第52話 検問
「止まれ!」
青銀の鎧を着た兵士が槍を交差させてアキト達一行の馬車を停止させる。
アキトは手綱を操り馬車を止めた。
金属鎧を着た者が10名。革鎧を着た者が30名ほどが馬車を囲んだ。
眼鏡を掛けた細い目をした隊長格の男が落ち着いた声で話しかけてきた。
「通行証を所持しているなら見せてください」
「少しお待ちくださいませ」
アキトの隣に座っていたメリダが革の鞄を開けて通行証を取り出した。それを眼鏡の隊長に渡した。
「ほぅ、御聖酒水を賜りにソルテラ州に向かうと…」
隊長はしばし黙り、なにかを思案したあと口を開いた。
「マロム村からならキサラギ山道を経由するのが近道のはずですが、なぜあなた達は遠回りをしているのですか?」
隊長は細い目でメリダの目を見ている。
「行けるわけがありませんわ、キサラギ山道は凶悪な野盗が出るという噂でもちきりでしたわ」
メリダは大きな声で答えた。
「野盗ですか、たしかにそうですね」
隊長は頬を少し緩める。
「通行証を詳しく確認します。しばらくお借りします」
受け取ると隊長は幕舎の中に入っていった。そして数分で出てくる。
「通行証は正本であると確認できました。お返しいたします」
隊長はメリダに通行証を返した。そして、アキトに目線を移し手にしている羊皮紙と見比べる。
首をかしげたあと、横にいる革鎧の兵士に言った。
「あなた、あの御者は?」
兵士はアキトに近づくと顔を見つめた。そして答えた。
「こいつは違います。髪の色も違うし、こんな不健康そうなやつじゃありません」
「あの場にいたあなたが言うのだからそうでしょうね」
隊長は口に手を当て思案したあと、静かに続けた。
「あとは荷改めをさせていただきます。これも規則なのでご容赦ください」
隊長は一礼すると兵士たちに合図した。
数人の兵士が荷台に上がり荷改めを開始した。まず、4つの樽の蓋を開ける。そして、革袋や箱を開けて中身を確認したあと荷台から出てきた。
「異常ありません。荷台に姉妹と見られるふたりの女性がいました」
兵士から報告が上がる。
「そうですか…問題なさそうですね」
隊長はそう言うと馬車を回りながら拳で軽く板を叩き始めた。
「失礼」
隊長は御者台を叩いた。軽い音が響く。
「御者台の下に収納がありますね?」
隊長はメリダを見る。
アキトの背中に冷たいものが走る。
「ぁ、あ、そこにはわたくしの大切なものがありますわ」
メリダが慌てだす。
「規則ですので、どうか見せてもらえませんか?お嬢様」
「いやです」
メリダは顔を赤らめ抵抗する。
「拒まれるとあなた達を拘束しないといけなくなります」
隊長は頭を掻きメリダを見つめた。
メリダはしばらく黙った。やがて観念したかのようにぽつりと言った。
「わかりましたわ。どうか中身は見ないでくださいませ」
メリダは渋々御者台の板を開けた。
そこには白い布で包まれたものが多数収納されていた。
「規則ですので中身を検分させていただきます」
「開けてはダメですわ!」
メリダは声を張り上げる。
隊長は布を開いた。そして、中からパープル色のなにかを両手に取り出した。
「だから、言いましたのに」
メリダは手で顔を隠す。
「これは!」
隊長は細い目を見開き、不用意に口走ってしまう。
「人妻パープル、ドスケ————」
隊長は慌てて白い布に包み直す。
「だから、言いましたのに」
メリダの顔が真っ赤になった。
笑い声が聞こえた。
さすがに兵士たちも笑いを堪えることができなかったのだ。
「大変失礼いたしました。お嬢様」
「あなた達も黙りなさい!」
隊長は兵士たちに一喝すると御者台の板を閉じた。
「では、大変長らくお待たせしました。お通し…」
と言いかけたところ、アキトを確認していたさっきの兵士が隊長に告げる。
「中にいた小さな女の子なんですが…髪の色が似ているような気がします。どうも気になります」
隊長は荷台を見つめたあと、語気を強めて言った。
「今しばらくお待ちください」
続く




