第49話 旅立ちII
恒星エリーゼが東の地平線に見え始めたころ、アキト達は紅天楼の馬小屋にいた。
そこにはメリダが調達した二頭立ての馬車があった。
「最後の仕上げですわ。アキトさん、サネユキを渡してくださいませ」
メイド服のメリダはアキトに両手を差し出した。
アキトは頷き、サネユキをメリダに渡す。メリダは受け取ると御者台下の隠し収納を開き手早く隠蔽作業を行った。
「アリアさんが依頼していた、人がひとり入れるくらいの空の酒樽を4つ用意しましたわ。いざとなったらこの樽の中に隠れるのかしら?」
メリダは幌馬車のなかにある酒樽を指さした。
「私たちの旅の目的はソルテラ州へ向かい水の女神ウォルトナの聖酒水を受け取ることになっています。実際には途中でアルデ州に向かいますが…」
「それでしたら、ひと樽で十分ですのに明らかに多すぎますわ」
「だからよいのです」
アリアは澄ました顔で言った。そして、アキトに近づき顔をまじまじと見つめる。
「よいです。これならば誰もアキトだと思いません」
アリアは全員を見渡し告げた。
「これより出発します。今よりルナはアンナ。アキトはジョンです」
「今より僕は下男のジョンです」
アキトは答えた。
「私はアンナです。アリア姉様」
睡魔に襲われているルナは目をこすりながら頷いた。
「では、メリダとジョンは御者台へ、私とアンナは荷台へ」
アリアが指示すると一同はそれに従う。
「準備完了ですわ、アリアさん」
「まず、東の海岸街道を目指します。メリダ、ジョン、よろしくお願いします」
「畏まりました。アリア様」
アキトは手綱を軽く振る。馬車はゆっくりと東に向かって進み始めた。
◆ ◆ ◆
陽光がテレシアの大地を優しく照らし始める。
爽やかな微風が吹き、落葉がゆらりゆらりと地に落ちる。秋晴れの中、馬車はゆっくりと進んでいく。
荷台からはルナの小さな寝息が聞こえてくる。
「ルナちゃん、寝ましたわ」
「そうですね」
アキトとメリダは互いを見て微笑んだ。
田園風景が続く道を一時間ほどすすんだところで郡境界の検問が見えてきた。
「間もなく検問です」
メリダが小声で囁く。
「わかりました」
アリアが答える。
アキトは自分の心音がはっきりと聞こえ始めた。
「止まれ!」
兵士たちは槍を交差させて馬車の前に立ちふさがった。
「あら、ヨハンさん」
メリダは隊長格の男に話しかける。
「あ、メリダさんか。ああ聖酒水を受け取りに行くんだったな。郡長から聞いているよ」
ヨハンはアキトを見てメリダに聞いた。
「赤髪の男は誰か?」
「この男は、御者として雇ったジョンですわ」
「そうか。聖酒水を持ち帰ってきたら俺も飲みに行くよ」
「ヨハンさんの分はちゃんと残しておきますわ」
「ありがたい。楽しみにしているぞ」
ヨハンは兵士に声をかける。
「通せ」
「はっ」
兵士はそう言うと道を開けた。
「では、失礼しますわ」
アキト達は何事もなく最初の郡境を越えた。
続く




