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アルディア戦記 ~少年はやがて皇帝になる~  作者: wok
第三章 アルデ州へ

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第72話 バッツ

「!」


アキトは素早く木剣を垂直に下げると両手で持った。


キィィィィィィィィ


木剣と木槍が擦れ薄い煙が上がる。


血管が膨れ上がり骨が軋む!


木槍がアキトの左脇腹をかすめた。皮膚が裂け血が舞う。アキトの顔がゆがんだ。


「浅かったか!」


レイチェルは舌打ちをした。


アキトは勢いのまま地面に倒れ込むと、その反動を利用して木槍を蹴り上げた!


木槍はレイチェルの手を離れ、勢いよく宙を舞う。


アキトは体を一回転させると立ち上がり、レイチェルに突進すると首筋を狙って木剣を振り下ろした。


ピタッ


木剣はレイチェルの首筋にあたったところで停止した。


周りは静まり返った。


「…なぜ、打ち抜かなかった?」


「それは、そのぉ…レイチェルさんが女の人だから…」


アキトは木剣を首から離すと頭を掻いた。


「馬鹿野郎、戦場《いくさば》で男も女もあるかっ!あたいを女扱いしていいときはベッドの中だけだ!」


レイチェルは喚いた。


「甘さはあるが、見事だ。アキト」


レイチェルは右手を差し出した。


「レイチェルさんは強かったです。ありがとうございます」


アキトは一礼するとレイチェルの右手を掴み握手をした。


周囲から歓声と拍手が轟いた。


「さて、憎まれ役もここまでだ。クリシュナ、アキトの手当てを頼む」


「了解です」


クリシュナはアキトに近づくと一礼した。


「失礼します。アキトさん。少し沁みますが我慢してくださいね」


アキトの服を少しめくって傷薬を塗り込んだ。その上にガーゼを貼り付ける。


「終わりました」


クリシュナは微笑む。


「ありがとうございます」


アキトは頭を下げた。


ほどなくしてアリア達もアキトの近くにやってきた。


「先程の無礼は許してくれ」


レイチェルはアリアにお辞儀をする。


「無礼にもほどがありますわ、レイチェル!よりにもよって姫様に対して…」


とメリダが言い出したところにアリアが二人の間に手を差し込んだ。


「よいのです。レイチェルさんは私たちを試していたのですから。今の私はアリアです。それで十分です」


「あたいもあんたが姫様かどうかなんてわからない。だが、あたいより頭がいいことだけはわかるぜ」


「レイチェルの頭の悪さなら昔から知ってますわ」


メリダが鼻を鳴らした。


「言ってろ、訓練から逃げていつも泣いていたメリダも立派になったものだな」


レイチェルは笑った。


「言いましたわね。今夜は朝までわたくしのお話に付き合ってもらいますわ」


「いいぜぇ、ベッドの中でな?」


「まぁ、お下品さも変わりありませんわね」


「ああ、またメリダが変な妄想しているな」


レイチェルは両手を広げた。


二人の痴話喧嘩が一段落したあとレイチェルは言った。


「あ、バッツ隊長が宴のあとに連れてこいと言っていたな… あたいのあとについてきてくれ」


一行はレイチェルのあとに続いた。


しばらく上へ進むと丸太づくりの家が見えてきた。


レイチェルは扉を叩く。


「レイチェルです。隊長」


「はいれ」


奥から低い男の声が聞こえてきた。


「失礼します」


レイチェルと一行は家に入った。


暖炉では薪がバチバチッと音を立てて燃えていた。家の中は暖かく、木製の家具類が綺麗に配置されていた。


そして、部屋の奥の丸テーブルには一人の中年の男が座っていた。


その男はがっちりした体格で、右腕に切り傷があり、黒髪に白髪が混じっていた。


レイチェルはその男に向けてアルディア式敬礼を行った。


「俺がバッツだ」



続く


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