第5話 上陸
陽光が長門を照らす。
海鳥の鳴き声が聞こえ、緑に色づく大地が少しずつ近づいてきた。
「アキト、陸が見えたぞ」
ナガトは前方を指さした。
アキトは鉄枠の窓から外を眺めた。
「わぁ、陸だ!」
アキトの目は少し輝いた。
「うむ、少しは元気が出てきたようだな」
「では、また私の血を飲むんだ」
ナガトはサネユキで左手首を切りアキトの口に近づけた。
コクッ、コクッ
アキトは血を飲む。
一瞬、ナガトの顔が歪んだ。
「よし、陸地に上がれば水と食料があるはずだ」
陸がしだいに近づいてきた。岩壁には大きな穴が開いていた。
ナガトは胸に手を当てた。
大丈夫、もう少し————
重油はほとんどないようだな。
もう少し上陸に適したところを探したかったが、やむをえまい。
「艦を停泊させるにはちょうど良い。あそこの岩穴へ向かう」
艦は針路を微修正し大穴へ進入した。
◆ ◆ ◆
「探照灯照射!」
ナガトは神力を艦に注いだ。
すべての探照灯が輝いた。暗い洞窟が照らされる。
少し進むと巨大な地底湖にでた。
地底湖の周りは幻想的に発光する苔で埋め尽くされていた。
そして、地底湖へ流れ込む小さな川とその先には細い水流の滝があった。
「水だ!」
ナガトが叫ぶ。
「本当だ!」
アキトの目が輝く。
「よし、艦を停船させて上陸する」
ナガトは艦の錨を降ろし停泊させた。そして腰にサネユキをさした。
「アキト、今から後部甲板へ向かうぞ。ついてこい」
「わかった、ナガト」
二人は艦橋を降り後部甲板へ向かった。
後部甲板へ着くとナガトはアキトを抱きかかえた。
「飛ぶぞ、しっかり捕まっていろ」
アキトはナガトへしがみつく。
ナガトは高く跳躍する。
ナガトから放たれる微かな神気が綺麗な弧を描いた。
こうして、二人は異世界テレシアの地へ足を踏み入れた。
「まずは滝のところへ行こう」
ナガトはアキトの手を繋ぐと歩き出した。
チロチロチロチロ…
小さな滝は優しい水音を立てながら小川に水を落としていた。
アキトが水を飲もうとするとナガトが制した。
「待て、アキト。まずは私が毒見をしよう」
ナガトは両手で滝の水を貯めるとそれを口に近づけて飲んだ。
しばしの沈黙の後、口を開いた。
「うむ、問題ない。アキト、好きなだけ飲め!」
「うん!」
アキトは頷くと本能の赴くままに水を飲んだ。
「おいしいよ、ナガト」
アキトの五臓六腑に水が行きわたる。
「ふふ、よかったな。ゆっくり落ち着いて飲むのだぞ」
ナガトはアキトの背中を優しく撫でた。
◆ ◆ ◆
「よし、十分水を飲んだな。では行くぞ」
アキトは頷いた。
地底湖の畔を調べていると、整備された石の階段があった。
「これ階段だよね?」
アキトが指さす。
「そうだな」
ナガトは頷く。
地底湖に階段とは妙だな。
これは!
大きな足跡だ。比較的新しい。
そして、この階段は整備されている。
誰かがこの階段を使っている。
この階段を上れば人と接触できるかもしれぬ。
「アキト、この階段を上るぞ。手を離すな」
「わかった、ナガト」
アキトは小さな手でナガトの手を握った。
二人は慎重に階段を上がった。階段の先には大きな木の扉があった。
「まずはノックだな」
ドン、ドンッ
ナガトは、扉を叩いた。
「誰かいないか?」
反応がない。
「やむをえまい、では失礼する」
ナガトは木の扉を開けて中に入った。
大空洞が広がっていた。
大空洞には多数の松明の炎が揺らめいていた。
壁には光る苔が生い茂っていた。
大空洞はかなり明るい。
そして、奥に巨大な赤い何かがこちらを見ていた。
「わしのねぐらに下から侵入するとは、不届きなやつらよ」
そして、咆哮が轟いた!
続く
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