第37話 戦術盤
「少年、いつまで寝てるんですか。もう昼は過ぎました」
昼過ぎても起きないアキトにアリアが声をかける。
「にいに、おきるの」
ルナはアキトの体を揺する。
「ぅぅ…」
アキトの意識が覚醒する。
「!」
アリアの顔が近い。アリアのなんともいえない魅惑的な香りがアキトを襲う。
アキトは慌てて自分の顔をアリアから遠ざけた。
「やっと起きましたか、もう昼飯の時間です」
「にいに、おはようなの」
ルナはアキトが目覚めたことに安堵する。
「夜、少年の知力をこれで試します」
アリアは一枚の大きな金属の板を長机においた。銀白色の板にはなにも描かれていない。
「この板はなんですか?」
アキトは不思議そうに板を見つめた。
「これは戦術盤といいます。この羊皮紙に遊び方が書いてあります。夜までによく読んでおいてください」
「あとゲンさんが作ってくれた昼食がそこにあるから冷めないうちにちゃんと食べてください」
「では、私は仕事に戻ります」
アリアはそういうと足早に去っていった。
木のテーブルの上には湯気立つジューシーバッファローのステーキと野菜の副菜と白パンが置いてあった。
香ばしい肉の匂いが食欲をそそる。
アキトはステーキの切り身を口に入れる。肉は柔らかく甘辛いソースがなんともいえない。
久しぶりに食べるご馳走と今までのことを思い出し目頭が熱くなる。
僕は今確かに生きている————
◆ ◆ ◆
ルナはメリダが用意してくれた人形やお絵描きの道具で遊んでいる。
アキトはアリアから渡された羊皮紙に目を通した。
このゲームは戦う意思をもった二人が相対した時、戦場マップと駒が形成される。
戦場マップの指定されたエリアに駒を置きそれを交互に動かす。先に相手の王を討ったものが勝利者となる。
駒には王、騎兵、槍兵、弓兵、投石機、斥候兵などがある。騎兵は弓兵に強く、弓兵は槍兵に強く、槍兵は騎兵に強い。
地形や部隊の向きや連携が重要である。
故郷ではスマホゲームをよくやっていたが、このようなものは初めてだ。
だが、これは戦場の采配の善し悪しが勝敗を決めるものだということは理解できた。
羊皮紙には地形効果、部隊連携、戦術などが細かく書かれている。それを書いたのはおそらくアリアだろう。彼女が強敵であることは間違いない。
アキトはルナの遊び相手もこなしつつ、その羊皮紙を何度も繰り返し読んだ。
やがて日が暮れ夜のとばりが降りる。
夕食を終えていよいよアリアとの対戦の時となった————
戦術盤がおかれた長机を挟んでアキトとアリアが対峙する。メリダとルナはアキトの後ろで戦術盤を眺めていた。
「では、三回勝負としましょう。私に一度も勝てなかったら少年はレジスタンスなどという命を粗末にする行為はやめてください」
「ちなみにこのゲーム、私は97連勝中です」
アリアは得意げな顔でアキトを見つめた。
「そうですね、メリダは少年の手助けをしてあげてください」
「わかりました。私はアキトさんのサポートに回りますわ。アキトさん遠慮はいりません。私もアリアさんに勝ちたいのです!」
「ルナちゃんも少年を応援なのですか?」
「うん、にいにを応援するの」
「ありがとう、ルナ」
アキトが微笑む。
「ぁぁ、ルナちゃんはたまには私を応援してくれてもよいのですけどね」
「にいに応援するの…」
「そうですか…わかりました」
アリアは少し寂しそうだ。
「では少年、ゲームを始めましょう」
「わかりました、アリアさん」
両者が戦術盤に手を乗せ戦う意思を送る。
戦術盤がキラキラと輝き始めた。
続く
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