第25話 セザール
村の広場には、多数の騎士や兵士で溢れかえっていた。ガルドア帝国の餓狼の旗が風に揺れている。
その先頭にいる純白の鎧に黄色い髪をした鼻につくイケメンが怒声を上げていた。
「いないとはどういうことだ、テオドール!」
領主テオドールとその後ろに村長のヤンバは地面に額をつけ震えていた。
「ヤンバ、殿下に説明しなさい!」
テオドールは震える声で指示した。
「昼、家を訪れたらすでにいなかったのです。村中を探し回りましたが見当たりませんでした」
ヤンバは慎重に答えた。
「俺様は万座の中、女に逃げられ恥をかかされたわけだ。なぁ、テオドール」
セザールはテオドールの肩を叩く。
「お許しください、殿下」
テオドールの顔は青ざめていた。
村人たちはその顛末を遠くから眺めていた。けして近づこうとはしなかった。
そんな中、ロイドとトムは山鹿を棒に吊るして帰ってきた。
「ヤンバさん、収穫祭用の獲物をとってきたんだな」
トムが陽気な声で声をかけた。
ヤンバは二人に声をかける。
「セザール殿下の御前だ、お前たちもひれ伏すんだ!!」
セザールはトムとロイドを睨みつける。
二人は驚いた表情を見せた後、武器を手放しひれ伏した。
「お前たち、エリナとカイトを知らないか?」
ヤンバが尋ねる。
「カイトは病気で家にいるんじゃ、エリナさんも一緒では?」
ロイドが答える。
「おい、こいつらは何者だ?」
セザールが怒気を強める。
「この者たちは村の自警団のものです。カイトはその自警団の隊長です」
「カイトとは何者だ?」
「エリナの恋人だったかと…」
「ちっ、そういうことか」
セザールは舌打ちをする。
「お前らカイトとかいう輩の逃亡を手伝ったな?」
セザールはロイドとトムをギロリと睨みつける。
「殿下!俺たちはカイトが逃亡したことを今知ったんだ」
ロイドは必死の形相で訴えた。
「ほーう、怪しいな。ならばお前に問う、奴はどこに逃げた?言ってみろ!」
「カイトならアルデ州に逃げたと思います」
ロイドは即答した。
「お前、迷いがないな————」
「俺様を謀るとどうなるか分かるよな?」
セザールは剣を抜くとロイドの首に突きつけた。
「俺は本当に知らないんだ。カイトのことだ。ロワーヌの森に潜んでやり過ごしているのかもしれねぇ」
ロイドは震える声で答えた。
「おい、ロシュフォード!ロワーヌの森をくまなく探せ!!」
セザールは頬に傷のある男に指示を出した。
「はっ、ただちに」
ロイドの口が緩む。
ロシュフォードはロイドを一瞥したあと、小隊を率いてロワーヌの森へ向かった。
◆ ◆ ◆
一方、アキト達四人は順調に山道を進んでいた。
小鳥の鳴き声が絶え間なく聞こえ、葉の隙間から陽光がチラチラと輝く。
会話も弾み、みんな笑っている。
まるで家族で秋の行楽を楽しんでいるようにすら思えた。
カイトはルナの様子を見る。
「少し早いが、ここで休むぞ」
小川の横にテントを張り火を熾した。
持ってきた乾燥ソーセージを焼き、豆のスープを作る。乾パンを豆のスープにいれて食べた。
「外で食べる夕食もおいしいの」
ルナは喜ぶ。みんなが笑う。
そして、楽しい夕食は終わった。
「俺とアキトが見張っているからエリナとルナはぐっすり寝るんだ」
「ありがとう、カイト。アキト、無理しないでね」
エリナが言った。
「おやすみなの、デカ兄、アキ兄」
ルナはそういうとエリナと一緒にテントの中に入った。
エリナはルナを抱きかかえて眠りについた。
静かな寝息がテントの中から時折聞こえる。
バリンッ
薪が弾ける音が響く。虫の鳴き声が心地よい。
焚火を囲みカイトとアキトは対峙した。
「アキトにはこれから行くところについて話しておくぞ」
カイトは薪を投げ入れながら言った。アキトは頷く。
「アルデ州はアルディア王国の王都があったところだ。俺達が住んでいたエルダ村もアルディアの一部だった」
「そうなんだ。アルディア王国ってどんな国だったの?」
「そうだな…一言でいうなら民を大切にする国だった。民あってこその国家がアルディアの国是だった。帝国のような理不尽なことはしなかった」
「10年前、帝国との戦争に負けて滅びてしまったがな。だが、アルデ州では今でも帝国に対する抵抗運動が盛んだ」
「俺の親父ガルーダもアルディアの剣士だった。国が滅んじまってから酒浸りだったけどな」
「兄さんのお父さんは?」
「酒が祟って死んでしまった」
カイトは淡々と答える。
「でだ、親父の親友にバッツという男がいるんだ。俺も会ったことはないが噂では大きなレジスタンスを率いてるらしい。そこを訪ねてみようと思う」
「俺はレジスタンスに入って帝国を叩き潰す!そして四人で一緒に暮らすんだ!!」
カイトは拳を握る。
「兄さんならきっとできるよ」
アキトは微笑む。
「あと、万が一のことだ。俺がいなくなったらエリナとルナのことは頼む。アキト」
アキトは不安な表情でカイトを見つめる。
「あくまで万が一の話だ」
カイトはアキトの背中を叩いた。
ゆらゆらと焚火の炎が揺れている。二人は三年間の思い出を語り合った。
「もうこんな時間だな。アキトも寝ろ。俺が見張っておいてやる」
「わかった。時間が来たら起こしてね、兄さん」
「おう」
アキトはテントの中へ入っていった。
続く
評価やレビューなどがあれば励みになります。
よろしくお願いします。




