビナは私たちに降るでしょう」
アリアはロンフォール州の西にあるロマリア州に指を動かす。
「ロンフォール州攻略後、ロマリア州に進軍。これを落とします」
「4州攻略後、総力をあげてソルテラ州を奪還できれば大河ティルミナまでガルドアを押し返すことができます」
アルデ州の西にあるソルテラ州を指で叩く。
「ソルテラ州奪還後、天石橋の手前に防衛陣地を強固に築き帝国の侵入を阻みます」
アリアは二つの陸地を分断する大河を指でなぞり、天石橋で指を止めた。
「待て、我々の戦力は3000あるかどうかだ。アルカンティアに駐屯する兵だけで5000。普通に考えるなら三倍の兵が必要だ、15000の兵がいなければ落とせないはずだが?」
バッツは口を挟む。
「確かに…バッツさんの指摘はもっともです。ですが、今回はアルデ州、ロンフォール州とも正攻法を用いません」
「ほぅ、奇策を用いるか」
「はい、あとでバッツさんにお話しします。私の策を用いるかどうかの判断はおまかせします」
「そうか」
バッツは頷く。
「あたいは頭悪いからよくわからないけどよ、姫様が考えることならいけると思うぜ」
レイチェルが拳で手のひらを叩いた。
「私もアリア様の策ならばどのようなことでもやってのけましょう」
カトレフが一礼する。
「わたくしも姫様の策ならば火の中、水の中ですわ」
「さっきから黙っているけど、陛下はどうなんだ?」
レイチェルはアキトに目線を移す。
「アリアさんの策は、僕たちをこの三年間助けてくれました。だから、僕もその策を信じます」
アキトは微笑む。
「そして故郷の言葉に天の時、地の利、人の和というものがあります。今の僕たちにその3つがあるように思えるんです」
「なんだそりゃ。まあ、あたいも何度か助けられたしな」
レイチェルは手で鼻をこする。
「天の時、地の利、人の和ですか、いい言葉ですね」
カトレフは感心する。
「では俺とアリア、あとは二人で話す。お前達、今日は帰ってくれ。レイチェル、人払いを頼む」
「了解しました、隊長」
アリアを残して一同は小屋を出た。レイチェルは扉の前で周囲を警戒する。
「では、奇策を聞かせてもらおうか?」
「はい」
アリアは頷いた。
続く




