第64話 山小屋
昨日の夜、今後の方針の話し合いが行われた。
「…斥候であるメリダが単独で偵察に出たほうが良いでしょう。山小屋の守りはアキトにお願いします…」
アリアが考えを述べ、斥候の重要さを知ったアキトもその方針に賛成した。
「わかりましたわ。必ずお役目を果たして御覧に入れますわ」
メリダも頷いた。
こうしてメリダ単独偵察案が採用された。
朝日に照らされ、木々の朝露が煌めいていた。
一行はメリダを見送るため小屋の外にいた。
「バッツさんの居場所を必ず突き止めてまいりますわ」
「お願いします」
アキトはメリダにお辞儀をする。
「食材はありますので、姫様、頑張ってくださいませ」
メリダはアリアにウインクした。
「私はもう子供ではありません。大丈夫です」
アリアの声がほんの少し上ずった。
「アキトさん、しばらくの間、姫様とルナちゃんをお願いしますわ」
「僕が守ります」
アキトは頷いた。
メリダは馬の手綱を引いて歩き出す。そして一度振り返り手を振った。
「待ってるの」
ルナも手を振る。
メリダは再び向きを変え歩き始めた。やがてメリダは見えなくなった。
「アキト、夜の歩哨で疲れていることでしょう。今は寝てください。私がルナちゃんを見ています」
「ありがとうございます」
アキトはそう言うと小屋の中に入り目を閉じた。連日の疲労もありすぐに眠りについた。
深い深い眠りの海に身を委ねた。
◆ ◆ ◆
「にいに、起きて」
ルナはアキトの体をゆすった。
アキトの意識が覚醒して周りを見るとアリアがなにやら料理をしているようだ。
香草の強い匂いが小屋の中に広がっていた。
すでに外は暗かった。ランタンの明かりと暖炉の炎が小屋を照らしていた。
「起きましたか、アキト。もうすぐできます」
アリアはスプーンで鉄鍋をかき混ぜながら言った。
アキトが後ろから様子を眺めた。
アリアの周りには身がたくさん残っている根菜の皮が散乱し、複数の乾燥ハーブの革袋が置かれていた。
「にいに…」
ルナがアキトの袖を握った。
しばらくしてアリアがスープをそれぞれの皿に注いだ。
「豆のスープです。蜂蜜を入れて甘くしてみました」
アキトは手を合わせて言った。
「いただきます」
二人もそれに続いた。スープをすくい全員が口にいれた。
「!」
アキトは顔が少し強張り、ルナは口から舌を出し、アリアは手で口を覆った。
「へんな味がするの…」
ルナがポツリと呟く。アキトはルナを見て苦笑いした。アリアは下を向いた。
「香草もたくさん入っているし体には良いと思います」
アキトは引き続きスープを口に運んだ。
「アキト、無理をしなくてもよいのですよ」
「大丈夫です。食べられます」
そして、アキトはすべてを食べ終えると手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「今日は失敗しましたが、明日こそは食べられるものを作ります」
アリアは背筋を伸ばした。
蒼き月レイズが天空に昇る。
アリアとルナは寝息を立てて寝ていた。
アキトは静かに外に出ると、小屋の近くにカイトたちに教えてもらった小動物用の罠を仕掛けた。
そして小屋に戻ると、暖炉の火を絶やさぬように薪をくべ周囲の警戒にあたった。
沢のせせらぎと、時折虫の鳴き声が聞こえた。静かな夜だった。
やがて小鳥の鳴き声とともに陽光が差し込んできた。
アリアが目覚め背を伸ばした。
「おはようございます、アキト」
「おはようございます、アリアさん。僕は水汲みに行ってきます」
アキトは桶を持って沢に向かった。
水汲みを終えて罠を見に行くと黒兎が一匹かかっていた。
首を切り血を抜いたあと、黒兎を手に取り小屋へ戻った。
「黒兎を捕まえました」
アキトがそれを掲げた。
「にいに、やったの!」
ルナはぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「アキト、ありがとうございます」
アリアは礼を言った。
「すぐ調理しますから少し待っていてください」
アキトはそう言うと速やかに解体し肉の切り身を一口大に切った。
それを小さなフライパンに乗せ適量の塩と乾燥ハーブで焼いた。
肉肉しい匂いが小屋の中に広がる。
「早く食べたいの」
ルナがアキトの周りを右へ左へと動く。
「出来ました」
そう言うとアキトはそれぞれの皿に取り分けた。
「いただきます」
一同は手を合わせる。
ルナが肉を噛むと口の中に肉汁が広がった。
「おいしぃのー」
ルナの頬が緩んだ。
アリアはしばらく黙って食べたあと口を開いた。
「素朴な味付けですが、素材の味が生きていておいしいです。アキトも料理ができるのですね」
「これはカイト兄さんの作り方をただ真似ただけです」
アキトは頭を掻いた。
食事が終わるとアリアが食器の片付けを始めた。
「僕は寝ます。何かあったら起こしてください」
そう言うと、アキトは眠りについた。
◆ ◆ ◆
「にいに、起きて!」
昨日と同じようにルナがアキトの体をゆすった。
続く




