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アルディア戦記 ~少年はやがて皇帝になる~  作者: wok
第三章 アルデ州へ

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第57話 鉄針

「さすがは姫様、このような事態を想定していたのですわ」


メリダは樽を横にして両手に持つとアリアに言った。


「これは想定外です!」


「あら、まぁ…」


メリダはすました顔で4つの樽を順に外に投げた。


樽は勢いよく転がり群れへと向かう。


他より大きい3匹のバルフは右に避けて茂みの中へ消える。


4匹は直撃を受け悲鳴を上げて吹き飛ばされた。


「アキトさん、右の茂みに3匹ですわ。横からの襲撃に気をつけてくださいませ」


「分かりました!」


アキトは左手で手綱を持ち右手でサネユキを抜く。


「わたくしの痺れ針を差し上げますわ!」


後方のメリダは太ももに仕込んでいた細長い鉄針を取り出すと続けざまに投擲する。


「キャイ~ン」


4匹に命中!


バルフは悲鳴を上げたあと痙攣を起こして倒れ込んだ。


「後ろは残り2ですわ」


メリダが声を張り上げて、腰に差していた短剣を抜いた。


残る2匹は跳躍しメリダに襲いかかる。


メリダは左隅に寄り体をしならせたあと、体を素早く回転させ右足を振り抜く!


強烈な回し蹴りがバルフの腹に当たる。バルフは口から体液を吐きながら吹き飛ばされた。


メリダは間髪入れず、遅れて跳躍したもう1匹の喉元を短剣で正確に切り裂いた。


喉元を斬られたバルフは断末魔の鳴き声を上げて地面に叩き落とされる。蹴られたバルフは「キャン、キャン」と悲鳴を上げると逃げ出した。


その時、前方では右側の茂みから2匹のバルフが跳躍する。鋭い牙を光らせ口を大きく開いてアキトに迫る。


アキトは右手に渾身の力を込めて上から斜め下に弧を描くようにサネユキを振るう。


鋭い斬撃、一閃!!!


襲いかかってきた2匹は胴体から真っ二つに切断され血が舞う。残る1匹は悲鳴を上げると茂みの中へ逃げ出した。


「なんとか撃退できましたわ。アキトさん大丈夫ですか?」


「こちらも大丈夫です」


アリアはアキトの背中をただ見つめていた。


「アキトは本当に強かったのですね。一閃で2匹を仕留めることはなかなかできるものではありません。ありがとう、アキト」


そして微笑んだ。


「にいには強いの!」


ルナは胸を張った。


「ぁ…いえ、これは僕だけの力では…」


アキトは頭を掻いた。


「ところで姫様。わたくしもバルフを退けましたわ」


メリダはアリアをじぃーと見つめた。


「そうでしたね。よくやってくれました。ありがとう。メリダ」


「それだけですか、姫様」


メリダは頭をアリアに向けた。


「わかりました」


アリアはメリダの頭を数回撫でた。


「ついにわたくしは姫様からナデナデご褒美を頂きましたわ。やりましたわ」


メリダは手を上げて喜んだ。その様子を見た一同は笑った。


獣の気配はなくなり、辺りは静まり返った。木から枯れ葉がひとつ地面に落ちる。


メリダは御者台に戻ってきた。


「アキトさん、お願いしますわ」


アキトは頷くと手綱を振った。


馬車は速度をあげて北へ向かう。


蒼き月レイズが西空へ消えようとしていた頃、アキト達は海岸街道が西に曲がりキサラギ山道に合流するところまで来ていた。


「ここからはキサラギ山道には向かわず徒歩となりますわ」


メリダは北北西にある細い道を指さした。



続く


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