第36話 風呂にて
アリアとルナが風呂から戻ってきた。
アリアに手を引かれているルナ。
ルナは紅い浴衣を着ていた。そして髪は綺麗に整えられていた。
アリアは薄い藍色の浴衣を着ていた。リボンで結んでいた後ろ髪はすべて下に降ろしていた。湯にぬれた金髪が神々しく美しい。
アキトはアリアの輝く黄金の髪に一瞬、心を奪われた。
「どうかしました、少年。私に何か言いたいことがあるなら言ってください」
「いえ」
アキトが咄嗟に目をそらす。
「ならよいですが…。さっきルナちゃんと話してまして。今日は私と一緒に寝ることになりました」
「ルナ、アリアお姉と寝るの。にいに、いい?」
ルナがアリアの後ろから顔を出した。
「もちろんいいよ、ルナ。よかったね」
アキトが微笑んだ。
「次は少年の番です。少年も風呂に入って疲れを癒してください」
アリアはアキトを見つめる。
アキトは頷く。
「メリダ、少年のことを頼みます」
「わかりましたわ。アキトさん、風呂はこちらです」
メリダはアキトの手を掴むと風呂場へ案内した。
「お風呂が終わりましたら、声をかけてくださいな」
「はい。ありがとうございます」
アキトは一礼するとお風呂のある部屋に入る。脱衣室にはすでに薄灰色の浴衣が用意されていた。
◆ ◆ ◆
香木でつくられた浴槽に湯が延々と注ぎ込まれている。
アキトは驚く。
これは温泉だ。
湯は仕切り板で流れを制御しているようだ。
この紅天楼は室内に温泉水を取り入れることでほぼ毎日風呂に入れるのだろう。
故郷にいたときは風呂に入るのは当たり前のことだと思っていた。このテレシアに来てからは風呂は特別な日のみ入れるものだった。
アキトは桶で体を流したあと湯船に浸かる。
温かい。疲労した体に染みわたる。
アキトは今までのことを思い出す。
女手一人で育ててくれた母のこと。
未知の世界テレシアで自分を守ってくれた凛々しき戦女神ナガトのこと。
テレシアで初めて家族になってくれた心優しき姉エリナのこと。
テレシアで生きるための知恵を教えてくれた頼れる兄カイトのこと。
ザァーーーー チッチッチッチィーッ リーンリーン…
温水が浴槽に注ぎ込まれる音と秋の虫達の心地よい鳴き声がただ聞こえる。
月の光が湯をキラキラと輝かせる。
人の気配を感じられない、今はアキトただ一人。
「母さん…、ナガト…、エリナ姉さん…カイト兄さん————」
目からあふれてくる涙が抑えられない。もう、声を押さえることはできない。
アキトは泣いた、声をあげて泣いた————
続く
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