第66話 山小屋III
翌日から三人で食事を作ることにした。
アリアが調理しアキトが補助をする。ルナは言われた食材を手渡す。
料理が不得意な三人が試行錯誤する。言葉がはずみ、笑顔が絶えることはなかった。
メリダが普段作るものより味は落ちるが、それでも自分たちで作ったものは格別だった。
三人で料理をつくるひとときが楽しい。そして温かい。そうアキトは感じた。
山小屋に着いて7日目の夜を迎えた。
「できました」
アキトが溶き卵と蜂蜜を混ぜた鉄鍋をアリアに渡した。
「ありがとう、アキト」
アリアは薄く切った黒パンをそれに浸す。
「アリアねえ」
ルナは一欠片のバターをアリアに渡す。
アリアはフライパンにバターを入れると火にかけた。バターが馴染んだ頃合いを見計らい浸しておいた黒パンを入れた。
ジューーーーーーーッ
甘みを帯びた匂いが小屋に広がる。
「おいしそうなの!」
ルナは目を輝かす。
「今度こそうまく焼いてみせます。見ててください」
アリアはフライパンを火から少し離して調理した。アリアはフォークで何度も裏側を見る。
アリアの横で見ていたアキトが言った。
「いい色になってきました。そろそろです、アリアさん」
「わかりました」
アリアはフォークで黒パンを刺すと裏返した。
こんがりときつね色に焼き上がっていた。
「やったの!」
ルナは両手を上げた。
「ここからが勝負です」
アリアは何度も裏側を確認する。
「今です!」
アリアはフライパンを火から下ろした。そして裏側を確認する。
「いい色です!」
アキトの声が弾む。
「本当ですか!」
アリアが微笑む。そして、調理された黒パンはそれぞれのお皿に配られた。
その時、馬の嘶きが聞こえた。
「誰か来ます!」
アキトがサネユキを手に取る。一瞬にして、小屋の中は静まり返る。
「戻りましたわ」
聞き慣れた声が外から聞こえた。
「この声はメリダです!」
アリアが胸をなでおろした。
「開けてくださいませ。メリダですわ」
扉を二度叩いた。
「おかえりなさい、メリダさん」
アキトが閂を抜き扉を開ける。
「ただいまですわ、皆さま」
「無事でなによりです。おかえり、メリダ」
「おかえりなの」
メリダの鼻がひくひくと動く。そしてテーブルに乗っているものに気がつく。
「あの美味しそうなものは誰がつくりましたの?」
「アリアねえなの」
「まあ、姫様が!」
メリダは目を丸くした。
「いえ、私ひとりでつくったのではありません。みんなでつくったのです」
「僕とルナはアリアさんのお手伝いをしました。でも、調理したのはアリアさんです」
「姫様が調理を!? わたくしも一口いただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
アリアが頷く。そして、久しぶりに四人が食卓を囲んだ。
アキトは手を合わせた。
「いただきます」
一同がそれに続く。そして口に運んだ。
「おいしいのぉ」
「確かに、甘くて柔らかくておいしいです」
アリアが頬を緩める。
「姫様の料理を食べられるとは生きていてよかったですわ」
メリダは目をうるませた。
この味、母さん————
アキトは目を閉じた。
全員が食べ終えた頃、アキトは果実水をそれぞれのコップに注いだ。
「まあ、果実水ですわ。ありがとうございます、アキトさん」
「ありがとう、アキト」
「ありがとうなの」
メリダが果実水を一口飲んだあと告げた。
「バッツさんに会いましたわ!」
続く




