第35話 アリア
しばらく泣いた後、アリアに抱擁されているルナがぼつりと呟いた。
「お腹空いたの」
「これは失礼しました。アキトくんとルナちゃんになにか食べるものを作ってきますわ」
「アリアさん、少しの間ふたりをお願いしますね」
「わかった」
アリアは手で涙を拭きながら頷く。
そういうメリダは部屋を出て行った。
「思わずもらい泣きをしてしまった。エリナさんは優しくて心の強い人、カイトさんは強くて頼もしい人…だったのですね」
アリアは静かに呟く。
「はい…ありがとうございます」
アキトはアリアに頭を下げる。
「あのセザールに剣技で勝つ者がいたのですね」
「そして————その少年が今ここにいる」
アリアはアキトをじーと見つめる。
「少年、歳はいくつですか?」
「15歳です」
「そうか、私は22歳。私の方が7歳年上ですね。うーん、よく考えれば私は歳をとったものです」
アリアは苦笑いをする。
「ルナちゃんはいくつかな?」
「10歳なの」
「10歳か。そうかそうか、かわいい盛りですね」
アリアはルナを膝の上に乗せての頭を撫でる。
「で、少年。これからどうするつもりなんですか?」
「————」
アキトは少し考えた後静かに話し始めた。
「反逆罪に問われているのはおそらく僕だけでしょう。ルナは大丈夫だと思うんです」
「だから…ルナを安全なところに預けたあと、兄さんが頼ろうとしていたアルデ州のバッツさんを訪ねてみようと思います」
「兄に、ルナもいくの。兄にがいなくなるのはやなの」
ルナはまた泣き顔になる。
「だめですよ、少年。ルナちゃんをこれ以上悲しませてはいけません」
「ですが…」
アキトは言葉に詰まる。
「少年はアルディアの者ではありません。レジスタンスになって帝国と戦う必要もないのですよ」
「ルミナリア魔道国へ逃げるのも手です。魔女サイファが治める国ですが、帝国とは中立を貫いています」
アキトはしばし沈黙する。アリアはルナを膝に乗せながらアキトを見ている。
「僕は・・・兄さんと姉さんのような悲劇を二度と見たくない」
「そのためには帝国を打倒するしかない。僕にそんなことできるか分かりませんが————」
「だから、僕はアルデ州へ行きレジスタンスになりたい」
「そう…ですか。その道は多くの血を流すことになります。命を失うこともあります、それでもですか?」
「分かっています」
アキトは頷く。
「私もその思いは分かります。ですが、力だけではそれはかなわない。頭の良さも必要です」
「ゆえに明日、私が少年の知力を測ってあげます、いいですか?」
「知力ですか…」
アキトは戸惑う。
「このアリアお姉さんが少年の甘さを身をもって教えてあげます、ふふっ」
アリアは不敵に笑った。
その時、扉が開きメリダが料理を乗せたお盆を持って帰ってきた。
「アキトさん、ルナちゃん、お食事ができましたわ」
野菜と肉のスープからは湯気と食欲をそそる匂いが漂ってきた。
「アリアさん、お風呂の用意をしてあげてください」
「分かりました」
アリアは頷くと膝の上に乗せていたルナを降ろし部屋を出て行った。
「さあ、食べてくださいな」
メリダは二人に手を差し伸べた。
「ありがとうございます、メリダさん」
「ありがとうなの」
アキトはスープをスプーンで掬い味わう。とろみのあるスープ。なんと美味しいことか。
ルナははちみつで味付けした白パンを口に入れる。
「おいしいのぉ」
ルナは夢中でスープと白パンを食べ始めた。
「美味しいです。メリダさん」
アキトの目から一筋の涙がこぼれる。
こうして、二人は久しぶりに温かい食事を食べることができたのだった。
続く
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