第45話 手配書
ロンフォール州最大の温泉郷マロム村。
聖なる源泉ユートから途絶えることのない温水が湧き、その豊富な湯量はこの地をテレシア屈指の温泉観光地たらしめている。
テレシアの恒星エリーゼは大地に陽光をやさしく注ぎ込む。
草木の紅葉が陽光に照らされて揺れている。
紅天楼はマロム村のなかにある小さな料亭である。
厨房では料理長ゲンとメリダが食材の仕込みを行い、アリアと手伝いの娘たちが店内の掃除をしていると…
ドンドンドンッ
開店前にもかかわらず扉を叩く音と数人の人影が見えた。
「メリダさん、お客さんですぜ」
メリダは頭を抱える。
「きっとタダ飯食らいのブルトですわ。ゲンさん、いつものあれをお願いしますわ」
「わかりやした」
メリダは扉の方へ駆けていった。
「今、あけますわ。郡長様」
扉を開けると、腹の出ている男が数人の兵士を連れて入ってきた。男は頭が禿げ上がり残り少ない髪を丁寧に整えていた。
「ぁぁうん、女将邪魔するよ」
「ブルト郡長様、今日はどんな御用でしょうか?」
「用はあるんだ。うん。ぁぁ、腹が————」
「わかりましたわ、すぐ、いつものものをお持ちいたしますわ」
ブルトは兵士たちを見て告げる。
「ぁぁ、お前たちはしばし外で待っておれ」
「はっ」
兵士はガルドア式敬礼をしたあと店の外に出ていった。
「ぁぁ、喋っていたら喉も渇いてき————」
「あら、気づかずに失礼しましたわ。郡長様」
メリダはアリアを見て言った。
「アリアさん、とっておきのアルデ産葡萄酒を持ってきてください」
アリアは頷くとなみなみと注がれた葡萄酒のジョッキを持ってきた。
「ぁぁ、アリアちゃん、いつも可愛いねぇ」
「ありがとうございます、郡長様」
アリアはどこか冷めた口調で答える。
しばらくすると厨房から「できやした」というゲンの声が聞こえてくる。
メリダは厨房へ引き返すと皿に乗せた厚切りのジューシーボアのステーキを持ってきた。
「郡長様、いつもお勤めご苦労さまです。こちらはいつものものですわ」
「ぉぉ、これよ、これ」
そういうとブルトは一心不乱に食べ始めた。
メリダもアリアも作り笑いを欠かさない。
ブルトはすべてをものの数分で食べ終え、葡萄酒を一気飲みしたあと口を開いた。
「用というのはね、ぁぁ、うん。これなんだ」
ブルトは一枚の羊皮紙を広げた。
その羊皮紙には、少年と小さな女の子の似顔絵が描いてある。アキトとルナにどことなく似ている。
「手配書なんだ。うん。この手配書を目立つところに今すぐ貼ってほしい」
「それにしても100万帝国ガドの懸賞金って一生遊んで暮らせる金額ですわ、この少年はなにをしたのでしょうか?」
「ぁぁ、なんでも帝国一の剣士セザール様を斬った少年らしい」
「セザール様を!まぁ、なんて恐ろしいことでしょう」
メリダは驚く。
「わかりましたわ、今すぐ貼っておきますわ。郡長様」
メリダは奥からニカワを持ってくると店で一番目立つ柱に手配書を貼り付けた。
「ありがとう、女将。うん」
ブルトは貼り付けた手配書を一瞥したあと立ち上がりゆっくりと去っていった。
メリダはブルトを見送ったあと、店に戻りひとつ息を吐く。
そして、手配書をひと目見たあと声を上げる。
「皆さん、今日もお願いしますわ」
一同は元気な声で応じた。
続く




