第44話 朝
「にいに、起きて。もう、朝なの…」
ルナはアキトを揺する。
「うーん」
「アキト、もう朝です。いつまで寝ているのですか」
アリアが顔を覗き込む。
しだいに、アキトの意識が覚醒してくる。
「ぉ…おはようござ…うわぁ」
アリアの透き通る白い肌と金色の髪が視覚を奪い、彼女の高貴な匂いが嗅覚を襲った…
「人の顔を見て奇声をあげるとは少し失礼ではありませんか、アキト」
「にいにどうしたの?」
ルナはアキトとアリアを交互に見つめて首をかしげる。
「いやぁ、起きたら目の前にアリアさんがいたので…ごめんなさい」
アキトは少し頬を赤らめる。
「まぁ、いいでしょう。朝食です。ダイニングまで来てください」
アキトはバツが悪そうに頷いた。
「私たちは先に向かっています」
そういうとアリアはルナと手を繋いでダイニングに向かっていった。
「にいに、すぐきてなの」
ルナは振り返り手を振った。
アキトは急ぎ支度をしてダイニングへ向かうと全員着席してアキトを待っていた。
「アキトさん、昨日はよく眠れましたか?」
「はい」
アキトは頷く。
「それはよかったですわ。アキトさんも座ってくださいませ」
木で作られた丸テーブルには、黒パン、湯気が立つ赤みがかったスープとチーズがそれぞれに配膳されていた。
アキトはルナとメリダの間に座った。
「では、みなさん朝食にいたしましょう。スープは昨日の残り物ですが、ゲンさんが作ってくれたものなのでおいしいですよ」
「いただくの」
ルナは黒パンを手に取り口に入れる。
「いただきます」
アキトも黒パンに手を伸ばした。
「いただきますとは不思議な言葉ですね、アキト。でも、いい言葉です」
「にいにの国の言葉なの」
ルナは黒パンをかじりながらアリアを見つめた。
「そうでしたか。では、私も"いただきます"」
アリアもそう言うとスプーンでスープを口に運んだ。
「わたくしも"いただきます"ですわ」
メリダも続いた。
穏やかな朝食の時間がゆっくりと過ぎていく。そんなさなかアリアはルナに尋ねた。
「ルナちゃん、もし、私とアキトが喧嘩したらどっちを味方するのかな?」
ルナはちらっとアキトを見つめたあと、小さな声で答えた。
「今度はアリア姉に味方するの」
「そうか、そうか。ルナちゃん」
アリアは満面の笑みでルナの頭を優しく撫でる。
「まあ、アリアさんたら大人げないですわ。ねぇ、アキトさん」
メリダはアキトを見つめた。
「いやぁ…」
アキトは苦笑いをするしかなかった。
朝食も終わった頃、メリダはいたずらっぽい目でアキトとアリアを見つめたあと口を開いた。
「そういえばアリアさん、負けたらアキトさんの言うことを何でも一つ聞くと言っていましたわ」
「確かに言いました」
アリアは軽く頷く。
「でしたら、アキトさんはなにかお願いをするべきですわ」
「そうですねぇ~、アリアさんもいい歳ですし————」
「なにを考えているのですか、メリダ」
アリアは少し動揺してメリダを睨みつけた。
メリダはわざとらしく思案するふりをしている。そして、手を軽く叩いたあと言葉を続けた。
「アキトさん、耳を貸してくださいませ」
メリダはアキトの耳元でひそひそと囁いた。
アキトの顔がしだいに赤くなる。メリダはアキトの表情を見て口元を緩ませた。
「アキトさん、よく考えておいてくださいませ。わたくしたちは店の開店準備をしますので、また、夜にいろいろとお話しましょう」
そういってメリダは立ち上がると片付けをし始めた。
「アキト、メリダの言うことは気にしなくてもよいのですよ」
アリアはアキトに告げた。
「ぇぇと、はい」
アキトはぎこちなく答えた。まだ、顔が赤かった。
続く




