第60話 ロアダルギア廃鉱山III
一行は強行軍の疲れもあり、翌日の朝まで休憩した。
雨は小降りとなり、入口から時折日光が差し込んでくる。
メリダは野営装備一式を収納すると立ち上がった。
「準備できましたわね、皆様」
一同を見渡す。
「わたくしが先頭、姫様とルナちゃんは真ん中、アキトさんは後ろをお願いしますわ。10年前、ここを姫様と通りましたが脅威となる魔物はいませんでしたわ」
「そうでしたね…」
アリアは沈んだ声で答えた。
「では、参りますわ」
メリダは拳を上げた。ルナ以外は手にランタンを持ち坑道を進んだ。
時折、小さな魔物が襲ってくるがメリダが鉄針を素早く投げて退けた。
そして一行は行き止まりの空間にたどり着いた。
そこには壊れたつるはしや台車、朽ちた板が散乱していた。
ルナは右前の壁を指さす。
「なにか変なの。壁が壁じゃないの」
メリダはルナの言葉に耳を疑った。
「なぜわかりましたの?ルナちゃん」
「わからないの」
「よくわかりませんがそれはすごいことですわ」
メリダが小さく咳払いをする。
「この壁は壁と思うと通れない魔法障壁なのです。今から、わたくしがお手本をお見せしますわ」
そう言うとメリダは壁に向かい歩き消えていった。しばらくして壁から戻ってきた。
「ではアキトさん、壁と思って通ってみてくださいませ」
「はい、壁だと思います」
アキトはゆっくりと歩き通ろうとした。
コツンッ
岩肌に当たる感覚で通れなかった。
「アキトさん、ありがとうございます。壁と思うと通れませんわ。では皆様、壁ではないと思いわたくしの後ろに続いてくださいませ」
一行は魔法障壁を通過する。そこには下に傾斜している道が開けていた。
地下は静まり返っていた。
「おかしいですわ。前はケーブローチとかいましたのに…」
「確かに10年前とは違います。魔物の気配を感じません」
メリダとアリアは違和感を覚えたものの前に進むことを決断する。
一行は長い長い地下通路を歩いた。一行の足音だけが不気味に響く。
そして————
更に下へ向かう通路にたどりつく。
「あとはここを下ってしばらく歩くと大空洞があります。それを越えたらあとは登るだけですわ」
メリダは手を二回叩いた。
「では、ここで休憩してから向かいましょう」
一同は地面に座り水を飲み、携行食を食べながら体を休めた。
◆ ◆ ◆
「そろそろ、出発しますわ」
メリダは前を見渡したあと下へ向かった。アリアとルナは手をつなぎそれに続く。後ろを警戒しながらアキトが最後に下りた。
通路は生暖かった。時折蒸気が地面から噴き出す。
「ここは昔と変わりありませんわ」
「この蒸し暑さはあまり好きではありません」
アリアは額の汗をハンカチで拭う。
ここでも一行は魔物に出会うことはなかった。やがて通路が開けて大きな空間が広がってきた。
一行はメリダを先頭に大空洞をゆっくりと歩いていた。
その時————
「なにか来るの!」
ルナが叫んだ。
「ダー・ク・ヴォ・ル・ド・シ・ア」
不気味な声が聞こえた。アキトはこの言葉…いやこの魔法を知っていた。
「気をつけて!誰かが魔法を詠唱しました!」
アキトは声を張り上げた。
「一旦引きますわ!」
一行はメリダを殿にして通路側まで後退した。
「!」
しかし、通路には漆黒の魔法障壁が張られていた。
「僕はこの魔法を知っています!漆黒の壁を除去するには詠唱者を倒す必要があります!」
アキトがサネユキを抜く。サネユキは青白く煌めいた。
「私たちはすでに敵の術中にあります。そして、私がここでできることはありません。無力です。ルナちゃんを抱きしめていますのでメリダとアキトは脅威の排除をお願いします」
アリアは震えているルナを抱きしめた。
「任されましたわ、アルディア一のメイドとアルディア一の剣士が姫様とルナちゃんをお守りしますわ」
メリダは腰の小袋から白い玉を取り出すと上空へ放り投げた。上空で玉が破れるとキラキラした光華石の粒が広がり大空洞を照らした。
大空洞の中央にそれはいた。
漆黒のローブを纏い禍々しい錫杖を持ったなにかが立っていた。
ローブからのぞく頭蓋骨が、人でないことを示していた。
続く




