第41話 戦術盤V
(斥候駒はお互いに一つずつ、なのにいつも先に見つけられる)
アキトは唇を軽く噛む。
『多少の運、不運もある。だが、彼女は可能性の大小を吟味したうえで斥候駒を動かしている』
(前回、前々回同様、このままでは包囲されてしまうよ、サネユキ)
『その可能性は高い。だが、陸戦と同様に包囲戦を考えているならこちらにも勝機はある』
(本当に?)
『今は海での戦いだからだ。もっとも、海での戦い方を知らないという前提で成り立つ賭けだが————』
サネユキはしばらく沈黙したあと、思念を送ってきた。
『発見されてしまったものは仕方ない。このまま隊列を崩さず前進。包囲戦を考えているなら後方から仕掛けてくるはずだ』
(わかった)
アキトは頷く。
戦術盤の海をアキトの艦隊は一直線に進んでいく。しばらくすると————
「アキトさん、後方にアリアさんの船が二隻、迫ってきています!」
メリダが指さす。
(反転して迎撃するべきだろうか?)
『反転すれば、敵も反転するだろう。そして、別方向からの攻撃も考えられる————ここは最後尾の艦に応射させて前進するしかない。四時の方向の艦を集中的に狙い撃て、どこかで仕掛けてくるはずだ』
最後尾の艦とアリアの艦との砲撃戦が始まる。2門対1門による砲撃戦が続く。
ドゴォォン!
ゲームとは思えないリアルな砲声が轟く。
砲撃の応酬が続いた。
11度目の砲撃のとき、最後尾のアキトの艦は火柱を上げて沈んだ。
「にぃにの船…」
ルナが俯く。
アリア艦は次の標的に攻撃を加え始める。
(このままでは…)
アキトの額に汗が流れる。
『今は、耐えるんだ。アキト。彼女はどこかで必ず仕掛けてくる…勝機があるとしたらその瞬間しかない』
7度の砲撃のあとさらに一隻、アキトの艦が沈んだ。
さらに攻撃を仕掛けるアリア艦に対して引き続き、最後尾の艦が応戦。三隻から応射を受けていたアリア艦一隻を沈める。
「なんとかアリアさんの船一隻を沈めましたわ…」
メリダは手を握る。
前方には大きな島がふたつ、島と島の間には細い回廊が見えてきた。
そして————
「左右やや後方にアリアさんの船が4隻ずつ、接近してきますわ!このままでは包囲されてしまいます!」
メリダが声を上げた。
◆ ◆ ◆
アリアの艦隊が左右から距離を詰め始めている。アリア側は隊列を組んでいない分速度が速い。
(左にアリアさんの旗艦がいます。回頭してアリアさんの旗艦を叩くのはどうかな?)
『だめだ。今、回頭しては彼女はすぐ態勢を立て直すだろう。このゲームが平等なら彼女の旗艦もおそらく長門と同じ能力を有している。まず弱い敵から仕留めていくべきだ。故に右の艦隊を撃つべきだが、それは今ではない…』
「アキトさん、このままではアリアさんに挟撃されますわ。挟撃を防ぐには狭路へ逃げ込むしかありません。前方の回廊に逃げればそれを防ぐことができます。急いで!」
メリダは回廊に目を向ける。
(確かに回廊に入れば挟撃を防げる。だけど、なぜ回廊への道を開けているのだろうか?)
『回廊に入るのが、最適解のように思える。だが…それこそ彼女が狙っている策略ではないか?我らを回廊に追い込むためには艦首を向け続けて追い立てる必要がある————』
ドゴォォン!!
左右のアリアの艦隊から砲撃がはじまった。
水柱が上がる。
(応射しよう…)
『待て、まだ距離がある… 今は彼女の思惑通り回廊へ向かう』
アキトの艦隊は回廊へ向けて進む。アリアの口元が一瞬緩む。
ドゴォォン、最後方の艦に砲弾が当たり始める。
その時、アリアの艦隊はアキトの艦隊にほぼ艦首を向けた状態になった。
『今だ!面舵90度。3時の方向へ回頭するんだ!』
サネユキは熱のこもった強い思念を送ってきた。
(わかった、サネユキ…)
アキトの艦隊は回廊に入らず、その手前で先頭艦が右へ回頭を始めた。
艦列は小さな弧を描きながら右へ舵を切った。
「少年、勝負を捨てましたか…ここで回頭など的になるだけです」
アリアは少し落胆した。
「これで少年を救えるのなら、私は容赦しません」
アリアの艦隊は回頭する艦に砲撃を集中し始めた。
続く




