第47話 夜II
「アルディア?」
アキトは聞き返す。
「私はアルディア王家の生き残りです」
アキトはそう言われて不思議と驚きを感じなかった。
「アリアねえはお姫様だったの?」
ルナは首をかしげてアリアを見つめた。
「昔のことです。ルナちゃん。今はただのアリアです。ゆえあって、今はここで暮らしています」
メリダは一同を見回したあと、軽く手を叩いた。
「はい、わたくしたちのことも話しましたわ」
メリダは立ち上がり声を上げる。
「なんと!アリアさんは正真正銘のお姫様だったのですわ」
メリダはアルディア式敬礼をアリアにする。
「よさないか、メリダ。わたしはもう王女ではないのだから…」
アリアの表情が少し硬くなる。
「そうですね。失礼しましたわ。姫さま、いえ、アリアさん」
メリダはあっさりと引き下がった。そしてお茶をぐいっと飲む。上品な咳払いをしたあと話題を変えた。
「では、準備でき次第アルデ州へ参りましょう。アルディアの斥候だけが知っている抜け道がありますわ」
「待ちなさい、メリダ」
アリアは手を上げた。
「こういう話は早いほうがよいのではありませんか? ぐずぐずしていたら手配書がロンフォール中に貼られてしまいますわ」
「アキトがセザールを斬って日が浅いのです。帝国は厳重な警戒網をひいていることでしょう。今すぐ出るのは、下策です。時間の経過は警戒網に綻びを生むと思います。ですから、一ヶ月は普段通り生活し十分に準備したのち発つのが上策であると考えます」
「つまり、アリアさんは手配書の拡散より、時の経過を待つと?」
「そうです。人の記憶は風化していくものですから待つのも策です」
アリアは頷く。
「アキトさんはどう思います?わたくしの案かアリアさんの案か」
メリダがアキトに尋ねる。アキトは少し考えたあと答えた。
「僕もアリアさんの策が良いと思います」
「わかりましたわ。ではアリアさんの案でいくとしますわ」
メリダはあっさりと自分の案を撤回した。
「アキトさんとルナちゃんは一ヶ月も奥の部屋で過ごすことになりますが、大丈夫でしょうか?」
「ルナ、我慢するの」
ルナは胸を張る。
「私が夜になったら毎日ルナちゃんと遊んであげます。だから安心して過ごしてください」
アリアはルナの頭を撫でた。
「うん」
ルナは微笑む。
「では、アリアさんの案で計画を進めますわ」
メリダは手を二度叩いた。そしてアキトを見つめて言った。
「ところで、アキトさん。アリアさんへのお願いは決めましたか。その件についてはぜひともわたくしの案を採用してほしいですわ」
メリダはアキトに頭を軽く下げた。
「えーと…」
アキトの頬は少し赤みを帯びる。
「メリダ、アキトになにを言ったのですか?」
「それはアリアさんには秘密ですわ」
メリダは軽く受け流す。
「ならば、アキトに問います。メリダは何を言ったのですか?」
アリアはアキトに近寄り問い詰めた。
「それはそのぉ…」
「アキト、男ならばためらわないものです」
観念したアキトは、小さな声でつぶやく。
「僕と結婚して子を————」
「なっ!」
さすがのアリアも動揺し頬が赤くなる。
「メリダ、年の差を考えなさい!アキトに失礼ではありませんか!」
「アリアさん、わたくしを叱責するより失礼かどうかはアキトさんに尋ねるものですわ」
「わたくしは12歳も離れているロシュさまが好きですわ。それに比べてアリアさんとアキトさんは7歳しか離れていませんわ」
メリダは引き下がらない。
「アキトも迷惑でしょう?」
アリアが顔を赤らめアキトに尋ねる。
「えーと、そのぉ、決して迷惑ではありません。ただ、僕もどうしていいのか…」
アキトも戸惑う。
「アキト!」
アリアはしばし言葉を失う。
やりとりを見ていたルナが無邪気に口を開く。
「にいにとアリアねえは結婚するの、おめでとうなの」
ルナは両手を上げる。
「やりましたわ、これでアルディア王家に新しい命が誕生しますわ。我らがアキト陛下に敬礼!」
メリダはここぞとばかりにルナの反応に呼応する。
しばしの混乱のあと、アリアは声を張り上げた。
「あなたたち!」
アリアの一言で場が一気に静まり返る。
「私たちは会って間もないのです。こういうことは…」
「こういうことは?」
メリダは追撃を怠らない。アリアは言葉に窮する。そして苦し紛れに言い放つ。
「アキトの願いは保留です!保留です!」
「もう、今日は寝ます」
アリアはそう言い放つとルナと手を繋いで寝室へ向かった。
二人が去ったあと、メリダはアキトにお辞儀した。
「アキトさん、どうかアリアさんのことをよろしくお願いします————」
こうして、アキトが終生忘れることが出来ない四人の決意の夜は終わったのである。
続く




