第51話 旅路II
アキトは馬の世話を終えると荷台に戻った。
一人荷台の隅に座り虚空を見つめた。そして、あの夜の公園に思いを馳せた。
僕がタイムシャドウに願わなければ————
僕は今ここにいない。今頃は日いづる国の高校生になっていたかな。
でも————
願わないという選択をとれただろうか?
アキトはしばらく目を閉じ想いの海へと沈んでいった。
アリア達が去って一時間ほど経過したころ、メリダの声が静寂を破った。
「お食事をお持ちしましたわ」
バスケットを持ってメリダが歩いてきた。アキトは荷台から顔をだして手を振った。
メリダは食事の入ったバスケットをアキトに渡した。
「ありがとうございます」
アキトは受け取ると頭を下げた。
「明日の午前はわたくしが御者をいたしますので、荷物の見張りはよろしくお願いしますわ」
「わかりました」
「では、わたくしは二人の護衛に戻りますわ」
メリダはそう言うと駆け足で宿に戻っていった。
◆ ◆ ◆
恒星エリーゼの朝日が大地を照らし始めた。風が吹くと落ち葉が舞い落ちる。
アキトは寝ることなく荷物番の責務を果たした。
馬の世話をするため、包まっていた毛布から出ると体が震える。もう、冬は近い。
馬に飼い葉と水を与えたあと荷馬車に馬を繋いでアリア達を待った。
しばらくすると、アリア達がやってきた。アリアとルナは手をつなぎその後ろにメリダが続いた。
「ジョン、お疲れさまです。あとはメリダに任せて休んでください」
「ジョン、お疲れなの」
ルナは目を擦りながら挨拶をした。
「ジョン、あとはわたくしにお任せください」
メリダは御者台に乗ると手綱をアキトから受け取った。
アキトは礼を言うと荷台に移り、毛布に包まるとすぐ眠りについた。
「アンナも眠いの」
そう言うとルナもアキトの隣で眠りについた。アリアはルナに毛布をかけた。
御者台のメリダが振り向き言った。
「では、出発いたしますわ」
メリダが手綱を軽くふると馬車はゆっくりと進み始めた。
馬車は海岸街道を北に進んだ。風が潮の匂いを運んでくる。
エリーゼが天に昇った頃、眠っていたルナが先に起きてアキトの体を揺すった。
「ジョン、起きるの。昼食の時間なの」
アキトが目を開けると三人がアキトを見つめていた。
「やっと、起きましたか。ジョン」
「昼食はサンドイッチですわ」
アキトはすばやく起きて座り直した。頬が少し赤い。
メリダが小さなカゴいっぱいのサンドイッチを置いた。木のコップに雑穀茶を注いで全員に配る。
アリアは全員を見渡したあと、手を合わせ静かに言った。
「いただきます」
和やかな昼食の時間が過ぎていく。
「昨日は私に付き合ってくれてありがとう、アンナ」
「どういたしまして、アリア姉様」
ルナは澄ました顔で応じた。
昼食が終わると馬車は再び北を目指した。
午後からはアキトが手綱を握った。メリダはアキトの隣に座る。
遠くにはロンフォール州とアルデ州を隔てる高い山脈が見えてきた。通常アルデ州に向かうにはキサラギ山道を経由する必要がある。
「おそらく、次の郡境界が最後の検問になりますわ。検問を越えたらわたくしたちはキサラギ山道に合流する道は通らず、ロアダルギア廃鉱山を目指しますわ」
馬車はゆっくりと進んでいく。
「検問ですわ」
メリダが振り向き声を上げた。アキトは検問している兵士たちの雰囲気が違うことに気づく。
「メリダさん、少し様子が違うようです」
メリダは服のポケットから小さな望遠鏡を取り出し覗き込んだ。
「青銀の鎧…。あれは、ガルドア本国の正規兵ですわ。皆さん、これが最後の関門ですわ。焦らず、急がず、慎重に、ご準備を!」
メリダの声に熱がこもる。
続く




