第42話 戦術盤VI
回頭中の艦に対して集中攻撃を開始するアリアの艦隊、いたるところに水柱が上がる。
(回頭が終わった艦から砲撃を開始しよう)
『だめだ。まだ、砲撃してはいけない。ここで砲撃すれば彼女はすぐ気づくだろう。横向きで砲撃することの意味を。全艦回頭が終わるまで悟られてはいけない』
ドゴォーーン!
順次、アキトの艦隊は回頭していく。
回頭中の長門にも砲弾が両舷に一発ずつ当たる。そして、先程からダメージを受けていた艦は回頭中に砲撃を数発食らって沈む。
「ぁぁ…」
メリダが両手で口を塞ぐ。
アキト艦7隻、アリア艦9隻。戦況はアリア側に有利であった。
アリアの左側の艦隊はアキトの艦隊の後方をとるように動き、右側の艦隊はアキトの艦隊に対して艦首を前に出して砲撃を加えていた。
『今だ!右舷砲戦用意!右側の艦隊を狙え!』
サネユキが強い思念を送ってきた。
『我が艦隊と一番距離が近い艦から集中砲撃するんだ!』
(わかった、今だね)
「全艦砲撃開始、目標右01!」
戦術盤は念を送るだけで指示が伝わるのだが、このとき、アキトは声を発した。
一般艦の前後2門の砲塔が右舷に旋回、旗艦長門の4門の砲塔も右舷へ旋回する。
「撃て!!」
16門の砲が一斉に火を噴く。
集中砲撃をくらった艦は火だるまになり沈んでいった。
「次、右02!」
再び集中攻撃をくらった別の艦も火だるまになり沈んでいった。
「その火力は…あっ」
アリアは船の向きが重要であることをすぐに理解したようだ。陸戦とは違い、敵に腹を見せるのがもっとも強いということを思い知る。
しかし、艦列はすぐに修正できるものではなかった。
各個撃破による集中攻撃により、アリア側の右翼艦隊はすべて沈められた。
アキト艦7隻、アリア艦5隻。戦況はアキト側に有利に傾く。
「にいに!やったの!」
「まぁ、アキトさん、すごいですわ」
メリダとルナは抱き合って喜んだ。アリアは全神経を集中して戦術盤を見つめている。
『気を引き締めろ、アキト!まだ彼女の旗艦を沈めたわけではない』
(わかっている)
『あと、悪いが念話はかなりの魔力を使うようだ。そろそろ限界だ。しばらく眠る。船を沈めるには同じ側面を集中して狙え——勝て、アキト』
サネユキはそう言い残すと気配を消した。
(サネユキ…)
返事はなかった。
(ありがとう、サネユキ。サネユキが作ってくれた好機を無駄にはしないよ)
「面舵45度、最大戦速!」
(ここからは僕一人、必ず勝つよ、サネユキ!)
アキトは強く言葉を発した。ルナは目を丸くしてアキトを見つめる。
「にいに、かっこいい」
「アキトさん、人が変わったようですわ」
メリダがつぶやく。
一方、アリアも艦列を整え単縦陣をとる。
「もう、不覚はとりません!」
アリアの表情が引き締まる。
そして、戦いは双方単縦陣を展開しての撃ち合いとなった。
砲弾の雨が双方に注ぐ。艦の周囲には複数の水柱ができ、被弾した船からは火災と黒煙が吹き上げる。
アキトはサネユキに言われたように同じ側面を集中して砲撃を行った。アリアはそれを意識していなかった。
次第に両者の艦は沈んでいく。だが、アリア側のほうがやや早く戦力を失っていく。
アリア艦隊は旗艦を沈めるべく長門に砲撃を集中する。長門は両舷に数発くらうものの戦闘を継続できた。
「なぜ————沈まない?そうか…」
アリアは砲撃を片舷に集中しなかったミスに気づく。
アリアは初めてこの戦術盤で負けることを悟る。アリアの目に薄っすらと涙が浮かぶ。
そして、ついにアリアの旗艦一隻となる。
「左舷砲戦用意!目標アリア旗艦」
長門他残存艦二隻の主砲が左舷を向く。
「撃て!」
アキトは静かに命じた。
アリア旗艦へ集中砲火が続く。そして、ついにアリア旗艦で火災が発生。ほどなく爆発を起こし、沈んでいった。
「やったのぉぉぉ」「やりましたわ!」
ルナとメリダの歓喜の声が紅天楼に響き渡った!!!
戦術盤で負けたことがないアリアが初めて敗北した————
続く




