第34話 紅天楼
日は落ち空には満天の星空が輝いていた。夜風がひんやりと肌を冷やす。
アキトは周囲を警戒する。人の目がないことを確認したあと、ルナの手を引きながら紅い建物を目指した。
注意深く正面の入り口を観察する。木の看板には『紅天楼』と書かれていた。
二人は目と目とを合わせて頷くと裏口に回った。
トントンッ
アキトは軽く木の扉を叩いた。
扉を叩く音と虫の鳴き声が聞こえるだけだった。
ドンドンドンッ
強く扉を叩いた。奥から声が聞こえる。
「誰ですか?用があるなら表からにしてもらいたいものだわ」
足音が近づいてくる。そして止まった。
アキトは囁いた。
「アルディアよ、永遠に…」
辺りの音がなくなったかのごとく静まり返る。
扉の向こう側の雰囲気が明らかに変わった。
扉が開くとどことなく気品のある女性が無言で二人に手招きをした。
女性は二人を紅天楼へ迎え入れると静かに扉を閉めた。
そして、二人は丸机のある部屋に通された。
女性が口を開いた。
「まずはお二人さん、座ってくださいな」
二人は丸机の側にある椅子に座った。
「私はメリダと申します。あなたたちは?」
「僕はアキトです」
「見ず知らずの僕たちを家にいれてくださりありがとうございます」
「私ルナ。ありがとうなの」
二人はメリダにお辞儀をした。
「まずはあなたたちの話を聞かせてもらいたいわ。よろしいかしら?」
「わかりました。よろしくお願いします」
「僕たちはロシュフォードさんに助けられて…そして…生き延びるために、ここに行くようにと…」
アキトはロシュフォードから渡されたネックレスをメリダに見せた。
「少し見せてくださいな」
メリダはネックレスを受け取ると掌に乗せ観察した。
「確かにロシュさんのだわ。あのロシュさんがあなたたちを助けるに値すると判断したということだわ…」
メリダは少し二人を見つめた。そして微笑む。
「今お茶をお出ししますので、少し待っててくださいな」
メリダは退出し、しばらくすると温かいお茶をお盆に乗せて帰ってきた。
アキトは隣の部屋に人の気配を感じる。ただ、その気配には敵意は感じられなかった。
そしてお茶をそれぞれのところに置いた。
「ありがとうなの」
ルナは出されたお茶をコクコクと飲んだ。
「では、僕たちのことをお話します」
「お願いしますわ」
アキトは静かにこれまで起こったことをメリダに話した————
◆ ◆ ◆
アキトは数時間、今までのことを静かに話した。
途中エリナの話になるとルナが泣きだし、セザールを斬った話にメリダは目を見開いた。
そしてすべてを話し終えた。
ルナの小さな泣き声だけが部屋に響く。
メリダが口を開いた。
「あなたたちは大切な人達を失ってきたのですね…」
メリダは目を閉じ短く祈りを捧げた。そして再び目を開く。
「愛し合う二人を引き裂いた。帝国の法は野蛮で理不尽…許せないわ」
「私があなたたちを保護するから安心してくださいな」
「こうみえても、私はアルディア王国の元メイドですから」
メリダは隣の部屋に目線を移す。そして声を発した。
「アリアさん、もういいから出てきなさいな」
隣の部屋の扉が開く。
パタンッ、タツ、タツ、タツ
金髪の髪をリボンで後ろで結んだ美麗な乙女がこちらへ歩いてきた。
ポニーテールの乙女の目は涙で潤んでいた。
「話はすべて聞かせてもらいました、少年、そして少女よ…」
「あたしの名前はアリア…ぅぅぅ」
アリアは涙ぐむ。
アキトはロシュフォードが言っていたことを思い出す。この人だ。
アリアはルナの前にいくと優しくルナを抱きしめた。
そして————二人は一緒に泣き続けるのだった。
続く
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