第19話 告白
アキトがテレシアに来て二度目の秋がやってきた。
背も一年でかなり伸び、体格もガッチリしてきた。
アキトは14歳になった。
今日は収穫祭の日————
「そろそろ、出かけましょう」
「うん、兄にも早くなの」
「今行くよ」
夕陽が辺りを朱色に照らす。涼しい風が心地よい。
三人は家を出て村の広場へ向かった。
いくつか屋台が並び立っている。
カイト達自警団の三人組は屋台の一つで串焼きを焼いて村の人に配っていた。
カイトがエリナ達に気付き声をかけた。
「あ、エリナしゃん、こんばんわだ」
エリナを見るとカイトの調子がおかしくなる。
「よお、アキト、ルナちゃん待ってたぞ」
「これが男の串焼きだぜ」
カイトはそれぞれに串焼きを配った。
「カイトさん、ありがとうございます」
「ありがとうなの」
「ありがとう、カイトさん」
ルナは大きな口をあけて食べた。
肉汁が口の中でとろける。
「お肉がやわらかいの、とってもおいしいの」
ルナはご満悦の様子だ。
エリナはルナの様子を微笑みながら見ていた。
カイトはエリナを見つめて話しかけた。
「あぁ、エリナさん」
「はい」
「えーと、あのー、だな」
カイトが言葉を詰まらせていると後ろから背中を大きく叩かれた。
「カイト、やれ、ためらうな」
ロイドが言った。
「エリナさんの前だとカイトはへろへろだなぁ」
トムは苦笑いをした。
「うるさいぞ、トム」
「ぉぉ、こわいこわいなぁ」
トムは後ろに下がった。
「ああ、エリナさん、後で俺とおどろし、踊ってくれないか?」
カイトは言い切った。
「はい、カイトさん」
エリナは微笑んだ。
「ありがとうだ、エリナさん」
「やったじゃねーか、カイト」
ロイドはカイトの肩を二度叩いた。
和やかな空気の中、時は進み、やがて日は沈み綺麗な星空が広がった。
広場の周囲には松明が掲げられた。広場の中央には篝火が燃え上がった。
村長ヤンバは村で採れた小麦の束とアルデ豆を篝火に投げ入れ、村人たちは豊穣の神フィーナに祈りを捧げた。
三人の村人が笛、太鼓、フィドルを持ち演奏が始まった。
◆ ◆ ◆
村人たちは演奏に合わせて踊り出した。
「エリナさん」
カイトは大きな手を差し出した。
「はい、カイトさん」
去年の収穫祭ではエリナ、ルナ、アキト。三人で手を繋いで踊った。
今年は違う。
「姉ね…」
それをみていたルナは少し寂しげに言った。
「アキト、ルナを頼みます」
エリナはそういうとカイトの手を取った。
ルナにとっては姉が自分から初めて離れたと感じたのだろう。
アキトにはルナの気持ちを痛いほど理解できた。アキトはルナの手を掴むと優しく握った。
「兄に…」
二人はくっついてカイトとエリナの踊る様子を眺めていた。
薪が焼かれて弾ける音と演奏される音色が響く。
カイトとエリナは踊る。
蒼き月レイズの光が二人を優しく包む。世界には二人しかいないがごとくに————
カイトが口を開き話す。
「エリナさん」
「はい、カイトさん」
「いつも、粗暴な俺にやさしくしてくれてあるが…」
カイトは緊張のあまり用意していた言葉を忘れてしまった。
カイトの頭の中が真っ白になる。
二人は沈黙し見つめ合う。
時がしばらく止まる。
そして————
「好きだぞ、俺と結婚してくれないか!!!エリナさん」
カイトは声をふり絞り叫ぶ。
音楽が止まる。踊っていた村人たちの目がふたりに集中した。
バチ、バチ、バチンッ
薪が焼かれて弾ける音だけが聞こえた。
全員がエリナの言葉を待っていた。二人の顔は赤い。
エリナは胸に手を当てた。そして口を開き言葉を発した。
「カイトさん、気持ちを伝えてくれてありがとう」
エリナは微笑む。
「ちゃんと私と付き合ってください。まずは、私を知ってください」
「結婚については前向きに考えます」
エリナは凛とした声で告げた。
「つまりそれは————」
「はい、カイトさん。私もカイトさんが好きですよ」
エリナは満面の笑みを浮かべた。
村人から歓声と大きな拍手があがった。
エリナにはルナとアキトが駆け寄り、カイトにはロイドとトムが駆け寄った。
「よくやった、カイト」
ロイドはカイトの背中を二度叩き言った。
「いいなぁ、カイトは。おいらにもいい人いないかな」
トムは相変わらずマイペースだ。
「姉ね…」
ルナはエリナに抱きつき泣いた。
アキトはその様子をただ静かに見ていた。
アキトにとって終生忘れることができない収穫祭の日となった————
続く
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