第33話 東へ
二人の涙が枯れた頃合いを見計らいロシュフォードが口を開いた。
「今は帝国から逃げるしかない。だが、アルデ州への山道の出口はおそらく塞がれているだろう」
「そうですね…」
アキトの表情が曇る。
「まずは身を隠すことだ。ここから東の獣道を下ればマロム村に出る。そこに紅天楼がある」
「紅天楼?」
「料亭だ。俺の友人で旧アルディア王国のものがやっている。安心してくれ」
「あまり時間がない。俺が東の獣道まで案内する。急いでくれ」
「わかった」
アキトは頷く。
「にぃに…」
ルナがアキトを見上げる。
「大丈夫だよ、ルナ」
アキトはルナの手を優しく握る。
準備を整え三人は東へ向かった。
しばらく歩くと東へ下る獣道が見えてきた。
「ここを降りれば麓に村がある。紅天楼へ向かえ。紅い建物だ」
「紅天楼の裏口へ向かい扉を叩き"アルディアよ、永遠に"と囁け」
「あと、俺からの個人的な頼みだが・・・」
ロシュフォードは微笑む。
「紅天楼には金髪のポニーテールのお姉さんがいるので仲良くしてやってほしい」
彼は首からネックレスを取り外すとアキトに渡した。
「これを女将に見せろ。俺からだと分かるはずだ」
「わかった」
アキトは頷く。
ロシュフォードは獣道を指さす。
「俺はここまでだ。何としても生き延びるんだ。アキト君」
ロシュフォードは右目の側に手を当ててアルディア式敬礼をすると去っていった。
◆ ◆ ◆
「行こう、ルナ」
「うん、にいに」
アキトはルナの手を握り獣道を下った。
森林から発する心地よい香りと紅葉した木々が二人を優しく包む。
今はロシュフォードの言葉を信じて前に進むしかない。
しばらく進むと————
ザクッザクッと前方から足跡が聞こえてきた。
「ルナ、僕から少し離れて」
ルナは頷くと木の陰に隠れた。アキトはサネユキを抜く。
「グオォォォォォォ」
獣の雄たけびが轟く。そして、目の前に黒い体毛に三日月の白毛が混じる熊のような魔物が姿を現した。
「きゃああああ」
ルナが悲鳴を上げる。
もうルナを守れるのは僕しかいない。だから、必ず切り伏せる!
アキトはサネユキの柄を強く握り気力を注ぎ込む。そして魔物の動きに全神経を集中する。
黒い魔物はアキトとの間合いを少しずつ詰める。そのゆっくりとした足取りには余裕が満ちあふれていた。
そして、間合いを詰め、右手をアキトめがけて振り下ろす。
ズバッ、ボトンッ
サネユキに切られた魔物の右手が地に落ちた。
魔物はありえない光景に絶叫を上げる。
魔物は狂ったように暴れ出しアキトに覆いかぶさろうと全身を傾けてきた。
アキトはすばやく回避する。そして跳躍し魔物の首にサネユキを振り抜く。
ビューーーッ
弧を描いて刃が魔物の首に迫る!
スパンッ、ボト
魔物の首が落ちた。首からは黒血が噴き上げる。
勝負はニ閃で決した。
ドシンッ
黒い魔物は倒れた。しばらく痙攣したあと動かなくなった。
アキトはサネユキを振るい刃についた血を落とした後、鞘に納めた。
「行こう、ルナ」
「うん、にいに!」
アキトはルナの手を握り、二人は獣道を下った。
麓についた頃には日が暮れていた。
目の前には集落が広がっている。マロム村だ。
ルナが紅い建物に気付き、指さす。
「にいに、あれなの」
「そうだね。たぶんロシュフォードさんの言っていた紅天楼だね」
「行こう、ルナ」
二人は紅い建物に向けて歩き始めた。
続く
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